[東京 19日 ロイター] – 2021年のIPO(新規株式公開)市場は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)分野の案件などを中心に活況となる見通しだ。昨年上場を見送った大型案件の「再チャレンジ」も注目されている。資金が潤沢な個人投資家や海外勢の参加が引き続き見込まれている。
今年の件数は前年並み以上か
IPO監査・上場支援などを行うEY新日本監査法人のシニアパートナー善方正義氏は、今年のIPO市場について、今年も前年並みかそれ以上の上場件数が見込めそうだと予想する。
「ここ数年で第4次産業革命の主役となるAI(人工知能)やDXといった、既存事業に変革をもたらすことが期待できるスタートアップへの資金流入が国内外で活発化しており、直近でこれらの資金調達を受けた会社が一定規模に成長し、上場時期を迎えつつある」と善方氏は指摘する。
日本取引所によると、20年のIPOは前年比8社増の102社となり、07年以来13年ぶりの高水準となった。年前半はコロナショックの影響に見舞われIPOの中止・延期、公開価格割れが相次いだが、後半では世界的な株高を背景に急速に持ち直した。内訳はマザーズ市場への上場が63社となっている。
20年は、資金吸収額20億円未満の企業がマザーズ市場の全体の約7割を占め、100億円規模の企業はわずか3件と、IPO規模が小さい企業の上場が目立ったが、今年は大型案件が増える可能性が高いという。昨年上場手続きを延期したキオクシアなどの「再チャレンジ」などが見込まれている。
海外勢の参入継続見通し
個人投資家が主体だった新興株市場の需給構造には近年変化がみられており、海外勢のシェアが増加しているのが特徴だ。
東京証券取引所が7日に公表した2020年のマザーズ市場の投資部門別株式売買状況によると、委託取引(全体の93.1%)の内訳は個人投資家が前年の56.53%から54.89%に低下する一方、海外投資家が38.40%から40.33%となった。
東証マザーズ指数はコロナショック時の3月安値から10月高値まで約2.5倍に上昇。それまでは膠着相場が続いていたが、20年の急騰で「世界最強指数」と化し、時価総額上位銘柄に連動し中小型株もつれ高となったことで注目を集めたとみられている。
IPO銘柄の株主構成では、起業家とストックオプションを持つ役員が筆頭株主となることが従来多かったが、最近は海外の投資ファンドが上位株主に浮上するケースが少なくない。
証券ジャパンの調査情報部部長、大谷正之氏は「今年は金余り相場ということに加え、コロナ禍からの脱却が期待される。半導体・グリーン成長戦略に関する銘柄も買われ、投資の幅は広がりそうだ」とみている。
個人投資家は今年も意欲旺盛
一方、個人投資家も、引き続きIPO市場に積極的に参加する見通しだ。
IPO投資を積極的に行っているという個人投資家の柳橋義昭氏は「コロナがきっかけで、Eコマースやテレワークのサポートなどを行う非接触型の事業を手掛ける企業へ投資することが多くなった。今年も上場が集中する月を狙って、業績等も加味した上でセカンダリーを中心に投資していきたい」と話す。
「今年も変わらず積極的にIPO投資を行っていきたい。大型IPOは規模が大きいだけに地合いに左右される可能性が高い。銘柄にもよるが、今年もマザーズの小型株を中心に投資を行っていく」(ブログ「株ビギナーの投資日誌」を運営する個人投資家のSHO氏)との声も聞かれた。
1月15日現在でIPOが承認されている企業は、半導体レーザーの開発などを手掛けるQDレーザ、注文住宅事業を手掛けるアールプランナー、化粧品の企画・製造などを行うアクシージア、AIサービスなどを提供するWACULの4件。それぞれ2月にマザーズ市場に上場する予定だ。まだ件数は少ないものの、IPOは期末に増える傾向がある。