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21年度は1兆5000億円突破か、工場潜入でSheinの実態を暴く!

私の中国ネットワーク(アパレル業務関係者、商社、アパレル、生産工場などの業界人)を活用し、とうとうSheinの広州工場潜入とインタビューに成功した。また、私が再三「Tokyo Showroom city戦略」のベンチマーク企業として、ユニクロが苦戦している中国で連戦連勝を繰り返し、「何か特別な時代の到来」を感じていたTokyo Baseの驚愕の海外戦略の実態を掴んだ。この現地のレポートを公開したい。

zhudifeng/istock

 国潮トレンドが映し出す、日本ブランドの凋落

まずは気になる中国での新型コロナウイルスの感染状況だが、全土に広がっているわけでなく、地域によっては全く影響がでていない場所もある。何事もなかったかのように旧正月(2022年の春節は21日)を過ごしたが、日本と違い、ウイルス感染者が一人でも現れたら強制力をもって封じ込めが行われる。例えば、商業施設で一人でも感染者がでたら、即封鎖。48時間以内にその商業施設にいた人間は外にでることができない。当然、外国人は後回しにされるため、賢明な人間は、そうした人が集まる場所には出向かないそうだ。このあたりの強制力をもった、有無も言わさぬ「ロックダウン」は、日本にないところだろう。

アパレル産業に目を向ければ、私が先週レポートした「国潮トレンド」は中国全土に広がりはじめているが、この「国潮トレンド」は一般に言われている米中経済戦争による報復でなく、世界第2位の経済大国としての自信と誇りが自国の伝統的な文化や芸術、エンタメを見直す風潮に向かったものであり、その結果、中国ブランドに誇りを感じるようになったのが実態だ。特に、30代を境に日本ブランドに対する意識はくっきりと分かれ、未だ、化粧品、食品、ベビー用品などは未だ日本製に「安心、安全」神話はあるも、30代以下に至っては日本製という神通力は全く通用しないようになっているようだ。

中国と言えば、「ブランドパクリ」が平然と横行しているイメージを持っている人も多いだろう。しかし、今は、習近平政権の強化政策とあちこちに仕掛けられた監視カメラによる「マナー違反に対するペナルティ」の怖さから、知的所有権に対する意識は嘘のように高まっているようだ。

 これまでは「日本ブランド」は信頼の対象で、中国ブランドと比べて「上」に見られていた。だが、いまや世界第2位の超大国となった中国の国民からすれば、「上」も「下」もなくなった。ただ、店でどちらがよいかを普通に比較し、日本ブランドが好きならそちらを買うし、中国ブランドならそちらを買うという意識に変わっている。我々が、スマホを買うとき、例えば、フェアにAndroidを事例にするなら、GalaxyXperiaをデザインと機能で選んでいるようなものだ。この二つのどちらが、どの国で作られているかいえる人は何人いるか、いても、そんなことは関係ないだろう。そのレベルまで中国のステータスは上がっている。

 

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すでに“詰んでいる”ライブコマース

Sitthiphong/istock

中国でライブコマースをやろうとすると、日本のようにGoogleがやっているYouTubeのような無料のプラットフォームが使えない。したがって、中国でのSNSによるライブコマースは大手のAlibabaグループのTaobaoプラットフォーム一択となっており、よほどの知名度が無い限り、彼らのライブコマースを活用せざるを得ず、結果、今から中国市場に出ても高い出店料を払った挙句、貴重な顧客データを彼らに吸い取られることになるわけだ。日本の駐在員はVPNを使って、シンガポールや米国経由で、YouTubeなどを見ているが一般消費者には関係ない話である。

いうまでもなく、これからは、国家間の争いは「データ勝負」であり、欧州はじめ、中国でさえ国内で収集したデータを国外に持ち込むことを国の規制で禁止している。そんななか日本のデジタル庁が進めている「デジタルガバメント」は、AmazonGoogleという外資系企業をプラットフォーマーとして選び、「国益」より「安定と実績」を選んだ。日本の将来に危機感を抱いているのは私だけではないだろう。

中国では、もはや「日本に対する憧れ」などない。日本が好きな人は「日本という世界観」が、様々ある世界観の一つとして好きな人もいる、というレベル。もはや絶対的なものではないのだ。さらに、広大な中国では、日本の北海道より上から、沖縄より遙か下まであり、Tシャツとダウンが同時に売れる。ターゲットをエリアごとに絞らなければ、越境ECは成功しない。

 

Sheinを生み出しているのは日本のアパレル

Sheinを生み出しているのは日本のアパレル企業だ

もう1つ、われわれが正しく知らなければならないことがある。それは、中国の進化は確かに目を見張るほどだが、これまでの「不可能」を「可能」に変えるほど、1つの国だけが途方もない未来を歩いているわけではない、ということだ。具体的に言えば、3日で3000SKUもの量産を企画から配送まで可能になるなどという「神話」である。

確かにコロナ禍に入って2年が経ち、海外にも思うように行けないこともあって、中国には「スマートファクトリー」で、ビッグデータから渡された精緻なマーケティングデータを解析し「3日で3000SKU」を生産できるという神話ごとを語るアナリストやコンサルタントがいるのは分からないでもない。しかし、これは技術の進化の問題ではなく、物理的なものづくりの過程における制約の問題なのだ。紡績、染色、パターン、裁断、縫製、洗いなどを実際に見ていなければイメージできないのも分からないでもないが、こうした情報で過剰在庫を積み増す付属企業がいるのも事実なのだ。仮に原材料から調達して商品をつくり納品するためには、物理的に4ヶ月はかかる。

空想の世界を行ったり来たりしても拉致があかないので、私はネットワークを使い、Sheinの工場潜入に成功した。さらに、彼らが活用している中国版PLMベンダーにもヒアリングも行い裏取りもした。

Sheinが行う2タイプのMDとは

SheinMDの正体は2タイプに分かれている。

タイプ1はSPAMD。まず日本をはじめ先進国が残した膨大な残反を、中国版PLMを使い広州全土の協力工場をクラウド・オンラインで結び、それぞれの工場がどの程度の残反を持っているのかをシンガポールのビッグデータにアップロードさせる(スマートファクトリーではない)。その結果、Sheinは、どの工場にどれだけの残反が残っているのかを把握し (これもPLMの標準機能だ) 企画から生地調達までを7日という超短納期で縫製工場に放り込む

タイプ2は、中国全土に出回っている「残品」を安価に買い付け、ブランドネームを付け替えて販売する中国版Shoichiモデル・バイイング(MDとはSPAに使う用語)だ。

以上、2つのモデルミックスを行っていることが明らかになった。さらに、中国本土の情報筋によれば、Shein21年度決算は、なんと15000億円を超えユニクロやZARAを射程距離に入れたとのことだ。もちろん、中国のことだ。どこまで正確な数字か疑わしいが、現地の繊維商社マンによれば、Sheinの売上推移は、2019売上$18億、2020 $68億、21$150億とのことだった。

また彼らは、生産工程のすべてに「Shein型標準コスト」を割り振り、工場に確認する前に、彼らのシステムで自由にコストを算出しCADとつないでいる。この結果、サンプルもつくらないで、製造原価を正しく計測し売上計画が立てられるようになっている。また、協力工場にはそのコストでやらせるように強いているとのことだ。なんとも、中国らしいやりかただが、彼らの平均FOBは米$2.00であることも判明した。オペレーション・ガバナンスから想定するに、SPA型MDは全体の10%以下 (日本の1500億円のアパレルと同じ規模)と想定ででき、90%は想定通り残反、残品の買い付けであるという見解で、我々は一致した。

彼らが使っている工場は、20-30人の小規模工場で(現地ではShein クラスターと呼ばれている)、数千社も密集する団地のような縫製工場をクラウド・ネットワークで結び、あくまでも小ロット生産にこだわっている。これは、残品の買い付けや残反を使っていることから、「売り切れ御免 x 小ロット」にならざるを得ないのではないかと思われる。また、Sheinは、クーリエによる物流を、国ごとに変え、例えば米国にはFedEx。日本にはEMS (国際郵便で、共産主義と相性が良く、商社は中国へ送るときはEMSを使っている)など国の事情によって、国際郵便をベースにクーリエを替えている。

そのように考えると、Sheinの本質が見えてくる。同社は、SDGsに反するファストファッションではなく、先進国が残したゴミの有効活用をしている、極めてSDGsに即したビジネスを展開しているのだ。言い換えれば、Sheinは、日本の「オフプライスストア」と同様の必要悪な存在であり、日本企業のだらしなさを逆手にとったブランド毀損の悪魔の業態だ。

つまり「世界のファストファッションの新たな王*」などと欧米メディアで喧伝されているSheinSheinたらしめているのは、日本を中心とする先進国のアパレル企業の存在なのである。*本質はファストファッションではない、メディアの誤解である

 あえて、リアルだけでまずは攻める!
Tokyo Base驚愕の中国戦略

最後に、「詰まれた」と断じた、中国のライブコマースに対し、反撃に転じたTokyo Baseの驚愕の戦略を紹介しよう。既に述べたように、中国のECはもはやアリババグループのTaobao(淘宝)一択で、世界的知名度のない日本のアパレル企業に選択の余地はない。しかし、Tokyo Baseは全く異なる戦略で、中国で業績を上げているのだ。ご存じの通り、Tokyo Baseは日本でのEC化率は40%を超えているが、中国ではあえてリアル店舗だけの展開で攻めていった。

 日本のアパレルは短絡的にものごとを捉え、中国に進出するためにはTaobaoプラットフォームに入ることは仕方ないと考える。その結果、米国で数多くのアパレルを死滅に追いやった「悪魔との契約」(Death by Amazon)の餌食になってゆく
しかし、Tokyo Baseは同じ轍は踏まない。まだ日本ブランドが通用するいまだからこそ、Made in Japanのブランドをリアル店舗だけでじっとアピールし続けた。Taobaoプラットフォームには、様々な条件を有利に運べる「シックススターズ」という称号があるのだが、これをもらい、Taobaoから「ウチにはいって欲しい」と依頼されるまで、じっと耐えていたのである。出店条件を有利に運ぶ「逆戦略」で、すでに詰まれたライブコマースの下をかいくぐり世界化に道筋をつくったのである。

 いずれにせよ、ここまでの情報を分析すれば、もはや世界化は待ったなし、日本市場の未来がないことは明らかだ。これだけ変化の大きな時代だ。今から10年の戦略を描くため、私たちは正しい情報や分析をする必要がある。もはや自ら工夫し、答えを出し、今すぐにでも世界化に挑まなければ日本のアパレル産業は取り返しの付かない状況に陥るだろう。

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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