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落語家・立川志ら乃のスーパーマーケット徒然草 第14回 私が「浅漬け野郎」になるまでの軌跡

灼熱の日々が落ち着き、朝夕は秋の気配も少し感じられるようになった今日この頃。スーパー大好き落語家・立川志ら乃師匠は突如「浅漬けづくり」に熱中していて――。

かみさんの「ぬか床開始宣言」に猛反発も、新宿ルミネの無印へ「ぬか探し」に

 「四十歳を過ぎると、男は自分の習慣と結婚してしまう」  ~リチャード・フェヴレルの試練~より

 実際この本を読んでいないので細かいニュアンスはよくわかりませんが(!)、「知らない間に新しいものを受け入れにくい体になっていく」というような感じでしょうか。

 スーパーでも、自分が現在興味のない商品は、店内の目に付くところにあったとしても、その存在をなかなか認識しにくいものです。すべての情報が常に同じ分量で入って来たら大変なので取捨選択は絶対に必要ですが、取捨選択の精度や質を上げるには、新しいものを見る機会を定期的に設けた方がよさそうです。

 私自身、思い込みの激しい性格&50歳手前という状態なので、上記を踏まえて「周囲の人が興味を持っているもので、私自身まったく興味を持っていないもの」に日々寄り添ってみよう!とした結果を今回はお伝えします。

 ことの発端は、かみさんが言い出した「無印良品のぬか床」。

 「ぬか床やってみようかな」とかみさんが言った時に私は猛反発しました。

 こう言っちゃあ失礼なのですが、かみさんは家事をきっちりやるタイプの人ではありません。空気清浄機の掃除は一回もやったことがないし、布団を自ら干すという姿も見たことがありません。

「浅漬け野郎」になるきっかけをつくったとも言える、無印良品の「発酵ぬかどこ」

 そこに文句はありませんが、上記のような“生態”を踏まえると、ぬか床の管理を私がすることになるのでは…という嗅覚が働いたのです。ネットなどでの薄い情報をもとにした想像ですが、「ぬか床は毎日かき回さないと大変なことになる」というイメージが強く、「ペットを飼う」と同様の手間が掛かると思ってました。

 「どんなことになろうとも、私はぬか床に関して一切関わり合いを持たない!」

 と宣言をしたものの、それでも当人は一度やってみたいと言うので新宿ルミネにある無印良品へ。すぐにかみさんが欲しいと言っていたぬか床1キロを発見。その横には追加用のぬかが売られており、「ぬかって継ぎ足していくものなんだ」と初めて知ることに。

 

知らなかった…世の中では想像以上にいろいろなものが漬けられているのだ…

 この時点では、「無印良品だからぬか床なんて変わった商品を取り扱っているんだよな。普通のスーパーにはないんだろうな…」と思っていた私。しかし後日、「いや!めちゃくちゃある!!」と、いつも足を運んでいるーパーにさまざまなぬか床が販売されていることに気付かされるのです。

 1キロのぬか床って結構冷蔵庫がパンパンになるなぁと思っていたら、そういう声に応えたものなのでしょう、500グラムのぬか床などもたくさんあるのです。「思っている以上に私の知らないところでさまざまなものが漬けられているのだ…」としばし呆然としました。知らないこと多すぎ。

 しかしそのまま肩を落として帰るわけにはいかないと、今まで見落としていた棚を注意深く見ることに。そして私は「浅漬け」に辿り着くのです。

 液体タイプのものよりも、「塩的」なものを振りかけるほうが手軽なのでいろいろ試し始めた頃、豊洲の「サカガミ」というスーパーで出会った「海鮮浅漬けの素」が旨すぎてひっくり返りそうになるのです。「これどこが出してるの?」と聞いてくるくらい、かみさんにも好評。

豊洲のナカガミで運命の出会いを果たした「海鮮浅漬けの素」

 商品の裏面を見ると「販売者 株式会社ナチュラル+UT」とあったので、とりあえず検索すると化粧品会社のサイトが出て来たのでこれは違うなと思い、住所を足して検索すると…出て来た!!ちなみに検索ワードは「株式会社ナチュラル 小岩」。 

 どうやらここの店主が手掛けた商品らしいので、さっそく小岩の店舗へ。「この商品バカうま!」という旨を店主に伝え、ここで開発したのか尋ねると、「四国にある会社が売り込みに来て、取り扱いを始めた」とのこと。後日ネットで調べたのですが、おそらく愛媛のとある食品メーカーらしいということがわかっています。

 この日は、昨年発売された新商品「海鮮七味漬けの素」とともに浅漬けの素を購入。そして「もしかしたら『だし塩』みたいなやつでも浅漬けってできるのかも?」といろんな塩でお試し中の日々。かみさんのぬか床を猛烈批判していた男がこんなにも早く「浅漬け野郎」になるとは。

 そんなこんなで現在、ぬか漬け&浅漬けをかみさんと二人で楽しんでおります。自分の視野を広げるには他人の視野を覗いてみるのが手っ取り早いし、とても有効なことを実感しております。そしてこのシリーズは現在も続けているので、機会があればこの連載で続報を記したいと思います。

 

立川志ら乃

1974年2月24日生まれ。98年3月、立川志らくへ入門。2012年12月に真打ち昇進。16年7月に「スーパーマーケットが好きである」ことを突如自覚。スーパーに関する創作落語に「グロサリー部門」「大豆なおしらせ」など。

Twitter:@tatekawashirano

ブログ:https://ameblo.jp/st-blog/