ECなどのデジタル化が小売業に与える影響やその対応策などを紹介し、これからめざすべき小売業の姿を提示する連載「デジタル化と小売業の未来」。第2回では、消費者の買物プロセスの変化について解説しました。今回は、消費者の来店前の意思決定プロセスがどのように変化しているのかを説明します。
顧客は来店前に商品を検索している
Googleが2011年に提唱した「顧客が商品を購入する際の行動に関する概念」の1つ、「ZMOT」という言葉をご存じでしょうか。
ZMOTは、「Zero Moment Of Truth」の略で、「顧客は事前に商品についてインターネットで調べており、来店する前にはすでに購入するものを決めている」というマーケティング理論です。インターネットが普及してからは、店舗に来る前(Firstの前段階のZero)の段階で購入決定をするとして、現在のマーケティング戦略に大きな影響を与えています。
ZMOT以前には、世界的な消費財メーカーのP&G(Procter & Gamble)が提唱した「FMOT(First Moment Of Truth)」というマーケティング理論がありました。こちらは価格や陳列・試供品などを中心とした「店舗でいかに購買決定させるか」という考え方を示した理論です。
これまでは、商品の詳細な情報が事前にない状態でスーパーに行き、「テレビCMで見たなんとなく知っている商品を購入する」という直線的な意思決定がなされるケースが多くありました。しかし、次第にテレビCMに莫大なコストを投下しても思ったように売上を伸ばせなくなります。04年頃のFMOTの時代になると、店内の競合商品に勝つため、パッケージやPOP、商品ディスプレイなどで差別化を図る店頭競争が激化しました。
資本力でのシェア獲得は困難に
その後、インターネットの普及に伴いZMOTの時代が到来しました。当たり前のように、多くの人が店舗に行く前にネットで事前に調べています。来店前にすでに購入したい商品が決まっているため、検索段階での情報戦を制することが必要になったというのがZMOTの大枠の考え方です。
検索において多くの人が閲覧しているのが商品レビューです。消費者は「楽天」や「アマゾン」といったECサイトのレビューや価格を見てから来店するため、店舗での価格が高ければ購入をやめます。つまり、消費者はどの商品を買うかだけでなく、どのチャネルで買うべきなのかも検索で判断するようになっているのです。
従来、資本力さえあればテレビCMを投下し、店舗で目立つ売場に商品を置いてもらうことで、シンプルに売上を伸ばすことができました。しかし、現在はあらかじめ欲しい商品が具体的に決まっている状態で来店するため、その場所を店員に聞くだけで、他の売場を見ることはありません。結果として、資本力でシェアを獲得することが難しくなってきているのです。
デジタル発のブランドも増加
最近では、最初にリアル店舗ではなくネットで売上を確保する事例も増えています。シャンプーやトリートメントのブランド「ボタニスト」などを開発しているI-ne(アイエヌイー:大阪府/大西洋平社長)は、楽天から商品を売り始め、認知と評価を高めることで今ではかなりの売上を獲得しています。
ボタニストのように、デジタル発でブランドを大きく育てる会社は増えており、一定の認知度を得てから店頭で販売する手法で成功する事例も多くなっています。このようなブランドはすでにネットで一定の評価を受けているため、リアル店舗でも売れます。
ECの利用率が高まっているなか、商品が店頭に置いてあっても実際に顧客が触れる機会は少なくなりました。テレビCMも見ない人も増えており、従来型のマーケティングでは顧客に商品を認知させることはますます難しくなっています。
ZMOTの考え方は、小売業界に大きなインパクトを与えています。消費者の購買行動が変化する時代では、小売にも大きな変化が求められているのです。
プロフィール
望月智之(もちづき・ともゆき)
ニッポン放送でナビゲーターをつとめる「望月智之 イノベーターズ・クロス」他、「J-WAVE」「東洋経済オンライン」等メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。