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「デジタル化と小売業の未来」#2 買物プロセスの変化への対応は必須!消費者にとって買物はますます面倒に

ECなどのデジタル化が小売業に与える影響やその対応策などを紹介し、これからめざすべき小売業の姿を提示する連載「デジタル化と小売業の未来」。1では、日本の小売におけるデジタルの重要性について触れました。第2回では、デジタル化に伴う消費者の買物プロセスの変化について解説します。ECで日本の先を行く米国・中国の事例も参考にしつつ、具体的な戦い方を見ていきましょう。

ipopba / iStocK

買物プロセスの80%は不要

 私が201911月に出版した書籍『2025年、人は「買い物」をしなくなる』において中心的なテーマとなっているのが、買物プロセスの変化の気付きです。

これまでの買物プロセス(筆者作成)

 買物のステップを挙げてみると、実に買物プロセスの80%は「不便」で、今後不要になってくるものばかりです。たとえば、レジに並ぶことや決済などはすでにいらなくなりつつあります。

 このように、デジタルの技術進化やECでの購買体験によって、買物プロセスが減っていき、ふだんの生活でも買物が面倒に感じるようになっています。たとえば、ちょっとしたものを買いたいだけなのに、わざわざレジに並ぶということが面倒だと感じるようになるのです。

 現在のキャッシュレスの流れも、現金の支払いを面倒に感じさせ、量販店のような広い店舗内で商品を探すことも、ECでは検索で絞り込むことができるため、どんどん面倒に感じるようになっています。

実店舗の利用頻度は約2030%減少

 弊社が独自にアンケートを取った結果を見ても、買物を面倒に感じる人が増えていることが如実に現れる結果となりました。

実店舗の利用頻度の変化とその理由
調査対象:20代~60代までの男女各100名程度ずつ
回答数:1036人
調査方法:インターネットリサーチ
実施機関:株式会社マクロミル
実施期間:2020年03月11日(水)~2020年03月12日(木)

 コロナの影響が大きくなる以前に集計したアンケートの結果をまとめてみると、すでに2030%ほどが、「店舗の利用頻度が減った」と回答しています。想定される理由としては、店舗にいちいち行くことが面倒になっているという点が挙げられます。

 これまでは、服を買いにいくのにわざわざ遠くのショッピングモールへ行ったり、欲しいものを複数揃えるために別々の場所にある店舗を渡り歩いたりするなど、当たり前のように多くの移動時間を要していました。しかし、現在では欲しい商品をネットで比較して、何を購入するか決めた状態で店舗に行くということが増えているため、「移動時間を考えればそのままネットで購入してしまうほうがよい」と考えるようになっているのです。

商品を探すのも面倒に

 また、店員の接客が煩わしいと回答した人が約60%にも達しています。百貨店や家電量販店の方に話を聞くと、3~4年くらいで顧客の反応も変わってきたと言います。以前であれば、店員に商品の使い方や用途に合わせたオススメを聞くなど多くの質問があったのですが、今はそれも少なくなっているそうです。

 そもそもお客は商品を徹底的に調べてから来店するため、目当ての商品に関しては店員より詳しくなっていることが多々あります。そのため、来店して目当ての商品をピックアップすれば、すぐにレジで決済してしまう。アパレルでも、「お似合いですね」という当たり前に行われてきた接客も「うざい」と感じられ、回答者の実に約6割が不快感に繋がっていると回答しているのです。

 店員に聞くことと言えば、目当ての商品の陳列場所についての質問が大半で、これが「商品を探すのが面倒」という回答につながっており、店舗の利用頻度が下がっている4番目の理由として挙げられています。商品の場所がわからないこともそうですが、そもそもその店舗に取り扱いや在庫があるかもわからず「自分で探すのが面倒」なため、すぐに店員に聞くお客が増えているのです。しかし、店内を回遊している従業員の人数にも限りがあるため、客数の多い店舗などでは、色違いやサイズ違いがあるか店員を捕まえて聞くことも1つのストレスになっています。

買物プロセスの煩わしさを解消したアマゾン・ゴー

  インターネットであれば、色やサイズ、ちょっとした型違いも一発で検索できるのに、アパレルの実店舗では、たとえば欲しいと思っている「半袖・ピンク・Mサイズ」の商品在庫があるかを従業員に質問しなければならないことがストレスなのです。それでも店舗に行くのは試着など実際の使用感を確かめるためであり、お客はデジタル上で購買候補を決定した後に、仕方なく来店するという状況がすでに増加しているのです。

 一方、米国で3年前にスタートした無人コンビニエンスストアの「アマゾン・ゴー(Amazon Go)」は、従業員がいないコンパクトな店舗であるため、商品を探したり支払いのためにレジに並んだりする必要がなく、購入におけるストレスが低い販売モデルと言えるでしょう。精算もスマホで自動決済されるため、商品を持って店舗を出ればOKという利便性が、買物プロセスの煩わしさを一気に省いているのです。

 このように、オンラインとオフラインにおける買物のフリクション(摩擦)をなくすということが、米国でのデジタル対応の重要性として叫ばれています。日本の数年先を行く米国でも、最も問題視されている点はレジに並ぶことと店員の煩わしさなのです。

実店舗のデジタル化を推進する「ニューリテール」

 201610月にアリババ(Alibaba)創業者のジャック・マーが提唱した「ニューリテール」では、簡単に言えばオフラインにどうオンラインを繋げるかが重要な要素となっています。たとえば、アマゾン・ゴーのようにレジを通さずに買物を完結させるなど、オンラインを前提とした店舗を運営することも、「店舗のデジタル化=ニューリテール」の1つの考え方です。

 ただし、ジャック・マーはECが進んでも店舗の価値はなくならないと語っています。アリババグループが行っている店舗のデジタル化もその流れを象徴していると言えるでしょう。

 消費者の買物プロセスは大きく変化しており、購買の有り様も変わってきているため、企業も小売もその流れに対応していく必要があります。米国・中国はすでにその先へと進んでいるため、これから日本も学ぶべき情報を得て対応していく必要があるでしょう。

 デジタルを活用して消費者の新たなニーズに対応できなければ、競合に大きな差を付けられてしまうことになります。消費者の買物は、買い方・買う物・買い場・買う人の4つの要素で大きく変革しています。今、対応しておかなければ負け組になってしまう可能性が高いため、日本の先を行く米国・中国の動向に注目して、オフラインとオンラインの摩擦に対応していく必要があるでしょう。

プロフィール

望月智之(もちづき・ともゆき)

1977年生まれ。株式会社いつも 取締役副社長。
自らデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費トレンドの専門家として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、デジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。ニッポン放送でナビゲーターをつとめる「望月智之 イノベーターズ・クロス」他、「J-WAVE」「東洋経済オンライン」等メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。