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無料の会員誌がフリマアプリで売れる? コロナ禍で強さを見せたコストコのブランド戦略に迫る

会員制倉庫型店舗という特徴的な業態で、コロナ禍で売上を大きく伸ばしているコストコホールセールジャパン(神奈川県、以下:コストコ)。実は、一部の会員向けに配布されている会員誌「Costco Connection(コストココネクション)」がひそかに人気を集めている。そんなコストココネクションの中身は一体どのようなものなのか。編集方針やコストコのブランディング戦略における会員誌の役割などについて取材した。

会員なら誰でももらえるわけではない会員誌

 コストココネクションはコストコ会員向け雑誌で、隔月で年に6回、それぞれ約27万部発行されている。本国である米コストコ(Costco)でも、1987年から同名の会員誌が発行されており、現在は約1200万部もの発行部数があるという。日本では2015年に年4回の季刊誌としてスタートし、20年からは年6回の発行になった。コストコ倉庫店での会計時に配布されるが、「会員であれば全員が配布対象になるというわけではない」と、担当者は話す。明確な基準については公開していないが、購入額や来店頻度などが一部判断基準となるようだ。

 コストココネクションは紙媒体の発行と同時にWeb版も公開され、会員・非会員に関わらずバックナンバーを含めて自由に閲覧することができる。それにも関わらず、「実物(紙媒体)を手に入れたい」というコストコファンが多く見られることが特徴だ。「コストココネクションをもらう方法」を独自に探ったブログなどが存在しており、またフリマアプリに出品されているケースも目立つ。全員がもらえるわけではないとはいえ本来無料で、紙媒体にこだわらなければ誰でも見ることができる会員誌に価値がつくのはなぜだろうか。

顧客をより“コストコ沼”に引き込む

 日本で発行されているコストココネクションは英語版をベースに翻訳されたものではなく、全ページ独自に制作されているものだ。
内容は大きく分けて次の3つだ。

 コストコの倉庫店で買物する会員は、「海外のスーパーで買物をしているようだ」という非日常感を抱く人が多い。その非日常感はコストココネクションの誌面にも反映されており、レシピなどでも海外のカルチャーを紹介しながら、新しい楽しみ方を提案するなどの特別感が盛り込まれている。

卵料理のレシピひとつ取ってみても、自宅ではあまり作る機会のない「エッグベネディクト」から、日本ではまだ馴染みのないイスラエルやチュニジア料理が取り上げられている(MARCH 2022号より)

 コストココネクションの発行目的は、一言で言えば「コストコの商品や理念をより知ってもらうこと」だが、担当者はそれを「もっとコストコ沼にはまってもらう」と表現した。具体的な例を挙げると、コストコといえば大容量食品のイメージが強いが、会員歴が長い顧客ほど家電や生活雑貨などの非食品への注目度が上がっていくという。コストコを「食品を購入する場所」と考えている会員が、自然と非食品へ目を向けるのには時間がかかる。コストココネクションを通じて食品・非食品を問わず広く商品を紹介し、さらに特別感を持って演出することで「コストコの幅広い品揃えのより奥に入り込んでもらう」(担当者)スピードを加速する役割をコストココネクションは担っていると言えそうだ。

コストコ会員は他の会員が何を買っているかを知りたがる

 コストココネクションを読むことで「よりコストコ沼にはまる」というカスタマーストーリーを描くのは、あながち過大な期待ではない。なぜなら、「コストコ会員は他の会員が何を買っているのかを知りたがる傾向がある」(担当者)からだ。コストコを訪れた人がSNSに投稿した「購入したもの」「オススメの品」を、熱心に情報収集して回るコストコファンは多く存在する。つまり、会員の多くが「まだ自分の知らない良い商品がある」「コストコにはもっと奥がある」と感じているのだ。

 その“奥”を知ってもらうために、非食品を全面的に紹介する号(2017年秋号)を制作したこともある。2018年冬号では、コストコの持つさまざまな価値を切り口として商品を紹介する「コストコバリューとはなにか」という特集を組んだ。

非食品を取り上げたページ。タップや電球といったあまりコストコのイメージがない商品にスポットを当てている(AUTUMN 2017号より)

 最近では、「あなたの好きなシーフードは?」「あなたの好きなワインは?」などのアンケートに答えてもらい、翌号以降で結果を発表する「Member POLL」というコーナーを設けている。これも、コストコが顧客のし好をリサーチするというより、他の会員が何を好んでいるかを知りたい顧客の欲求にこたえるものだといえそうだ。

カギは“特別感” コストコの巧みなブランド戦略

 コストコホールセールジャパン 日本支社長のケン・テリオ氏は、21年10月に小誌が行ったインタビューに対し、「ここ1年半の会員数の伸長率は、コロナ以前と比較してさらに高まっている」と述べている。これは、商品を大容量で提供するコストコのコンセプトがコロナ禍でのまとめ買い需要の高まりにフィットしたという側面もあるが、映画館にも遊園地にも行けないコロナ禍での閉塞感が「ワクワク感のあるコストコ」に消費者を誘ったとも言える。事実、同インタビューでテリオ支社長は「来店頻度も約2週間に1回と増加傾向にある」と述べている。これはコストコが消費者のまとめ買い需要だけではなく、エンタメとしての需要にも応えたからではないか。

 ただし、その前提にはコストコの巧みなブランディング戦略がある。そもそもが「会員でなければ原則入店することができない」という特別感に加え、会員にもランクが存在する。ビジネスメンバー(法人会員:年会費4235円)とゴールドスターメンバー(個人会員:年会費4840円)の2種類が基本となり、それぞれ上位のエグゼクティブ会員(年会費9,900円)にアップグレードすることができる。エグゼクティブ会員はより割引特典などが多いが、特典の差に加えて消費者の特別感をより引き出す効果もありそうだ。

 「誰でも買物ができるわけではない」というコストコの特別感と、コストココネクションの「誰でも貰えるわけではない」という特別感には共通しているものがある。あえて門戸を制限することで消費者の特別感や購買意欲を高め、ブランドに触れること自体をエンタメに昇華させるコストコの戦略には学びが多そうだ。