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ヤフーやメルカリが撤退するも、日本に到来する「ライブコマース2.0」の兆し

非常に高いEC成長率を誇る中国。そんな中国EC市場の飛躍を支え、日本でも本格的な流行が期待されている販売手法が、ライブ配信を通して商品販売を行う「ライブコマース」です。中国でライブコマースが流行し始めたのは何年も前ですが、まだまだ日本ではライブコマースが浸透しているとは言えない状況です。今後、日本におけるライブコマースはどのような立ち位置となっていくのでしょうか。

日本では物販より「投げ銭型」のライブ配信が潮流に

 中国のEC市場規模は2019年の約206兆円に対して、2020年は約262兆円と圧倒的な市場規模でありながら非常に高い成長率を誇ります。アマゾン(Amazon.com)を擁する世界2位の米国が2020年に約90兆円であることを考えると大きな差があり、中国は世界的にも注目を集める市場と言えるでしょう(参考:経済産業省「令和2年度 電子商取引に関する市場調査」)。

 日本でも「ライブコマースが流行する」という話はさまざまな所で語られてきましたが、メルカリの「メルカリチャンネル」やYahoo!の「ショッピングLIVE」など多くのライブコマースサービスが閉鎖されています。その一方で、いわゆる「投げ銭型」のライブ配信サービスは根強いファンを獲得しており、その流れで「これからライブコマースがくる」という声も根強く残っています。

 しかし、「17LIVE」や「Pococha」といった投げ銭型のライブ配信は、外部ECなどに誘導することがルール上NGとなっていることから、物販において相性がよいとは言い難いです。このようなライブ配信の利用者の多くが「推し活」を目的としてライブ配信を消費しており、物販のために利用していないのが現状なのです。

売上増よりファンとの関係構築に効果

 では、現在の日本におけるライブコマースはどのような状況なのでしょうか。ステイホームになって利用が増えているのが、「インスタライブ」などを活用し、長時間配信を行っている店舗です。たとえば、身長150cm未満の女性を対象としたD2Cアパレルが数百日間、毎日配信をしたことで多くのファンを獲得しました。とくにアパレル店舗などからの長時間配信が、現状最も多い成功パターンとされています。

 しかし、これらの情報がメディアで取り上げられる内容を注意深く見てみると「インスタライブやSNSZ世代に刺さる」という内容が大半で、中国のライブコマースのような爆発的な売上を上げている訳ではないのです。現状、日本を含めた中国以外のライブコマースは、物販による爆発的な売上ではなく「ファンとの関係性構築やエンゲージ獲得」がメインとなっているのです。

 

日本におけるライブコマース2.0

 インスタライブ・TikTokYouTubeライブ以外に日本でライブコマースを主だって展開しているプレーヤーを見ると、主要なEコマースのプラットフォーマーでは「楽天市場の楽天ライブ」「au PAYマーケットのライブTV」がライブ配信をコマースと繋げて展開しています。

 楽天ライブでは、ライブ配信だけでなくアーカイブも見られるようになっており、服や食品などを展開。配信時間は最大で「90分まで」となっています。au PAYマーケットのライブTVも同様で、なかには吉本興業の人気芸人が商品を紹介するコンテンツもあります。

 私が所属する「いつも」という企業は、ECの運営代行やコンサルティングを提供しており、お客さまの多くはEC事業者です。楽天ライブに出ているショップ様もいらっしゃいますが、そのなかではおそらく当社がご支援しているブランドが最も売れていると思います。これは、逆にいうと他社ではあまりボリュームが出ていないと言い換えることができます。

 お客さまから「ライブコマースをやりたい」と要望があれば、そのときの売り方や導線、インフルエンサーのキャスティング、台本などの対応を当社は全て請け負っており、ライブコマースに関するさまざまな情報が集まっています。そうしたビジネスに日頃関わるなかで、私は日本でもライブコマースが次の段階に進む「ライブコマース2.0」に発展しつつあるという印象を持っています。しかし、まだまだ解決すべき問題は山積しているのが現状です。

 次回は、日本におけるライブコマースの課題を整理するために、日本と世界のライブコマース事情の違いと、ライブコマース市場の壁となっている原因について考えてみましょう。

 

プロフィール

望月智之(もちづき・ともゆき)

1977年生まれ。株式会社いつも 取締役副社長。東証1 部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつもを共同創業。同社はD2C・ECコンサルティング会社として、数多くのメーカー企業にデジタルマーケティング支援を提供している。自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費トレンドの専門家として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、デジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。
ニッポン放送でナビゲーターをつとめる「望月智之 イノベーターズ・クロス」他、「J-WAVE」「東洋経済オンライン」等メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。