収益性向上は企業の経営者にとって重要な課題の一つだ。新型コロナウイルスの感染拡大が世界の状況を一変させたように、経営を揺るがすような出来事がいつ起こっても不思議でない昨今、利益を安定的に確保することの重要性はますます高まっている。本書は、営業利益率29%(2020年2月期)という国内屈指の収益性の高さを誇る北の達人コーポレーション(北海道で代表取締役社長を務める木下勝寿氏が、同社の利益確保の手法を解説したビジネス書である。
北の達人コーポレーションは、北海道の特産品のネット販売からスタートし、現在では健康食品や化粧品を中心に取り扱うECを運営する企業だ。本書は8章構成で、「売上最小化が利益最大化につながる」という同社の利益に対する考え方や利益の管理手法、商品政策、マーケティング戦略、人材教育の手法などについて、図表を用いながらわかりやすく解説している。
第3章「会社の弱点が一発でわかる『5段階利益管理』」では、北の達人コーポレーションが用いている独自の管理会計手法について述べている。同社は、各商品・サービスの利益を「①売上総利益(粗利)」「②純粗利」「③販売利益」「④ABC利益」「⑤商品ごと営業利益」の5段階に分けて見える化している。このうち、「②純粗利」「③販売利益」の2つは北の達人コーポレーション独自の指標だ。純粗利はクレジットカードの決済手数料や送料、梱包資材、商品説明のための同封物、ノベルティなどの「注文連動費」を売上総利益から引いた額のことである。販売利益は、純利益から販促費を引いた額を示す。
たとえば、売上は増えているのに利益が伸びていない商品があるとき、純粗利率が下がっていることがある。するとその原因が送料無料キャンペーンを実施したことにより注文連動費が増えたことだとわかる、といった具合に、売上だけ見ていては気づかないようなことを発見しやすくなるのが、5段階利益管理のメリットだ。
本書は北の達人コーポレーションのようなEC事業者だけでなく、将来的な市場縮小により売上成長が難しくなるリアル店舗の小売業にとっても有益な情報を与えてくれるだろう。