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串カツを「食文化」に 逆境をチャンスに変える串カツ田中の「店舗に縛られない流通戦略」

串カツ田中ホールディングス(東京都/貫啓二社長)の2021年11月期決算が先ごろ発表された。売上高は49億8300万円(対前期比42.8%減)、営業損失は25億8200万円、経常損失は5億400万円、親会社株主に帰属する当期純損失は5億7700万円だった。

串カツ田中はコロナ禍でも着実に進化している

串カツを日本の食文化に

 21年11月期の結果は営業利益、経常利益、最終利益ともに大幅な赤字幅の拡大となった。予想以上に長期化している新型コロナウイルス感染症による営業自粛により、連動して客足が遠のいたかたちだ。

 その意味では、数字のインパクトは確かに大きいものの、激変する経営環境下を乗り切るための取り組みは着実に前進している。実際、安全最優先で自粛要請に対応した店舗運営をする一方で、同社は「悲願達成」へ向けたチャレンジをしっかり行い、コロナ後のV字回復への布石を抜かりなく打っている。

 その悲願とは、長期目標に掲げる「『串カツ田中』の串カツを、日本を代表する食文化にすること」だ。そのために全国1000店舗体制構築をめざすとしているが、これは「食文化にする」ためのマイルストーンに過ぎない。抽象的だが、あくまでも「国民が当たり前のように串カツを口にする状況をつくること」が同社の最大のねらいだ。

店舗への来店減少リスクをとり、串カツのよさを啓蒙

 コロナ禍で同社が行った施策には、本気で悲願達成を目指す意欲が存分にあふれている。わかりやすいのは、自社サイトでの冷凍串カツの販売開始だ。

 店舗営業に制約があるなか、冷凍品の販売は多くの飲食チェーンが打った手だが、同社は併せて、「おうちで串カツ卓上フライヤー」も販売。「コト消費」として串カツを楽しんでもらうため、あえて自宅で体験するためのハードまで提供した。

 やがて明けるコロナ禍を考えれば、冷凍食品で串カツ田中の串カツを楽しんでもらうだけでも十分といえる。自宅で楽しむことが習慣化すれば、客足が遠のく懸念もある。だが、「食文化」にすることを見据えるからこそさらなる一歩を踏み込んだ。

 同社は、コロナ禍で店舗へ行きづらい客が、自宅で串カツを堪能し、コロナ禍が明けたころには「次は店舗で」と考えることに期待しているという。そのため、冷凍食品にはクーポンを付け、来店を促すようにしている。

 大阪のご当地グルメのひとつ、たこ焼き。街のあちこちにたこ焼き屋があるだけでなく、たいていの家庭にたこ焼き器が常備されていることからも、卓上フライヤーとのセット販売は食文化推進にかなった施策といえる。

子供を重要顧客と考える理由

串カツ田中は子供向けサービスを強化している

 居酒屋業態でありながら禁煙化していることも、串カツを誰もが楽しめる食とすることを見据えるからにほかならない。子供が大人になったとき、店舗に帰ってくれば、「外せない食」となった証。そうなれば、「串カツ」は飲食業界で圧倒的な強さを持つことになる。だからこそいま、子供も重要顧客と捉え、来店しやすい環境づくりを優先している。

 コロナ禍における対応策ながら、テイクアウト・デリバリーも積極的に展開している。すでに売上高に占める割合が、営業再開後も10%程度を維持していることから、自宅での串カツもかなり定着しつつある。

 21年3月には串カツの衣を糖質40%オフにリニューアル。揚げ物である串カツは、気軽に口にするにはどうしても罪悪感が伴う。B級グルメに留まるなら現状でも問題はないが、誰もが口にすることをめざすうえでは、ネックとなりかねない。そこで4年もの歳月をかけ、おいしさはそのままで糖質40%オフ、食物繊維5倍、タンパク質1.4倍に改良した。

 肉や野菜を油で揚げて串に刺すだけだと思われがちな串カツだが、同社の串カツ愛は半端ではない。門外不出の秘伝レシピから始まった「串カツ田中」は、提供の仕方から食材に至るまで常に微妙に進化しながら、国民食になるべく磨き上げられている。

時代の変化に順応することが生命線

 この辺りのこだわりは同社の経営方針とも無関係でないだろう。

 「どんな時代においても必要とされる会社・組織・人材になる」――。そう掲げる同社は「時代や環境の変化は、早く、企業や組織、人に求められるものも時代時代で変化していきます。我々は、時代の変化に適切に順応し、どんな時代においても必要とされる 会社・組織・人材になることを目指します」(同社ホームページ)として現状に満足せず進化を続けている。

 「二度付け禁止」は串カツを楽しむ上での独特のルール。コロナ感染対策としてではあるものの、ソースのつけ方・提供方法を変更したことも、「時代の変化に順応する」の有言実行といえるだろう 。

 串カツだけで東証一部上場まで果たした同社。その翌年には子会社で鳥と卵の専門店「鳥玉」を展開。これも時代の変化に合わせた施策といえるだろう。21年11月期では20年12月に2号店の「ららぽーと柏の葉店」を、21年3月に3号店の「イオンモール新利府店」をオープンし、着々と拡大。先行き不透明な経済状況の中でしっかりと二の矢を打っている。

V字回復への手ごたえは十分

 長引くコロナ禍の中で、明るい材料もある。直近の21年11月期の第4四半期は実質半分の営業日数で例年並みの売上を達成。営業さえ許されれば、回復する強い手ごたえはある。それだけに今期は、予断を許さないとしながら、200%のV字回復を見込む。

 08年に出店した世田谷の1号店が同社の原点だ。場所は住宅街で工費も居抜きで最小限に抑えてのスタートだった。飲食の経営に失敗し、最後のつもりで始めた。タイミングもリーマンショック後で、最悪だった。

 コロナ禍で先行きが不透明な状況は飲食店にとっては最悪といってよい状況だ。しかし、こうした状況でも上を向くのが同社の真骨頂。将来、過去を振り返ったとき、この時期が重要なターニングポイントになっているイメージが鮮明に浮かんでくる。