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EC運営にも店長が必要?デジタル化時代に求められる「EC店長」のスキルとは

ステイホームの影響で小売店への客足が遠のいた際に、多くの企業が「抱えている店員をどうするか」という共通の課題を持つ時期がありました。その際、外部インフルエンサーによる接客や、SNSによるWeb接客を進めるなどさまざまな変革が進んだため、オンラインとオフラインの人員配置を大きく変更する企業も増えました。今回は、なかでも重要度が増している「EC店長」について解説します。

tdub303/iStock

EC運営の専門人材の不足

 最近では当社にも「ライブコマースをやりたい」「店舗スタッフの手が空いているためWeb接客に回したい」「店舗でSNSの更新を行いたい」などのご相談が多く寄せられ、いつかは手をつけるべき存在だったデジタル課題は、半ば強制的に早期に取り組むべき課題へと変化しました。

デジタル課題への対応はコロナ禍で早期化している

 とくにECをはじめとしてデジタル化を進めるうえで課題となっているのが「店長の育成」です。ECでモノを売るにはデザイナーやエンジニアだけでは難しく、結局は商売がわかる「人」が重要になります。われわれはECで商品の売り込みや管理を担当する人を「EC店長」「ECマネージャー」と呼んでいますが、この分野は圧倒的に人材が少ない状況が続いているのです。

専門性の高いEC店長を任せられる人材は不足している

 たとえば、メーカーが卸を介さず直接消費者に商品を販売する「D2CDirect to Consumer)」が浸透しつつありますが、メーカーは販売に関わる業務のほとんどを卸企業に頼ってきたため、売る経験が圧倒的に少ないことが多く、優れた商品を開発できてもそれを売ってくれる「店長」がいません。まさに、EC業界全体で店長不足が大きな課題となっているのです。

EC店長の業務はますます複雑化

 こうしたなか、EC店長を育成することも簡単ではありません。10年前であれば「ECはとりあえず『楽天市場』を攻略する」というタスクに向き合い、1つのオペレーションを覚えれば立派に店長として仕事をまっとうできる時代でした。

 しかし、昨今は楽天市場だけでなく、Amazonをはじめとする複数のECプラットフォームを攻略しながら、自社ECも同時に運営しなければなりません。すべてのプラットフォームで競争が激しくなっているため、勝ち抜くためにはそれぞれの専門的な攻略ノウハウが必要となります。また、配送効率や受注管理システムなどマルチチャネルの運営を最適化してコントロールするスキルも重要です。

EC店長の業務は、以前に比べて複雑化・多様化している

 さらに最近ではSNSも理解して活用する必要があるため、EC店長の仕事はより複雑化しており、そこまで精通している人材はほとんどマーケットに存在しないうえに、いくつもの業務を体系的に教育できる体制が整っている企業はほぼありません。マルチタスクが可能な人材が存在しないうえに、それぞれの作業を分担させたとしてもすべてを取り仕切ることができる人材もいないため、当社のような専門家集団への外注に頼らざるを得ないのが現状なのです。

経営層と現場の認識のギャップ

 オフラインを中心に展開してきた小売事業者が、ECで失敗するパターンはいくつか存在しますが、なかでも厄介なのが、これまで解説してきた「EC店長」という存在への理解不足です。

 たとえば、SNSを触ったことはないが「店長経験がある」「バイヤー経験がある」という経営者がEC店長の仕事ぶりを見ると、「サボっている」と捉えてしまうことが現実的にはかなり多いのです。これは、オフィスにこもって画像を上げたりブログを用意したりするなど、リアル店舗の業務とは異なるEC特有の作業を、経験がないために軽視してしまうからです。結果的に評価軸も定まらないまま、「現場に出ろ」などのズレた会話が飛び交っているのが現状です。

 ECは、昔は限られた人員や特定の部署だけが関わる仕事でした。そのため、EC店長の業務が複雑化し、負担が増した現状を理解せず、今でも「少し頑張れば売上をつくることができる」と思い込んでいる経営層は少なくありません。経営層の期待と現実が大きく乖離してしまい、従業員はその差をなかなか埋められず、何が原因なのかも掴めないまま、思ったような成果を上げることができずにいるのです。こうした状況を現場からボトムアップで上層部に理解してもらうのは、やはり至難の業と言えるでしょう。

 ECはブランド戦略の重要な観点として、あるいは全社的な販売戦略の要としてすでに横断的に取り組むべき重要課題です。このことに気付き始めている大手企業は、ECへの対応を自社の中心的な施策に位置づけています。

 また、店長不在という現実的な理由から、当社のような会社にすべてのブランドのEC戦略を外注するという意思決定も多く見られるようになっています。なかなか思ったような成果が出せない状態が続いており、その原因が見いだせないのであれば、一度本記事でご紹介したようなギャップが発生していないか確認してみてください。また、「デジタルの課題を責任者1人のスキルに頼るのは、現実的ではなくなってきている」ということも、まずはしっかり理解しておく必要があるでしょう。