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急拡大する「セミセルフレジ」

小売業のチェックアウト・システムに新たな潮流が生まれている。ここ数年、「セミセルフレジ」と呼ばれるPOSレジを導入する小売業が急速に増えているのだ。セミセルフレジが広がり始めたのは「従業者の人手不足対策」と「レジ待ち解消」に効果が期待できるからだ。今後、さらに普及を見せるのか。セミセルフレジが拡大する理由とPOSレジメーカーの取り組みをまとめた。

客自身が精算、チェッカーはスキャンのみ

 セミセルフレジは、商品のバーコードスキャン(登録)のみチェッカーが行い、精算は客自身が支払機を使って行うレジシステムだ。

 現在、セミセルフレジを導入する小売業が増えている。食品小売業では、イオン(千葉県/岡田元也社長)グループが実験を経て本格導入を決めたほか、カスミ(茨城県/藤田元宏社長)やいちやまマート(山梨県/三科雅嗣社長)、西鉄ストア(福岡県/築嶋俊之社長)などはすでにセミセルフレジを一部店舗で運用している。

 

>【東芝テック】イズミ ゆめタウン廿日市にカート型セルフレジ導入開始 レジ待ち時間を短縮、快適な買物環境を提供

 

 セミセルフレジ開発で先行した寺岡精工(東京都/片山隆社長)は、16年1月末で524店舗、16年末には1500店舗への導入を見込む。現在、東芝テック(東京都/池田隆之社長)では200店舗以上、富士通(東京都/田中達也社長)では38店舗で自社製のセミセルフレジが稼働しているという。

 なぜ、セミセルフレジを導入する小売業が増えているのか。

 小売業界ではかつて、「フルセルフレジ」と呼ばれるチェックアウト・システムが登場し、普及するかに見えた。フルセルフレジは商品の登録・精算をすべて客が自ら行う。そのためチェッカーも不要となる。これにより、レジ業務が軽減され、コストダウンにつながることが期待された。

 しかし、商品のバーコード読み取りに時間がかかったりして、客の利用も思ったように増えなかった。店舗にとっても、チェックアウトの時間を短くする効果が出ていないケースが少なくなかった。しかもすべての商品の価格も記録する必要があり、タイムセールなどではバーコードを貼り変える作業も発生する。店舗にとっては期待したほどには生産性が上がらなかった。

 これに対して、セミセルフレジの場合は、チェッカーは商品を登録するだけで、客が支払機を使って精算するためレジを通過する時間が削減できる。客にとってはすばやくチェックアウトできるメリットがあるし、店舗にとってもチェッカーが金銭を扱わないので心理的なストレスの軽減や違算の解消につながる。 

新店で全面セミセルフ化も

 「お客さま自身に精算してもらうということから、導入をためらう小売業は少なくなかった」と、寺岡精工のリテイル事業部リテイル営業グループ部長、西村昌弘氏は話す。だが、客がセミセルフレジの利用に慣れ、店舗のメリットが表れるにつれ、そうした心配もなくなっていった。

 混雑時のレジ待ち人数を減らし、短時間にできるだけ多くのお客の精算を処理したいというのはどの小売業にとっても共通の課題だ。レジ待ち客が混んできたら1レーンを2人のチェッカーで対応する「2人制」にする場合もあるが、そうなると、人件費を押し上げてしまう可能性がある。

 セミセルフレジの場合は、単位時間当たりの処理件数が通常レジと比べて1.5倍から2倍になる。小売業界では人手不足でパ ート・アルバイトを採用しにくくなっている。人を増やさずとも、レジ待ち解消が期待できる─セミセルフレジが注目されているのは「人手不足への対策」と「レジ待ちの解消」という2つの課題の解決が期待できるからだ。

 富士通の流通ビジネス本部シニアディレクターの長瀬剛実氏は、セミセルフレジの拡大要因を次のようにみる。「フルセルフ レジの生産性は思ったよりも低かった。だが、セミセルフ導入で、10レーンあったレジを8レーンに減らす店舗もある。そのぶんチェッカーを減らすことができ、人件費の削減にもつながる」。

 セミセルフレジの拡大に合わせて、POSメーカーは使い勝手のよさを追求した新機種を投入している。東芝テック商品・マーケティング統括部の後藤幾氏は、「お客さまは自販機やATM(現金自動預け払い機)など、自分で精算することに慣れている。ただ、釣り銭を取り忘れたりする場合もあり、新機種ではそうした課題を解決する工夫を加えている」と言う。

 セミセルフレジは、通常レジやフルセルフレジと組み合わせて導入されることが多いが、全面セミセルフレジという新規店舗も見られるようになった。導入する小売業は今後さらに増えていきそうだ。

 

POSメーカーの戦略
【1】
寺岡精工
「チェックアウトレボリューション」を掲げ市場開拓
寺岡精工(東京都/片山隆社長)がセミセルフレジを開発し、実用化したのは2010年。先発メーカーとしてノウハウを蓄積し、セミセルフレジの導入店舗数を急拡大している。

2016年末までに1500店舗へ導入

 寺岡精工のセミセルフレジは、「スピードセルフ」と対面式の「スマイルセルフ」の2タイプがあり、「チェックアウトレボリューション」として小売業に提案している。

 同社がセミセルフレジを初めて市場に投入したのは2 0 1 0 年。食品スーパー(SM)の文化堂(東京都/山本敏介社長)と生協のコープあいづ(福島県/荒井信夫理事長)の2店舗でのスタートだった。導入店舗は16年1月末で524店舗、16年末には1500店舗への導入を見込む。

 同社がセミセルフ方式のPOSレジを開発したのは、「フルセルフレジが思うように生産性向上に役立っていないことから、店舗やチェッカー、それに買物客にとって最善の方法はないかと考え抜いた結果」と、リテイル事業部リテイル営業グループ部長の西村昌弘氏は説明する。

 「スピードセルフ」の開発段階では、セミセルフ化することでどの程度、レジ待ちを解消できるか、実験を繰り返し行った。「モデルケースをつくって実験した結果、一定の時間内に最大で2倍のお客さまをさばけることがわかった」(同)という。

 同業他社に先駆けて市場投入しただけに、さまざまな問題に直面した。当初は精算機を登録機から離したレイアウトを採用した。登録機からバーコードを印刷した「お会計券」を客に発行。客がその「お会計券」を持って、空いている精算機でバーコードを読み取り支払う仕組みだった。しかし、その方式では精算しないで帰る「カゴ抜け」が頻発したり、バーコードをスキャナーで読み取るということに慣れていない客が「お会計券」を紙幣挿入口に入れたり、想定外の問題が起きたという。客が精算機の操作方法に不慣れだったことも原因の1つだ。

 操作方法を教えるためのアテンドスタッフを置く方法もある。しかし、それではレジ要員の削減にはつながらない。そこで登録機の横に精算機を置くレイアウトを標準的なパターンとして採用。精算に戸惑っている買物客に対しては、登録機にいるチェッカーがすぐに手助けすることができるようにした。また、バーコードを廃止して直接、精算機にデータを送る方式に改めた。精算機の画面の点滅やパトライトが点滅しているのに精算しようとしている客がいなければ、カゴ抜けが起きようとしていることがわかる。

 

寺岡精工
リテイル事業部
リテイル営業グループ
部長 西村昌弘 氏

⇒セミセルフレジ「チェックアウトレボリューション」。商品の登録・スキャンはチェッカーが行い、買物客が精算機で支払いをする

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数多くの特許を取得 現金管理の効率化も支援

 先発メーカーとして苦労を重ねただけに、「多くの問題点を解決してきた。それがノウハウとして蓄積され、特許の取得につながっている」と西村氏は胸を張る。

 同社では、数多くの特許を取得または申請中だ。たとえば、登録機から精算機に直接データを送信する仕組みは同社の特許だ。また、精算機にカメラを設置し精算時の様子を記録したり(特許申請中)、買物客がビール券や商品券などで支払う場合、チェッカーが商品券分を差し引いて登録する仕組みも同社の特許である。

 さらに寺岡精工が、店舗の利便性を考え工夫してきたのが「キャッシュマネジメントシステム」だ。精算機には硬貨、紙幣が溜まってきたり、あるいは釣り銭用の硬貨が不足する事態も起きがちだ。精算機に入っている硬貨や紙幣の状況は、「アシストモニター」で確認できる。補充や回収が必要な際には、指示用のバーコードを発行しそれを読み取ることで精算機に入っている現金の出し入れができるようになる。こうした管理を可能にしたことで現金の移動が見えるようになった。金庫に入っている現金も登録しておけば、常にどのくらいの現金が店舗にあるかを把握できる。さらに自動精算により閉店処理の時間も短縮された。違算が発生しにくく、全レジの現金を把握しているため、レジを閉めてからのレポート作成に要する時間が短い。寺岡精工の調査では、閉店処理が180分程度かかっていたケースでも30分で完了するという。セミセルフレジの採用やキャッシュマネジメントシステムの工夫など、店舗の業務効率化の余地はまだまだ残っているといえる。

 

POSメーカーの戦略
【2】
東芝テック
通常のレジを上回る生産性向上に期待
東芝テック(東京都/池田隆之社長)はセミセルフレジの販売を5年ほど前にスタートさせた。深刻となっている小売業の人手不足を背景に導入店舗を増やしている。

買物客も導入店舗も2週間で慣れ

 「セミセルフレジのことは当初、分担制チェックアウト・システムと呼んでいた。当社では通常レジからフルセルフレジまで、お客さまの店舗環境に合わせたチェックアウト・システムを数多くラインアップしている。セミセルフレジが特別なシステムとは考えていない」。こう話すのは、東芝テック商品・マーケティング統括部の後藤幾氏だ。

 東芝テックは、ここにきて小売業の人手不足を背景にセミセルフレジの導入店舗数を増やしている。

 現在200店舗以上にセミセルフレジを展開している。16年度は1000店舗以上に導入される見込みだ。

 後藤氏は「1台当たりのレジの通過客数は1.6倍程度に増え、レーンも減らすことができる。店舗運営の効率化とダブルの効果が期待できる」と、セミセルフレジの導入効果を強調する。

 導入店舗では当初、「買物客に『なぜ自分で精算しなければならないのか?』という反応が見られた。しかし使い慣れてくると、スピーディにチェックアウトできることで、むしろセミセルフレジを選ぶ買物客が増えてくる」(後藤氏)。セミセルフレジ導入の効果が実証されたことから、新店では最初からセミセルフレジありきでレイアウトするケースも多くなっているという。

 通常、2週間程度の運用で買物客はセミセルフレジに慣れてくると後藤氏は説明する。支払いに時間がかかっていた買物客も、ほかの客を待たせないことがわかると焦らずに会計できるようになる。当初は店舗スタッフがアテンダントとして手助けしたり、東芝テックがサポートを行ったりするが、2週間後にはスムーズに客が流れるようになる。

 東芝テックは、通常のレーンでもPOSレジをそのまま使い、会計機を設置してセミセルフ化する方法も提案している。反対にセミセルフ化して効果がなければ、通常のレーンに戻すこともできる。「当社のシステムでは、通常のレジでもセミセルフレジでも、制御ソフトを変えずに対応している」と後藤氏は話す。ただ実際には通常のレジに戻すケースはないようだ。むしろ使い勝手をよくすることで、セミセルフレジの機能を高め、それによりさらに普及が加速すると同社は考えている。

 

東芝テック
商品・マーケティング統括部 量販ソリューション商品部 量販ソリューション商品 第二担当参事
後藤幾 氏

⇒東芝テックのセミセルフレジ新型機「SS-900」シリーズ

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使い勝手を向上させた新型機「SS-900」

 東芝テックのセミセルフレジ新型機「SS-900」シリーズは、会計機の硬貨投入口に「吟味台」を取り付けたり、紙幣投入口をATM(現金自動預け払い機)と同じスタイルにしたりと改良を加えた。「セミセルフレジに慣れてきてゆっくり支払いができることがわかると、お客さまは硬貨を使うようになる。財布から硬貨を出して指先で投入口に滑らせることができるよう工夫したのが吟味台だ」(後藤氏)。

 また、誘導LED(発光ダイオード)を設け、それに従って操作することで買物客が戸惑わないようにした。さらに、硬貨の管理支援機能も設けた。買物客が硬貨で支払うようになると、会計機に硬貨が溜まってくる。硬貨がいっぱいになった場合、会計機は自動停止する。新型機ではそれを防ぐために自動で専用の回収袋に硬貨を移す機能も備えた。買物客の利便性に加えて、店舗運営の負荷軽減にも配慮されている。

 「支払いにかかわる機能を向上させ、いかに効率化につなげていくかが今後の課題」と後藤氏は言う。たとえば、レジスペース削減のための商品登録機や会計機のシステム構成、レジ本体の電子マネー対応など作業の効率化を支援する機能だ。後藤氏は、「導入店舗数の伸び率は14年あたりから急上昇カーブを描いている。人手不足やコスト削減、レジ待ちの解消につながる効果がはっきりと表れていることも大きい」と導入店舗拡大に自信を見せている。

 

POSメーカーの戦略
【3】
富士通
買物客の利便性向上と店舗のスペース効率向上を支援
富士通(東京都/田中達也社長)は、レジ待ちの状況を実地調査し、セミセルフレジの開発に役立てた。今後は、電子マネー対応などセルフレジの機能強化を図る。

1.6倍のスピードアップ

 富士通は、小売業の接客方針や店舗規模などに合わせたチェックアウトスタイルを提案している。

 同社のセミセルフレジ「セルフペイメントシステム・TeamPoS/SP」は、登録機を「スキャニングステーション」(SS)、支払機を「ペイメントステーション」(PS)と呼んで区別する。現在、38店舗で登録機と支払機を合わせて530台が稼働している。

 同社は店舗のレジ待ちの状況を実地調査し、セミセルフレジの開発に役立てた。調査では、「通常のレジでの支払いに、1人30秒から60秒程度の時間がかかることがわかった」と、富士通流通ビジネス本部シニアディレクターの長瀬剛実氏は言う。つまり10人の列ならば最低でも5分はかかる。支払いにかかる時間を省くことができれば、レジ待ちの長さを意識せずに済む。そこで、チェッカーが登録機に商品を登録し、買物客が支払機を使って精算するセミセルフレジの効果が期待できる。

 混雑している時に、店舗によっては1つのレーンを2人のチェッカーが受け持つ。1人が商品をスキャナーで読み取って登録し、もう1人が金銭を受け取ってお釣りを渡す。この場合、単純に2倍のスピードでレジ待ち客をさばける。セミセルフレジの場合は、「混んでいても買物点数が少ない場合は、2人制に匹敵するスピードが出る。通常の1人制のレジに比べると1.6倍程度のスピードアップになる」(長瀬氏)という。

 富士通の初期のセミセルフレジは、登録機と支払機を離して設置し、登録が完了するとバーコードが印刷された紙を渡し、客がその紙を持って空いている支払機に行って精算するという方式だった。この場合、「カゴ抜け」が発生する可能性があり、また支払機の操作に手間取っている買物客に対して操作方法を教えるアテンダントを用意する必要がある。現在は、登録機に近接して支払機を置く方法がスタンダードになっており、登録機1台に対して1.5台から2台の支払機を設置するのが標準的なパターンである。「登録機から空いている支払機を指定できるようにした。支払機には表示灯をつけており、買物客はそこに行けばスムーズに支払いができる。これならばチェッカーの目が行き届き、カゴ抜けは起きない」(長瀬氏)というわけだ。

 

富士通
流通ビジネス本部
シニアディレクター
長瀬剛実 氏

⇒富士通のセミセルフレジ「セルフペイメントシステム・TeamPoS/SP」

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電子マネー対応も課題

 同社の支払機の幅は420mmで、横のかご置き台を含めても765mmとスリムなサイズだ。狭い店舗でもスペースを有効に活用できる。支払機は対人センサーを搭載しており、登録を終えた客が支払機に近づくとガイダンスが流れる。さらに紙幣の挿入口や釣り銭口には案内用のLED(発光ダイオード)ランプが設置され、客が戸惑うことが少なくなるように工夫している。

 釣り銭が発生した場合、釣り札を取らなければ硬貨が出てこない仕組みも搭載した。セミセルフレジでは、意外と釣り銭の取り忘れが多いからだという。

 客は画面に表示された金額を支払う。「最初はなるべく早く支払いを済まそうという心理が働いて、紙幣で支払う買物客が多かった。セミセルフレジを使い慣れてきて、なおかつ後ろで人が待っているというストレスから解放されると、細かい硬貨で支払うケースが増えてくる」と長瀬氏は話す。細かい硬貨を支払いに使うという行為自体が、客がセミセルフレジに慣れたかどうかのバロメーターになるかもしれない。

 今後の課題には、「車椅子利用者の利便性向上」を挙げ、ユニバーサルデザインの採用が必要だとしている。また、利用者が多いとはいえないが、電子マネーでスムーズなチェックアウトを実現することも課題だ。現状、クレジットカードや電子マネーは登録機で処理することも可能だ。グループ企業の富士通エフ・アイ・ピー(東京都/米倉誠人社長)はサーバー管理型電子マネーを事業化しており、食品スーパーなどでの導入が増えているという。ペイメントの多様化に対応して、セミセルフレジの機能強化は不可欠な要素になっている。