ファクトフルネス(日経BP社)
上杉周作、関美和 訳
コロナ禍真っ只中の本稿公開時点。メディアでは日々、感染者数の増減を知らせるニュース、小売店や飲食店の苦境や、閑散とした街の様子が伝えられている。スマートフォンが普及し、個人がメディア化しているといっても差し支えない昨今、はたして、すべてのニュースは事実・データに基づいたものなのか?そして受け手は正しく理解できているのか?それは怪しい。
そもそも、ニュースの受け手は「大手メディアは情報を正しく伝えていない」「ネットメディアにはファクトはない」という先入観を持って日々の情報に触れているという。そして伝える側は、伝える側のナラティブの中でニュースを発信する。そこでは、本当の意味での「不偏不党」は難しいであろう。
では、現実問題として、どのように日々の情報と向き合えばよいのだろうか?
そのトレーニングとして筆者が薦めたいのは、ハンス・ロスリング著の「ファクトフルネス」である。全世界においてのベストセラーともいえる本書は2019年1月に発刊。すでに多くの人が目にしているであろう。本書はこのコロナ禍において、情報を正しく理解するためにも、あえてもう一度読み直すことを薦めたい。そして、まだ読んでいない人はぜひ読まれたい。
著者のハンス・ロスリングは医師として、そしてWHOのアドバイザーとして西アフリカのエボラ出血熱の発生地において最前線で活動していた過去を持つ。判断を誤り、救えたはずの命を失わせてしまった過去。その失敗の本質は「焦り」であった。パンデミックの最前線に立つ経験豊富な医師でさえ「焦り」によって判断を誤る。そして、ビジネスシーンにおいても焦りによる判断ミスは往々にして起こりうるであろう。著者は、これは人間の本能によるものであると伝える。非常に重要な教示である。
では、どうしたらいいのか?著者は「データにこだわる」ことの大切さを説く。
本書は多くの場面で、データを正しく読み取る術を教えてくれる。世界は分断が進んでいる、貧困層が増えている、女性の社会進出は進んでいない。日々、メディアを通して伝わってくる情報をもとに趨勢を見極めている(つもりの?)我々の、これらに対する正答率は驚くほど低い。実は知識層を含めても、あてずっぽうに答えるチンパンジー以下であり、これは、ダボス会議に出席するような政府関係者など、いわゆるエスタブリッシュメント層においても同じ結果になるという。
正しく情報を知るためには、「世界を正しく見る習慣」が欠かせない。
本書では難しいことは何も書いていない。人間の本能とはどういうものか?そして、世界は実際どのような方向に進んでいるのか?ファクトを基に示してくれる。読み易く、それでいて多くの教示を与えてくれる。
いま、何が起きているのか?なぜ外出自粛が必要なのか?新型コロナ感染症は高齢者だけが注意すべきなのか?医療崩壊は起きているのか?本書はもちろん、それらに対する解は記載されていない。しかし、本書を読み進めることで情報をより正しく理解し、多くの人がメディア・リテラシーを高めていくことができるはずだ。
このタイミングにおいて、必読の書である。
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