メニュー

限られた面積で新たな顧客体験を提供するVRショールームを活用せよ!

テクノロジーの進化は、店舗を武装化する。「販促・マーケティング総合展【夏】」の場でもさまざまなテクノロジーによる提案がなされていた。今回はそこの取材で得られた新たな取り組みについて紹介しよう。

Photo by Nastasic from iStock

誤差僅少の超音波ビーコンでお客をおもてなし

 GMOクラウドが展開する「Diversity Insight for Retail」は、独自のAI分析技術で実店舗の来店客タイプと行動を分析するツールだ。いまや、AIカメラを使って来店客分析を行うツールは珍しくないが、同社の場合、来店客のファッションをもとに、男女それぞれ30パターンほどのライフスタイルに分類し、好みの傾向や行動を特徴づけることが可能であり、そこから陳列や仕入れ、販促活動を最適化できるという。

 「ライフスタイル分析の精度は7割程度。現在の男女各30パターンだが、間もなく、それぞれ100パターンほどになる予定だ」(同社担当者)

 なお同社では、193月、関西のスーパーマーケットにおいて「POPの大きさによる販促の効果検証」も行っている。

イーソニックの指向性超音波ビーコンの場合、精度は誤差1m以内で「3次元」の識別も可能

 次にビーコン技術を活用した新たな集客策。いまから数年前のことになるが、ビーコン技術を使った位置情報により、店舗内の売場案内や売場のそばを通ったときにクーポンを発行するといった応用例がたびたび提案されていた。しかしいまに至るまで、残念ながらビーコン活用によるそうした実例に出会ったことがない。展示会の場をはじめ、同じような事例を見かけると必ず確かめるようにしている。

 今回はイーソニック(東京都/中山哲治社長)の展示ブース「指向性超音波ビーコン」を発見、「ビーコンを応用した提案が実用化されないのはなぜなのか」を聞いてみた。

「従来のWi-FiBluetoothを使ったビーコンは位置情報としての精度があまり高くないうえ、床や壁を認識できないため、隣の部屋でも、フロアが違っていても、同じ位置として識別してしまい、誤った位置情報を与えてしまうという欠点があるからだ」(中山社長)

 その点、同社の指向性超音波ビーコンの場合、精度は誤差1m以内で「3次元」の識別も可能。自動車のコーナーセンサーに使われている技術のライセンスを受けて展開しているもので、歩行者の歩行速度や検知率についてもすでにノウハウが蓄積されており、名古屋のセントラルパークにある地下駐車場において、歩行者のナビゲーションシステムとして実証実験を行ってもいる。

「ただし、超音波ビーコンの場合、広い店内で常時誤差1m以内の精度を出すためには至るところにビーコンを設置しなければならず、コストや手間を考えると現実的ではない。Wi-FiBluetoothを使ったビーコンで近い位置まで誘導し、ピンポイントの場所では超音波ビーコンを使うといった組み合わせでの利用が現実的かもしれない」(同)

 ちなみに今回の展示では、ゴッホとモナリザの前を通ったときに説明が流れる仕組みになっていた。

次のページは
イオンモール、ゆめタウン、アリオも導入する“呼び出しベル”がある

イオンモール、ゆめタウンも導入する“呼び出しベル”がある

 “「待たせる時間」を「楽しませる時間」に”をキャッチにしていたのが、映像再生機能付き呼出ベルのレンタルサービス「EXtimer」(Geo Nexus(ジオネクサス)/東京都)だ。

 フードコートにある飲食店などが、注文を受け付けたときに、この呼出ベルを渡し、オーダーの用意ができたら呼出ベルで知らせるというものだが、タブレットや携帯端末のように映像を流せるタッチパネルになっており、関連するCM映像を流したり、企業PRに使ったり、アンケートを行ったりすることも可能だ。

 すでにイオンモール、アピタ、ゆめタウン、アリオなどの商業施設内で導入事例があり、これまでのところ185店舗で活用されているという。

「現在検討中だが、売場での呼出システムに応用できないかという問い合わせが入っている」(同社担当者)

 売場にデバイスを置いておき、用事のあるお客が、タッチパネル上に表示される問合せ項目を選ぶと、担当スタッフの携帯にメッセージを飛ばすといった応用イメージだ。もちろん待っている間は、現状の用途と同じように、CM映像がながされる。

「流通小売りからのニーズがあることがわかった。今後は横展開も考えていく」(同)

無人店舗や在庫レスに対応した「VRショールーム」を提案するシイエム・シイ

 無人店舗や在庫レスに対応した「VRショールーム」を提案していたのがシイエム・シイ(名古屋市/佐々幸恭社長)だ。ポータブル型のVRを装着すれば、特別なコントローラは不要、手の動作だけで3Dショールームを体験できるというもの。

 展示スペースではカーディーラーのVRショールームのデモを体験することができた。コントローラでの操作でなく、目の前に現れる画像に触れる感覚で、車種、ボディカラー、背景などを選んでいくので、デモ画像との一体感があり、臨場感も十分にある。オンラインにすればECとの連動も可能だ。

 視線を動かすだけで商品購入も可能という仕組みを提供するのが「AI CONTACT(アイ・コンタクト)」だ。両手がふさがった状態でもディスプレイ操作が可能になるというもので、「ほしい商品を見つめて選択」し、その商品が画面に出てきたら「購入する」を視線で指示すれば、商品を購入できる。既存の自動販売機・券売機などに代替可能で、医療施設や大型商業施設など、ユニバーサルデザインが求められる環境での利用を想定しているという。音声入力やタッチ操作を併用することも可能だ。

 

 ここで紹介してきたテクノロジーは、いますぐ導入するにはコスト面や使いやすさという点から、まだまだハードルが高いかもしれない。しかし昨今のテクノロジーの進歩のスピードを考えると、これまでのように「機が熟するのを待つ」とか、「同業の事例を見てからにする」といった、のんびりした意思決定では、あっという間に周回遅れ、時代遅れになってしまうリスクも高い。費用対効果を考慮する必要はもちろんあるが、スマホを通して消費者が新しいテクノロジーに簡単に体験できる時代であることを念頭に置き、店舗づくりにおける最新テクノロジーをキャッチアップすることを忘れないよう心掛けたい。