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セブン・ミールサービス代表取締役社長 青山 誠一
ご用聞きでオムニチャネル化の先鞭つける、めざすは究極の「近くて便利」

セブン-イレブン・ジャパン(東京都/井阪隆一(いさか・りゅういち)社長:以下、セブン-イレブン)の子会社で、「セブン-イレブンのお食事お届けサービス」の運営を手掛けるセブン・ミールサービス(東京都)。ここ数年で取扱高を急伸させている。2015年度(16年2月期)の取扱高450億円を目標に掲げる同社の戦略を青山社長に聞いた。

聞き手=下田健司 構成=小木田 泰弘(以上、本誌)


配達スキーム見直しで注文件数は4倍超に

青山誠一(あおやま・せいいち)
1959年東京都生まれ。81年、セブン-イレブン・ジャパン入社。オペレーションフィールドカウンセラー、ディストリクトマネジャーを経て94年に商品本部デイリー部マーチャンダイザー。98年3月商品本部デイリー部チーフマーチャンダイザー、2001年商品本部食品部パンデザートシニアマーチャンダイザー。06年9月商品本部商品情報部総括マネジャー。08年2月商品本部FFデイリー部生産管理総括マネジャー。10年1月に品質管理本部生産管理部総括マネジャー、セブン・ミールサービス代表取締役社長に就任(現任)。11年9月、セブン-イレブン生産設備改革プロジェクトメンバー、13年2月同品質管理本部生産管理部執行役員生産管理部長、同7月品質管理本部執行役員QC室長。

──「セブンミール」は取扱高が急伸しているそうですね。

 

青山 セブン-イレブンの食事お届けサービス「セブンミール」の取扱高は、2013年2月期に120億円、14年2月期は250億円を計画しており、16年2月期は450億円が目標です。

 

 現在、「セブン-イレブン」店舗の約75%に当たる1万2000店舗で「セブンミール」が展開されています。会員数は約46万人(13年11月時点)で、注文件数の約6割は60歳以上が占めています。

 

 「セブンミール」の利用が急拡大するきっかけの1つとなったのは、12年5月に実施したお届けスキームの見直しです。それまでは1回当たり1000円以上から注文を受け付け、200円の配達料金がかかりました。それを1回の注文が500円以上なら無料で配達。500円未満なら120円の料金でお届けするようにしたのです。お届けスキームの見直し後、注文件数は4倍に跳ね上がり、現在では5倍に届く勢いです。

 

──セブン・ミールサービスは00年の設立です。会社設立から時間を要した印象があります。

 

青山 そうですね。当社の設立目的は、シニア層の需要取り込みにありました。セブン-イレブン店舗の利用者は若い男性が中心であり、今後ますます増える高齢者の需要にも対応していかなければならないと考え、食事お届けサービス「セブンミール」を展開することにしたのです。

 

 当初、「セブンミール」が提供する商品は、「店舗とはお客さまが異なるのだから商品も異なるだろう」と考え、セブン-イレブンの店舗とは違うマーチャンダイジング(商品政策)を実施しました。会社設立後10年ほどはセブン-イレブンのMDと接点がほとんどないまま、独自の仕組みを構築してきていたのです。

 

 ここにきて利用が拡大したのは、12年5月に実施したお届けスキームの見直しに加えて、MDをセブン-イレブンと同じにしたのが大きいと思います。

 

──それはいつ頃でしょうか。

 

青山 09年にセブン-イレブンが新しい店づくりのキャッチコピー「近くて便利」を大きく打ち出した頃からです。お客さまがセブン-イレブンの店舗に求める便利さとは何か、どのような品揃えやサービスが求められるのかを全社一丸となって考え始めた時期に当たります。「セブンミール」でも「近くて便利」とはどういうことなのかをあらためて考えたのです。

 

 10年1月の社長就任後、「セブンミール」の「近くて便利」とは何かを思案しました。少子高齢化の進展、働く女性の増加、小規模小売店の減少、十分な時間がなく買物できないお客さまが増えている……といった社会構造の変化に「セブンミール」も対応しなければならない。

 

 お客さまの立場で「セブンミール」を考えると、何も高齢者だけが買物に不自由しているわけではなくて、あらゆる年代の方が、何らかの要因によって買物に不自由している状況がみえてきました。そうすると、「セブン-イレブン」店舗の商品がお客さまの手元に届くのが「セブンミール」にとっての「近くて便利」なのではないかとの結論に達しました。このように発想を転換したのが10年です。

 

 そこから独自の品揃えと仕組みで運営されていた「セブンミール」を、「日替り弁当」や「お惣菜セット」など一部の商品を除いて店舗のMDと同じようにしていきました。

セブン-イレブンと原材料を共有

──セブン-イレブンとMDを統一する際、課題となったのはどのようなことでしたか。

 

青山 MDの統一に着手した当初は、たとえば店舗に商品が配送されたとき、それが店舗向けの商品なのか「セブンミール」の商品なのか店舗の従業員は判別できませんでした。それはバーコードがまったく同じだったからです。

 

 ですから商品のバーコードを店舗向けと「セブンミール」向けのものに変える応急処置を施して、一方ではシステム変更を大急ぎで進めました。当時はバーコードのシールを一つひとつの商品に貼ったりとても苦労しました。

 

 MD面に加えて、物流面の変更も行わなければなりませんでした。宅配は、注文件数が多いほど配達に時間がかかりますから、注文の商品を可能な限り早くお店に届けなければなりません。それには物流や製造の時間を調整する必要があります。お取引先さまと打ち合わせを繰り返し、生産の仕組みや工場の従業員の勤務時間も変更するなどして一つひとつ課題をクリアしてきました。この改善は現在でも継続して行っています。

 

 システムの変更作業は東日本大震災の影響で1年ほどストップしましたが、今ではスムーズに運営できています。

 

──食事宅配は、ワタミタクショク(東京都/吉田光宏社長)や生協に加えて、さまざまなプレイヤーが新規参入している市場です。「セブンミール」の強みは何ですか。

 

青山 商品や品揃え、価格などさまざまあります。

 

 たとえば「日替り弁当」のご飯の量は、190gと240gから選べるようになっています。しかも価格は同じです。競合は高齢者の適量といわれる150gのところがほとんどですから、シニア層だけでなく一般の働き盛りの男性にも満足いただけると自負しています。また、1食当たり500円で、1食単位から注文できるのも他社にはない要素です。加えて「セブンミール」は「正午頃までにお届け」「午後7時頃までにお届け」の1日2回の配達ですから、昼食時にも利用できます。他社は夕食用がほとんどなので、大きな強みになっていると思います。

 

──主力商品である「日替り弁当」や「お惣菜セット」は、セブン・ミールサービスが独自に開発しているのですか。

 

青山 そうではありません。

 

 当社には4人の商品開発担当者がいて、セブン-イレブンのマーチャンダイザーと共同で商品開発に当たっています。セブン-イレブンと原材料を共有し、製造原価に規模の経済が働くようにして価格を可能な限り低く抑えています。以前の「日替り弁当」は1食540円でしたが、セブン-イレブンと原材料を共有することなどにより価格を500円にすることができました。

 

 「日替り弁当」や「お惣菜セット」は、毎日食べていただく以上、健康的なメニューでなくてはなりません。管理栄養士が監修し、「日替り弁当」ならば1食当たり120gの野菜を使用しています。

ご用聞きで商機拡大

──11年3月の東日本大震災は、コンビニエンスストアの価値を消費者が再評価するきっかけにもなりました。食事宅配も消費者から広く注目を集めることになったと思います。

 

青山 おっしゃるとおりです。店舗に加えて、「セブンミール」の価値も加盟店さまやお客さまに再評価され、サービス実施店舗が大きく増えることになりました。

 

 東日本大震災後、加盟店さまはあらためて「近くて便利」とは何かを考え、お店をしっかり開けておくことが重要だと認識されました。そしてお店に来店することができないお客さまもいるのだから、直接、商品をお届けしたいという機運が加盟店さまのなかでも高まりました。それを受けて当社は12年5月にお届けスキームの見直しを思い切って行ったのです。

 

──それまで商品の配達はヤマト運輸(東京都/山内雅喜社長)に一部委託していましたが、12年5月からは店舗の従業員が行うようになりました。ねらいはどのようなところにあったのですか。

 

青山 これはセブン&アイ・ホールディングス(東京都/村田紀敏社長:以下、セブン&アイHD)グループ全体で取り組んでいる「オムニチャネル」戦略にも通じることです。

 

 セブン&アイHDの鈴木敏文会長は05年、「これからはご用聞きの時代だ」とグループ幹部に考えを明かしました。インターネット通販が急成長すれば、店舗でお客さまをただ待っているだけでは商売にならないだろう。だから小売業は外に打って出る必要があるということでした。

 

 お客さまのご自宅に商品をお届けする「セブンミール」は、配達の際にお客さまの要望を承ることができます。委託業者よりも、近くにある店舗の顔見知りの従業員なら安心して頼みごとができる。店舗の従業員は世間話ついでに、たとえば恵方巻きや重くてかさばるお米などもおすすめできる。また、生活での困りごとの解決策も提示できるかもしれません。このようなご用聞きサービスの実施を念頭に置き、店舗の従業員が配達するようにしたのです。

 

──店舗の従業員に負担がかかるのではないですか。

 

青山 「セブンミール」の実施店舗のオーナーさまに聞くと、実際はそうでもないようです。逆に「セブンミール」を実施することのメリットが大きいとおっしゃる加盟店さまが多いのが現状です。

 

 たとえばお客さまとの会話のなかで、商圏内の隠れたニーズを発見することもあります。お米や洗剤など、コンビニエンスストアではあまり購入されない商品を、お客さまからのご要望をもとに品揃えしたところ、大きな売上につながったケースもあります。また、お客さまに対してクリスマスケーキや恵方巻きなどの予約商品をおすすめすることで予約数を大きく伸ばしたケースもあります。

 

 そしてお客さまに商品をお届けした際、従業員は「ありがとう」と感謝されます。するとその従業員は喜びを感じて、店舗での接客姿勢や意識が大きく改善するなどの効果もあります。

 

 

──「セブンミール」の1日当たりの配達は何件くらいあるのですか。

 

青山 注文件数の多い店舗は1日30件ほど配達しています。1日20件を超える店舗の多くは専任の従業員を雇っています。「セブンミール」利用者は店舗から半径500m圏内にお住まいの方がほとんどなので、物理的な移動の負担はそれほどありません。

 

 「セブンミール」を展開することで「人件費がかさむ」ととらえるか、「ビジネスチャンスが拡大する」ととらえるのかは、加盟店さまの判断になるでしょう。

 

──オムニチャネル化を進めるうえでも、全国約1万6000店舗の店舗網は大きな強みになります。

 

青山 強力な武器になるでしょう。

 

 「セブンミール」は、お客さまのご自宅に商品をお届けするか、または注文した商品を最寄りの店舗で引き取ることができます。現在、ご自宅へお届けするケースが75%、店舗で商品をお渡しするのが25%になります。

 

 単身の会社員ならば、平日のお昼や夕方は在宅していませんから、店舗に来店して注文した商品を引き取るケースが多い。一方で、ご自宅に商品を届けて欲しくないという要望もあります。商品を自宅に届けてももらえるし、お店でも受け取れる。お支払いは、店頭でも銀行口座からの引き落としでも可能です。

 

 このように「セブンミール」はお客さまのさまざまなご要望に合わせて複数の選択肢を用意しているのです。今後、グループでオムニチャネル化を推進していったときは、「どこで商品を受け取るか」が大きなポイントになると思います。「セブン-イレブン」の店舗を起点に、さまざまな商品が受け取れたり、自宅に届けたりしてもらうことができる。これはお客さまにとって究極の「近くて便利」だと考えています。