[ニューヨーク/ボストン 8日 ロイター] – 新型コロナウイルスの世界的流行への対応で従業員を解雇しながら、配当の支払いや自社株買いを続けている一部の米大企業に労働組合や年金の運用主体、議員から批判の声が上がっている。
配当と自社株買いを通じた株主還元の金額は、この10年間で3倍以上に増えた。大半の米企業は現在、実施を縮小しているが、業績に悪影響が及んでいるのに実施水準を維持している企業もある。
クルーズ船のロイヤル・カリビアン・クルーズ、油田サービスのハリバートン、自動車のゼネラル・モーターズ(GM、ファストフードのマクドナルドは、いずれも従業員の解雇、操業時間の縮小、給与削減などを実施する一方で、株主還元を維持している。ロイターが規制当局への申請書類や企業の発表文書、企業幹部の発言などを確認した。
公的年金基金や慈善基金などが所属する機関投資家評議会(CII)の執行ディレクター、ケン・バーシュ氏は「大企業は今こそ社会システム全体を考えて、物事が回り続けるよう手を差し伸べる時だ」と言う。
ロイヤル・カリビアンは新型コロナの影響でクルーズ船の運航を停止し、流動性を強化するため36億ドル超の借り入れを実施。3月半ばから契約従業員の解雇に着手した。しかし5月を期限とする6億ドルの自社株買いについては、残りの分を中止せず、配当の支払いも続けている。同社は四半期ごとに配当を設定しており、昨年の総額は6億0200万ドルだった。
同社の広報担当者は「財務と流動性を守るために断固とした行動を続ける」と述べたが、解雇と株主還元についてはコメントを控えた。
ゴールドマン・サックスのアナリストは今週、S&P総合500種株価指数を構成する企業が今年、新型コロナの影響で配当を平均50%削減するとの予想を発表した。
しかし、株主還元の中止を義務付けられるのは、2兆3000億ドルの経済対策によって政府から資金援助を受ける企業だけだ。
マサチューセッツ大学の企業統治専門家、ウィリアム・ラゾニック氏は「企業が配当の支払いと自社株買いを続けているのなら、従業員を解雇してはいけない」と述べ、まず株主還元をやめるべきだとの考えを示した。
マクドナルドは3月に飲食スペースを閉鎖し、持ち帰りとドライブスルー・サービスのみの営業に切り替えた。これによりフランチャイズ店の従業員はシフトに入る時間が短縮され、収入が減って家計のやり繰りの危機に直面している。
同社は自社株買いを中止したが、昨年時点で36億ドル相当の年間配当は維持している。同社はロイターに対し、人材配置と営業時間は「従業員か配当かという選択」とは無関係であり、フランチャイズ店に対し、家賃の支払い延期や、店舗が雇用を維持するための支援措置を講じていると説明した。
どう見ても間違い
GMは北米拠点での通常生産を停止し、従業員の給与を一時的に20%削減した。広報担当者によると、3月20日に第1・四半期の配当を支払っており、次の配当については1カ月後に方針を発表する。その際、経済環境を検証するとしている。
ハリバートンは3月23日からヒューストン事務所の従業員約3500人を一時帰休とし、オクラホマ州では350人を削減した。一方で3月に第1・四半期の配当を計画通り支払っている。
同社の広報担当者はコメントを控えた。
ブラックロックやバンガードなどの大手資産運用会社は、投資している企業には「人的資本」の問題を優先してほしいとしながらも、表立って企業に人員削減を避けるよう求めてはいない。
長年にわたり自社株買いを批判してきたタミー・ボールドウィン上院議員はロイターへの電子メールで「利益は、実際にそれを生み出した従業員と分かち合うべきだ」と主張。「大企業が自社株買いを増やして富裕層や経営幹部に報いる一方で、施設を閉鎖したり従業員を解雇したりするのは、どう見ても間違っている」とした。