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アパレルはテック企業になる!10年後ユニクロに孕むリスクと世界地図の激変とは

数日前、私は世界の巨大投資銀行のアナリスト達と国際会議に出ていた。ミラノで開催されたその会議には世界各国から産業アナリスト達が登場し、本質的なディベートが開催された。討議は広範囲にわたりいくつかの論点に別けて世界のトップアナリストと意見交換を行った。
さらに私は、僭越にも4月に開催される、ニューヨークとロンドンのセミナー (ウエビナー)に有識者として登壇することになった(日本からはログインできないかもしれない)。本日は、ミラノで議論され、4月の海外講演でメーンテーマとして掲げられている「世界が10年後のアパレル産業をどう見ているのか、そして、10年後の世界地図がどのように代わるのか」について、私の意見を語りたい。なお、議論は相当細かな企業戦略や予想にまで及び、そこで示された数字や事実など公開できない情報には手を加えていることをご留意いただきたい。ただし、本質的な論点は書いていく。

metamorworks/istock

アパレル企業はテック企業となる

私に真っ先に投げられた質問は、「10年後の世界のアパレル企業の姿は何か」である。一般的には、D2C(消費者直接販売)、OMO(オンラインとオフラインの融合)など横文字バズワードを語るだろうが、それらは、散々私が述べたように本質的論点ではない。売り方を進化させても、売るモノに進化がないからだ。

「アパレル企業はテック企業となり、エンジニアが働く場となる」が私の見解で、アナリスト達は強く同意してくれた。

今、流通小売産業は、その生産性の低さからDX(デジタル・トランスフォーメーション)が急務といわれているが、日本の流通企業はほとんどが1億円から5億円の個人事業が中心で、米国のような巨大チェーンストアはごく一部しか存在しない。そんな産業にDXという、ビジネスモデルさえ変化させる改革ができるリソースも資金もあるはずがない。つまり、自前でテック企業へと「変態」できる既存企業はファーストリテイリングなど一握りで、それ以外はどこかの企業の傘下に入って強制的にテック企業となるか、あるいは新興デジタルアパレルが勢力を持つようになり、旧来型企業は駆逐される、と考えればわかりやすい。

既存のアパレル産業では、上場している企業は日本では40数社に過ぎず、一部上場企業の多くは、今回の証券取引所再編において「経過措置」にて、プレミアム市場を、そして上場を維持しているだけだ。さらには上場非上場を問わず数多あるアパレル企業の少なくない企業が、国の政策により、補助金や特別貸付などの資金繰り支援策でゾンビ企業として生きながらえている。

総需要が20億枚に対して、毎年40億枚も投下し20億枚も焼却対象の在庫が量産され、生産数量の半分も余るのが日本の現状だ。この余剰在庫問題は「存在価値のない企業」の営業活動の結果である。これを変えなければ、企業はゾンビ企業の後先見ないディスカウントによる「叩き売り」や、米国動産処理企業がやっている「オフプライス・ストア」とともに、将来有望な若手企業との新陳代謝が遅れて共倒れになることを私は繰り返し指摘してきた。これは異常な状況なのである。

グローバルの視点でみてみれば、外資アパレルやECが世界戦を繰り広げ、中国のSheinのように新陳代謝が起きた国の新興勢力に勝てるイメージは全く持てないほど、コスト構造やビジネスモデルが違う状況が続いている。

 

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ユニクロ一強の理由を誰も分かっていない愚

ファーストリテイリングが世界一になる頃には、日本のアパレル企業は約半分になり、余剰生産問題も解決されている(bee32/istock)

次の論点が「ユニクロ一強」だ。7.5兆円ある国内市場において、ユニクロだけで8000億円、g.u.2500億円を占めている。ファーストリテイリング全体で国内で1兆円以上の売上を上げているのである。

私は、次世代を担うアパレル業界の若手幹部候補層に「なぜユニクロ一強が進んでいるのか?」と聞いた。「ベーシックに特化して、特定のセグメントに依存しないからだ」と、多くが教科書に書いてあるような答えだった。

そこで「では、なぜ、g.u.2500億円もあるのか?ベーシックに特化すれば8000億円規模にもなるなら、君の会社でもやればいいじゃないか」と聞けば、まともに答えられた人はゼロだ。あなたなら、この質問に答えられるだろうか? 

産業崩壊ともいわれはじめているアパレル産業で一社だけが世界企業になっているこの不思議から、同社の原宿進出時には「こんなものはファッションじゃない」と認めず、ここまででかくなれば「彼らは例外だ」と、また、思考の深みから逃げてゆく。一強の理由や、他社が真似できない参入障壁は何か、という経営の基本さえわかっていない。

世界のトップアパレルには大御所の感覚経営はない

 ユニクロ含め、1ブランドで1兆円近い売上*を誇っている世界のトップに君臨するアパレル企業に、感覚頼みの「大御所」はいない
*LVMHやリシュモングループなどは、多彩なMDやブランド群で構成され、1ブランドあたり売上は1兆円もない

トップメゾンは、全くビジネスモデルが違うことは断っておこう。例えば、LVMHの「カシミヤを着たオオカミ」、ベルナール・アルノー氏は企業買収とビジネスの専門家でクリエイター、デザイナーではない。メゾンのビジネスモデルは別途解説したい。日本のアパレルに未来があると無責任に語り、基礎的な分析を怠って、成功事例として、このようなトップメゾンの事例ばかりを出す日本人研究者が的外れな議論をしているから、真実を正確に知っておく必要があるからだ。

考えてもらいたい。ユニクロは「ファッション・ポジション」から遠ざかり、ZARAやH&Mは、彼ら欧州のアナリストによれば「デジタルデータ」による解析でトレンド分析しているとのことだ。思えば、10年で15000億円に成長した中国のSheinも、デジタル・マーケティングがトレンド解析のエンジンだ

つまり、世界のモンスターになるためには、日本で信じられている「大御所の感覚予測」ではダメだということなのだ。そうなると、MD構築後のオペレーションは、PLM (Product lifecycle management)でほとんどが制御可能だ。Sheinのように、数千という中小の工場の残反、残品をクラウドに挙げシンガポールで集まったビッグデータと突き合わせし、AI が、広州工場が持つ膨大な原材料や残在庫の数をすべて解析、数万という世界中から集められた顧客からの注文を捌く。

このことからも、世界規模に展開するアパレル企業は「テック企業」になることは必然である。海外の有識者は「非常に斬新だが、リアリティのある視点だ」といってくれた。

ユニクロは世界一になれるのか?

柳井正社長 (写真はロイター)

次に我々の議論は「この先10年後ZARA、H&M、ユニクロは依然トップに君臨しているのか否か」へと移った。まず、彼らの欧州アパレルの予想は「これ以上成長は見込めない」「さまざまな数字、KPIを分析しても成長はストップする」というものだったが、私はここに異を唱え持論を展開した。以下、私の主張は以下のようなものだ。

我々は、いまだかつて人類が経験したことがない、経済の第二ステージ。つまり、サステイナブル経済に移行しており、企業の勝敗のメトリクス(尺度)が大きく変わるが、そのメジャーメントは欧州から出てくる可能性が高いというものだ。実際、ZARAHM、ユニクロの世界のビッグ3で、米国輸入が禁止され、中国の綿糸の使用を疑われ、フランスで当局に査察に入られたのはユニクロだけだ。私は、日経新聞でこうした人権問題は国主導でやるもので、今回のユニクロに非があるとは思えないと答えた。政府が「人権デューデリ」をやる前の、211217日の日経本紙で、私が持論を発表しているのがその証拠だ。

このように論点は、資本主義1.0の世界では、欧州アナリストが示すような分析は可能だが、資本主義2.0 (サステイナブル経済下)において、企業価値を計るのは本当に売上・利益なのか、ということである。古くから「私たちはとうの昔にやっていたぞ」といえる欧州アパレルが有利なことは明白だ。例えるなら、野球のルールを突然変え、三振でなく4回ストライクをとらねばアウトにならない、と言い出すようなものだ。少なくとも、我々アジア人はそう思うだろう。

もう一つが、私は過去、「ユニクロは早晩世界一のアパレル企業になる」と答えたが、その根拠は肥沃な成長余地を持つアジアにZARAH&M以上に店舗をもっているからだ。しかし、そのアジアでユニクロは負けはじめている。つい最近、32日の日経新聞の報道によれば、ユニクロの国内市場での売上は、コロナが猛威を振るう昨年対比でなんと14%減。しかも、7ヶ月連続で昨対比マイナスとなっているようだ。確かに、第一四半期の説明では、9-10は暖冬により売れなかったが、それ以降、特に今年に入って寒さは極寒の如く、私もダウンの行方次第で勝敗が決まるなどと述べていただけに、この減少は残念以外の何者でもなかった。

私は、欧州ビッグアパレルが「後出しじゃんけん」の如く、「これがESG経営だ」といって、従来の「より大きく、より高く(売上と利益)」という軸に、異なるルールを持ち込み、勝ち方の定義を変えて挑んでくるだろう。また、ファーストリテイリングは国の産業政策や米中経済戦争の狭間に囲まれ、思い通りに経営ができなくなる可能性があることを加え、必ずしも欧州アパレルの失速は正しい分析ではないことを述べた。

これも、彼らは「極めてユニークだがあり得る話だ」と評価をしてくれた。

不気味な中国企業の動向とこれからをどう読むか

Sheinの大躍進はどこまで続くのか?

そして、我々の議論は当日のハイライトである中国に進む。彼らが最も気にしていたのはSheinで、「3日で3000SKUを生産できる」などという分析は「あり得ない話」と、無視をしており、世界で起きている「インフレーション」との関係、スマートファクトリーなど存在せず、広州の縫製工場ビルに残された在庫をどのようにビッグデータ化しているのか、また、その活用方法や、次のモンスターが現れるのか、などの質問や討議が矢継ぎ早にでてきた。

私の答えは、「中国はもはや米国に次ぐデジタル国家となっており、自国民は世界一のプライドをもっており、昔のように途上国成金国家がブランドモノを買いあさるようなことは今後は起きない」ということ。「したがって、“より高く、より大きく”の資本主義1.0で頭角を表すのは、皮肉にも共産主義国家の中国企業の可能性が高く、日本企業のブランドは次々と買収の対象になるだろう」というものだ。

実際、マークスタイラー、レナウン、バロックジャパンなど、日本を代表するブランドが既に中国資本となっていること(レナウンは、ダーバンのみ小泉アパレルが引き受けた)を説明したところ、驚いていた。ただし、その中国リスクは、やはり「SDGs」であり、例えば、数千という中小工場で数千SKUを安価に買い取って越境ECで販売するモデルは、早晩行き詰まる可能性が高い」と説明した。

その理由は、アパレルビジネスで環境負荷を与える工程は生産工程であり、今後、アパレル企業には、こうした素材、使用薬品、労働者の労働環境などの監視責任、計測責任、管理責任が義務づけられるからだ。つまり、どこの誰が残したかもわからないアパレル企業の「残り物」を、自ら縫製仕様書を書くこともせず(考えてもらいたい、平均単価2ドルで15000億円だ。一枚の商品に仕様書など書くはずがない)、トレーサビリティも製造物責任もあったものではないからだ。

話をまとめると、以下のようになる。

1)欧州アパレルは成長が止まるが、新たな勝ち方の定義を作る
2)ユニクロは伸びしろが極めて大きいが、国家間の政治に翻弄され、また日本市場の将来に希望はない

3)中国企業は経済大国2位がゆえの優等生としての見本と手本を見せなければならず、Sheinのような伝統的ストリートファイティング(現場の穴を利用した勝ち方)で、世界一になっても世界はそれを認めないだろう

つまり、欧州、日本、中国それぞれに、成長の種とリスクをもっているわけだ。

今回提示した論点は、海外有識者との討論を経て醸成された、あくまでも私自身の意見のなかから日本のアパレル関係者に知ってもらいたい、あるいはさらに議論をしたい内容だ。ぜひ、一緒に討議していきたいと思う。

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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