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社長はYouTuber? 佐賀県のローカルスーパー「ファインズたけだ」が日本一面白いワケ

厳しい事業環境下で多くのローカルチェーンのスーパーマーケットが苦境にあえぐ中、ユニークな戦略により注目を浴びている店が佐賀県にある。“日本一面白いスーパー”を掲げるファインズたけだ(企業名:SMAT、竹田智史社長)は、YouTubeやTikTokによる動画配信で人気を獲得している、珍しいローカルスーパーだ。この記事では、ファインズたけだがどうやって動画配信に活路を見出したのか、あわせてローカルスーパーが生き残るための処方箋について考察する。

片道4時間かけてお客が来る?驚異のローカルスーパー

 大手スーパーマーケットがその勢力を着々と拡大しつつあるとはいえ、地方に行けばまだまだそこにしかないローカルスーパーの支持率は高い。しかし、コロナ禍による内食需要の増加で一時の盛り上がりはあったものの、残念ながらその多くは売上減少に苦しんでおり、中には崖っぷちに立たされている店もあるのが現状である。そこには、消費者トレンドの変化に対する対応の遅れ、ドラッグストア・コンビニエンスストアといった業態のスーパーマーケット化や大手スーパーマーケット企業の宅配強化、地方の卸売市場衰退、店舗の改装遅れや老朽化などさまざまな要因が絡んでいるだけに解決は容易ではない。

 そんな逆境にも負けず、独自の方法で生き残りを図り成功を収めているローカルスーパーもある。焼き物でその名を知られる伊万里市で、地元の食生活を支えてきた「ファインズたけだ」もその1つだ。もともと小売業を営んできた家系で、社長である竹田氏の父親もスーパーマーケットを経営していたという。外部のスーパーマーケットで経験を積んだ竹田氏が、父親から母親へと引き継がれていた家業をさらに継承したのが、現在のファインズたけだだ。鮮魚に強みがあるものの一見は平均的なスーパーマーケットで、かつ1店舗のみという、プロフィールだけ見れば他のローカルスーパーと変わらないようにも見える。ところが、車で片道4時間かかる北九州市から、「動画を見て、旅行のついでに」とお客が来ることもあるという強い集客力を発揮している店でもあるのだ。

知識ゼロからスタートした動画制作

 「おたくのネット対応遅れているよ」。前社長だった母親が、商工会議所の会合でそんな忠告を受けたのがきっかけだった。忠告を受けてよく周りを見渡してみれば、確かにGoogleマップに掲載される店舗情報も不正確なままで、「店に関して正しい情報、詳しい情報をまったく発信できていなかったことに気づいた」と同社竹田智史社長は話す。

 情報を広く周知するためにはどうすれば良いか、ということを突き詰めた結果、動画配信に行き着いたのが今から4年前のことだ。ただし、当時はまだ動画配信というものがメジャーになる前だった。竹田氏自身に動画制作経験があるわけでもない。動画編集のノウハウもまだまだ特別なもので、容易に手に入るものではなかった。

 そこで竹田氏は、自ら動画編集経験者に話を聞きに行ったり、YouTuberが集まるオフ会に参加し情報交換をしたりして技術を磨いた。このチャレンジ精神が実を結び、今ではTikTokのフォロワー2万8000人(22年3月現在)、総「いいね」数は80万を超えるまでになった。10分程度の長さの企画動画をYouTubeで、店内で放送している独特のユニークなアナウンスを切り取ったショート動画などを主にTikTokで配信しており、現在の傾向としてはショート動画の反応が良いという。「店の雰囲気がわかる」「ライブ感が楽しめる」などの感想がショート動画には寄せられており、「実際に自分の目でパフォーマンスを見てみたい」「行って雰囲気を味わってみたい」という来店動機の喚起に役立っている。

TikTokのトップページ。動画のサムネイルを見るだけで楽しそうな雰囲気が伝わってくる

 ここで欠かすことができないのが、実弟である副社長・竹田温史氏の存在だ。もともと目立ちたがりで表に出ることが大好きな性格だという温史氏。動画内では芸人顔負けの活躍ぶりで、歌って踊れるメインキャストとしての役割を温史氏が、動画企画や編集などを主に兄である智史氏が行っているという。

 企画力や編集力にも驚かされる。「副社長にストリート替え歌で勝ったら1000円」「スーパーマーケットの店員によるサイン会をやってみたら面白いことになった」など、一見スーパーマーケットが作ったとは思えない動画が並ぶ。テロップや効果音の使い方も流行を押さえており、スーパーマーケットのPR動画を見ているというよりはお笑いチャンネルを見ている感覚だ。こういった斬新さや、純粋に楽しみながら見ることができる点が、かえって店への興味を惹きつける要因になっていそうだ。

ローカルスーパーがこれだけはやっておくべきデジタル施策

 デジタル面で遅れを取りがちなローカルスーパーが、いわゆるデジタルマーケティングを考えるとき、どこから手を付けるべきかについて竹田氏はGoogleでのビジネスプロフィールの充実を挙げる。これは、Googleマップや検索結果で表示される店舗情報などのことで、「デジタルのことが何もわからなくても、これだけは必ずやっておくべき。特にコロナ禍で営業時間が短期的に変わる今、まず検索してから店を訪れるお客さまは非常に多い」と話す。

社長の竹田智史氏(右)と、実弟で副社長の温史氏(左)

 次に、「今、生き残っているローカルスーパーには、大手にはできないイベントや商品など何かしらの強みが必ずあるはず。それをよく掘り下げてみることが大切」(竹田氏)だという。ファインズたけだの場合には、それがユニークな店内アナウンスや、動画配信以前から行っている「ラーメン積み上げ大会」「半額シールを貼りまくるじゃんけん大会」などのオリジナルイベントだった。この強みを認識し、動画という形に昇華させたことが、SNSマーケティング成功の要だったと言っても良いだろう。

 竹田氏は今、次なる研究対象にねらいを定めている。それはInstagramやYouTube広告の活用だ。動画広告は地方企業の参入がまだ少なく、地元でのインパクトが大きい。現在は適切なターゲット設定やコンテンツについて研究中だという。

 自らの強みや独自性を地域にそして全国に発信するSNSマーケティングは、ローカルスーパーの生き残りに関して非常に有効な武器になる可能性を秘めている。