大抵の企業には優秀な社員を集めて編成した「経営企画」なるセクションがある。
小売業でも超大手になると、新企画を社長にプレゼンテーションする前に担当部署の長は、「経営企画」と打ち合わせ、当日の内容を事前に説明し、チェックするという。
さて、事前打ち合わせの現場をのぞいてみると…。
Aさん「新フォーマットは延べ床面積1万㎡のハイパーマーケットです。まず、改正まちづくり3法に抵触しないように1万㎡以下を前提にしています。バックヤード比率を20%にしますから、売場面積は8000㎡を考えています」
経営企画(経企)「えっ、20%ですか? 社長は効率面を重視して15%にしたいとおっしゃっていたので、それでは通らないと思いますよ。考え直した方がいいと思います」
Aさん「そうですか、それは困ったな。すぐに部に持ち帰って検討します。じゃあ、次に経費構造についてなんですが、営業利益5%を死守したいと考えています。そのためには、不動産コストを抑え、販売管理費の削減が肝になりますので、立地選定は慎重に進めます。ただ、売上高販売管理費率は14%、粗利益率は19%になりますから、価格競争力は相当持ちえます」
経企「そんな数字、本当に、達成できるんですか? 今回、入居物件は、すでに決まっていますから、物件選定はAさんの部がする必要はありません。1か月1坪で約1万円というところです。だから、そのプランは社長には通らないと思いますよ」
Aさん「えっ? そんなこと聞いていませんよ。大体、月坪1万円では、ハイパーマーケットなんて出店できるわけないじゃないですか?」
経企「決まっているんだから仕方ありません。社長も首をタテには振らないと思いますよ」
Aさん「明日のプレゼンでは次期戦略業態となる新フォーマット開発の方向性を打ち出して欲しいと言われたので、力を入れて企画を立案したのですが、そんな前提条件があるようでは、ハイパーマーケットは無理ですね。至急、通常のGMS(総合スーパー)に切り替えて、明日のプレゼンに臨みます」
経企「そうしてもらえると助かります。がんばって社長プレゼンを通してくださいね。では明日――」
ということで、この企業の次期戦略フォーマットのハイパーマーケットは御蔵入りしてしまった。その後、この企業には、新しいフォーマットは何一つ生まれていない。
なお、この物語はフィクションです。