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Facebookの仮想通貨が「決済の最終決戦」の口火を切る! 

世界的SNS企業である米Facebook(フェイスブック)が、ついに暗号通貨「Libra(リブラ)」の全貌を公開した。国内においてもインバウンド需要を引き出す可能性を秘めた同プロジェクトだが、運用までの道のりは極めて長そうだ。その理由を、暗号通貨業界の動向などを含めて詳しく解説する。

なぜ? 米議会がFacebookに激怒

 27億人が利用する巨大SNSプラットフォームが、ブロックチェーンを活用した暗号資産(仮想通貨)である「Libra」を発表したというニュースは、世界に大きな衝撃を与えた。
 しかし、その大きな可能性が議論されるよりも早く、米下院の金融サービス委員会のMaxine Waters議員が懸念を示し、Libraの開発を一時中止するように求めるなど、大きな議論が巻き起こっている。また、上院の銀行住宅都市問題委員会では、Libraにおけるプライバシー管理を検証するため、7月16日にLibraに関する公聴会を予定すると発表されている。
 強い風当たりの背景には、2018年に問題となった、ユーザーの個人情報不正流出事件や、G20などで世界的に暗号資産への規制を強化しようという動きがある。そうしたなかでの同社の発表は、配慮が欠けたものであったからではないか、という声がある。

Facebookが発表した暗号資産プラットフォーム「Libra」が米国で大きな議論となっている。上海で昨年11月撮影(2019年 ロイター/ALY SONG)

日本では「Libraは暗号資産か」が争点となる

 予想されるLibraの活用例については前回の記事で紹介した。「Facebook経済圏」の確立は市場に大きなインパクトを与える可能性がある。では、このLibraが本格的にリリースされるのはいつ頃になりそうかというと、実際に運用するにはさまざまな課題をクリアする必要がありそうだ。
 最も大きな問題の1つが、「Libraが“法的に”暗号資産に該当するか」どうかという点だ。
 暗号資産メディア「コインテレグラフ」の報道によると、金融庁は21日、Libraに関して「暗号資産にあたるかどうか、まだ判然としない」と述べている。もちろん、Libraは暗号技術を活用して作られたデジタル通貨であるため、“技術的には”「暗号通貨(Cryptocurrency)」である。
 しかし、日本政府が2017年4月に改正した資金決済法では、「仮想通貨(のちに暗号資産に名称変更)」は、「独自の価値を持つこと」が条件となっている。つまり、ビットコインのような独自の価値(価格)を持たず、円やドルなどの法定通貨に価値が連動するデジタル通貨(ステーブルコインという)は、暗号化技術が使われていようとも、資金決済法上では「暗号資産」に該当しない。どちらかというと、「LINEポイント」「PayPayポイント」などに近い分類となる。
 Libraの定義を曖昧にしているのは、Libraがドル、ポンド、ユーロ、円など複数の法定通貨に連動して価値が決まるという点だ。また、Libraのホワイトペーパー上では「1Libraを必ずしも任意の地域通貨で同じ金額に交換できるとは限らない」としており、特定の法定通貨における固定比率で交換できるわけではないという。

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Libraが暗号資産である場合とそうでない場合

Libraが暗号資産なら、導入は長い道のりに

 仮に、Libraが暗号資産に該当しない場合は、話は非常にシンプルだ。
 SuicaやPayPayなどのような「電子マネー」として、「前払式支払手段」の登録をすることで、日本での配布が可能となる。これはさまざまな事業者のサービスでもすでに実施・発行されているため、比較的容易に導入が進むだろう。
 一方で、Libraが暗号資産に該当した場合は、さまざまな課題をクリアする必要がある。
 「暗号資産に該当したLibra」を法定通貨(や別の暗号通貨)で売買するサービスを行う場合、「仮想通貨交換業者」としての登録が必要となる。そのため、Facebookの自社ウォレットアプリ「Calibra(カリブラ)」が本格的にリリースされたとしても、このアプリを通じて、日本法人として合法的にLibraを売買するには、金融庁への登録が必要となる。
 現在、仮想通貨交換業者として登録された企業は19社のみで、その多くは黎明期から取引所を安定して運営してきた業者(ビットフライヤー、ビットポイントジャパンなど)や、銀行や証券会社といった金融機関をグループに抱える企業(GMOコイン、SBIバーチャルカレンシーズなど)が主流だ。今年6月のG20では「銀行並み」のさらなる規制強化が発表されている。
 これまで暗号資産の取り扱い経験がなく、金融事業を行ってこなかった「Facebook Japan」にとっては、Libraが「暗号資産」である場合の方が、導入が遠のくことになる。
こうしたなか、現実的な方法として考えられるのは、Libraの提携企業の1つである、暗号資産取引所「Coinbase(コインベース)」が、日本で暗号資産取引所を立ち上げる、という方法だ。
 海外取引所の進出としては、海外大手の暗号資産取引所「Huobi(フオビ)」が、18年9月に、国内の認可済取引所の「ビットトレード」を買収し「Huobi Japan」を開設した例がある。Coinbaseが海外法人をゼロから立ち上げることも考えられるが、国内の取引所の買収する可能性も少なくないだろう。

ヤフーが運営する「TAOTAO」をはじめ国内ではすでに決済サービスを展開する事業者が運営する仮想通貨取引所が存在する

Libraの登場で「決済戦争」が激化する!?

 さまざまな課題が浮き彫りになったFacebookのLibraだが、SNSとショッピングサイトが連動して国境を超えたショッピング体験ができるとすれば、「小売の未来像」として非常に魅力的なエコシステムが誕生する可能性がある。
 その一方で、現実的な観点から日本進出までのプロセスを考慮すると、その展望は楽観視できない。目下の課題として、まずは、FacebookのSNSプラットフォームとして、プライバシー保護や、広告プラットフォームの透明性の確保、アドフラウド(広告不正)への耐性などを含めた、全体的な信頼性を高める必要があるだろう。
 また、国内決済市場におけるライバルの存在も忘れてはならない。
 楽天では「楽天ウォレット」と「楽天ペイ」、ヤフーでは「TAOTAO」と「PayPay」といった具合に、国内ではすでに大手プラットフォーム企業が「暗号資産取引所」と「モバイル決済サービス」の両方をすでにリリースしている。さらに、国内の金融業界で絶大な影響力を持つSBIグループでは、米リップル社と共同で世界第3位の暗号資産「XRP」によるサービスの開発に力を入れている。
 Libraの登場に触発され、これら大手企業が「暗号資産決済」の開発・普及へと大きく舵を切ってくる可能性も無視できない。FacebookのLibraの登場は、キャッシュレス決済の「最終決戦」の序章にすぎない。