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インフルエンサー・プラットフォーマー「Tokyo girls market」驚異の戦略とは

Z世代を分析していると、おもしろいことがどんどん分かってくる。いま、女子達は、ファッション雑誌などは見ず、グラマーと呼ばれる脳内共鳴する「憧れるライフスタイル」を送るインフルエンサーを追いかけていること。そして、企業側の論理で、そのインフルエンサーのライフスタイルとはなんの関係もない商品を、インフルエンサーを使って売ろうとする「インフルエンサーマーケティング」は、消費者が「これはステマだ」と感じた瞬間に、フォローをやめるメカニズムを解説した。こうした罠を理解もせず、マーケティング会社のいいなりになり大枚を失う悲劇はつきない。今回は、バブル世代が理解もしていないInstagramが持つ構造的欠陥を解説するとともに、急成長しているTokyo girls marketという韓国企業Dholic hbl社が展開するインフルエンサー・プラットフォームの驚くべき戦略について解説したい。

 

Instagramを使ったこともないグレイヘア達の分析

グレイヘア達のライブコマース、SNSマーケティングに関する考察を見ると、全く的外れで、明らかに自分で使ったこともなければ触ったこともないことがすぐ分かる。頭の中でそれっぽいことをいってお茶を濁しているのだ。

例えば、女子がInstagramをファッション情報の主たるソース(情報収集元)にしているのはその通りだ。だが、憧れのライフスタイルを持つ人をフォローし、その人が着ている服をクリックしても、その服の企業サイトに飛ぶだけで、そこから、また、数百、数千という商品の中から自分が欲しい商品を探す面倒なプロセスがあり、インスタグラム経由での購買としてはほとんど利用されていないということをみなさんはご存じだろうか?

この論考を読んでいる女性なら、「そんなことは当たり前だ」と思うかもしれないが、ファッション業界で声高に話している人達の多くは、インスタなど自分で触ったこともないから、消費者が憧れのインフルエンサーをフォローしても、その人が着ている服にたどり着かない、あるいは、たどり着くまで莫大な労力がかかるという事実さえしらないのだ。 

また、そもそも自分の着ている服にタグ付けしているインフルエンサーと呼ばれる人は、あえて「企業サイト」にリンクするタグをつけるメリットはない。したがって、こうした人気インフルエンサーと企業間では何らかの金銭授受が行われているか、よほど、そのブランドが好きかいずれかであり、いわゆるダイレクト・コンバージョン(インスタから企業の販売サイトの購買目的の商品に飛んで購買すること)は不可能なのである。こうした、基本的なことをはじめて聞いた男性アナリストやマーケターは、もう一度「三現主義」(現場、現実、現物)を思い出し、自分で誰かをフォローしてその人が着ている服を買ってみれば良い。インスタは企業サイトの広告にはなるが、そこから商品コンバージョンには繋がらないという致命的欠陥が分かるはずだ。

 

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したたかに、日本文化に入り込む韓国企業

活動休止を発表したBTSBlackPinkなど、今、Z世代が狂乱しているのは日本人でなく韓国人アーティストやアイドルグループだ。私もNiziUの大ファンで、クルマで運転中はいつもNiziUをかけている。 

現在の東京ガールズコレクションは、W TOKYOにより企画運営されている

Tokyo Girls Collection 」という日本の一大ファッションイベントを主催していたF1メディア(2008年、朝鮮総連との関係を報道されて離れる)も韓国系の会社だ。私は当時から同社に通って色々な共同事業を提案していたので、韓国人の商魂たくましさに敬意をはらったものだった。このように、日本人の次世代の文化を担うZ世代は、韓国企業に握られている。

また、加えていうなら50代アッパーの女性達も、巣ごもりしてNetflixで韓流ドラマばかり見ているので、韓国に対する好感度は上がる一方だ。韓国と歴史問題で騒いでいるのは政治談義が大好きなグレイヘアか狂信的愛国者だけで、コンプライアンスと予算削減で日に日につまらなくなる日本の民放は誰も観ないようになり、多くの日本人はNetflixHuLuで韓流ドラマを観ている。
その勢いは世界も動かし、人気ドラマ「イカゲーム」はNetflixの株価を米国で恐ろしく上げたほどだ。私も100本以上見たが、シナリオがよく練られておりリアリティもある。日本のつまらないドラマとは比較にならないほどおもしろい。今年の米国アカデミー賞を「パラサイト」という韓流映画がアジアで初の受賞をしたことは、こうした流れを象徴的に表すものだろう。

Tokyo girls marketの衝撃から越境ECを学べ

そこで今回解説したいのが、Tokyo girls market (https://tgm.dholic.co.jp/) である。

Tokyo girls marketは、韓国のアパレル企業Dholic社が運営している韓国企業だ。この会社は、インスタの「企業サイトにしか飛べないため、欲しい商品が探せない」という女子のカスタマージャーニー(服が欲しくなるという段階から、いろいろな情報をあつめ、服を買うまでのプロセス)課題を解決するソリューションプラットフォームである。

 まず、インスタグラム上で「インフルエンサーA」が気になったとする。そこで、このTokyo girls marketに登録すると、同社のサイトへと飛び、例えば、インフルエンサーAの写真だけが集められる。その中から彼女が着ている服をクリックすると「企業サイト」でなく「自社サイトの中で、ターゲットとする商品の購買サイト」にゆきつくのだ

 私は、この一連の動きをみてカラダの震えが止まらなかったほどだ。単にECサイトを中国語で立上げている、あるいは、卸売りに渡してデータベースマーケティングさえやっておらず越境ECだといっている日本企業とここまで戦略が離れているのか、と。

 インスタから特定企業の商品サイトに飛ばないことは知っていたが、自社でインフルエンサーを集め、気に入ったインフルエンサーが着ている服をTokyo girls marketが集め、自社サイトで、ワンクリックで買えるようにする。聞けば、このTokyo girls marketは、女子高生や女子大生の間でどんどん拡大しているという。なおTokyo girls marketは、現在「東京ガールズコレクション」を企画するW TOKYODHOLICの共同事業で行われている。

 これこそ、(韓国からみた)日本から外国への「越境EC」のヒントになるではないか。日本のZ世代という、日本の「オジさん経営者」が理解もしていないセグメントに静かに入り込み、彼女たちのカスタマージャーニー、そして、インスタが持つ構造的な成約と消費者の困りごとを正しく、そして、細かく分析し、それを自社で解決しているのだ。売れないはずがない。

 私が講演をやり、Sheinの話をすると、必ずでてくる質問が、「ではうちはどうやって越境ECで海外に売れば良いのですか」だ。これは、もはや自分で考えトライしてみることを諦め、なにか秘伝のタレはないか、コンサルだったら答えを教えよ、という態度である。こういう他力本願な組織からイノベーションは生まれないし、ましてや、このDholic社がやっているような極めて消費者起点のデジタル戦略は描けない。

 まずは、しっかりその国に入り、その国と同化することだ。知らぬ間に我々は欧米のデジタルガリバー、そして、ファッションやエンタメ市場は韓国に完敗に近づいていることを直視し、どのようにリカバリ戦略をとるか決断の時が来ている。もはや、いまから10年の間に日本市場は今のアパレル企業や商品を吸収するマーケットにはなり得ない。人口が減り続け、働く人も消費する人も少なくなり、国民の賃金は上がらず正規労働者はますます減ってくるからだ。次の世代を担う世代を、海外で稼ぐ戦略を建てるべきなのである。

 

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)