日本体育大学について、30年来の疑問だったことがある。
《体育》の2文字を校名として前面に打ち出しているにもかかわらず、なぜ大学スポーツにおいて日本一になれないのだろう、ということだ。
確かに第89回東京箱根間往復大学駅伝競走では、往路および総合優勝した。
しかしながら、野球、サッカー、ラグビー、アメリカンフットボール…いい線まで行くけれども、日本一になったところを見たためしがなかった。「そりゃあ、まずいだろう」と考えていた。
そんな折に分かったのが、私の通っているテニススクールのTコーチが日本体育大学出身であることだ。
Tコーチの練習方法は独特であり、初めて習う人は、面食らうに違いない。
まず、テニススクールなのに、レッスン開始直後の10分間程度はラケットを握らせてもらえない。
ある時は、フットワーク練習と称して、配置したコーンの周囲を走らせる。ある時は、両手にボール2個ずつを持たせて、手の平でグルグル回させる。また、ある時は、足じゃんけん。鬼ごっこという日もある。
他のコーチのウォーミングアップメニューは、ボレースタート、とほとんど固定化しており、1年中、同じことを繰り返す。
しかし、日によって何が飛び出すか分からないほどTコーチのバリエーションは多く、乗り気ではない日でも、すんなりと練習に入っていくことができる。
Tコーチのレッスンでは、受講生の誰もがウォーミングアップに「疲れた」と感じたころから、ようやくラケットを持ち、ボールを打ち始める。レッスンの序盤戦では打たせてもらえなかった分、その玉数は半端ではなく、どのコーチよりも多く打たせ、走らせる。
受講人数が多い日も、コート半分に最大で8人を詰め込みながらも、窮屈さを感じさせることなく、練習させてくれる。所定時間の90分を終えた頃には、へとへとに疲れ果てるとともに、十分に元を取れた満足感でいっぱいのまま帰路につくことができる。
話を戻すと、Tコーチは日本体育大学の出身だ。
そして、こうしたレッスンを受けるにつけ、学校名に《体育》の文字が入っているからと言って、スポーツが強い必要はない、と思えてきた。
調べてみれば、日本体育大学の英語表記は、《Nippon Sport Science University》となっている。
科学(Science)という文字が入っていることが意外なところ。
建学の精神(理念)は、「體育富強之基」(たいいくふきょうのもとい)であり、「心身の健康」を育み、かつ世界レベルの優秀な競技者・指導者を育成することを追求している。
科学的コーチングの結果なのだろう。
私が在籍するTコーチのクラスは、取り立てて、身体が強そうな人ばかりではないのに、練習中の事故やケガが一切ない。
骨折やアキレス腱断裂など、結構な頻度で起こる“中年テニス”界の中では、極めて珍しいと言える。
日本体育大学は、市井にさえも、素晴らしい指導者を送り込んでいるわけである。
さらに調べてみれば、日本体育大学は、私がイメージしているような「スポーツ日本一」と縁遠い大学ではなく、たとえば、これまでのオリンピック通算メダル獲得数の4分の1は同大学が占める。
ちなみにロンドンオリンピックも日本の総獲得メダル数38個のうち、10個は同大の在校生や卒業生によるものだ。
世界レベルの優秀な競技者・指導者をしっかりと輩出している――。
日本体育大学関係者の方々、勘違いしていてすみませんでした。