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アメリカの人気ヨガアパレルブランド「Alo Yoga」が繰り出す、巧みなデジマ戦略とは?

筆者は今年1月の「NRF Retail’s Big Show 2022」でニューヨーク、3月の「Shoptalk2022」でロサンゼルスを訪れ、同地の店舗を多く視察した。パンデミックの終わりが見え、マスクをする人が少なくなった街ではコロナ禍で淘汰された多くの店舗と入れ替わるかたちで、「リアル強化」を打ち出す新たな顔ぶれが目立っていた。今回は、なかでも顕著に店舗数を増やしている、ヨガ/アスレジャーブランド「Alo Yoga(アロヨガ)」の戦略についてご紹介したい。

オンラインでつながったファンと「リアルでつながる」ための拠点を拡大

 Alo Yogaは2007年にヨガアパレルブランドとして創業し、17年にオンラインフィットネス動画を制作するメディア企業Codyを買収、オンラインヨガレッスンの「Alo Moves」を展開している。

 共同CEOのダニー・ハリスとマルコ・デジョージによって所有される企業であり売上高は公表されていないのだが、そのほとんどがオンライン販売及びAlo Movesのサブスクリプションによってもたらされているとみられる。実際、ハリスCEOはあるインタビューで、コロナ禍で7つの「サンクチュアリ」と呼ばれるスタジオ兼店舗を一時閉鎖したもののそのダメージはほとんどないと答えており、収益の柱がオンライン事業であることが示唆されている。

Alo Yogaの「サンクチュアリ」(Alo YogaのHPより)

 しかし、このサンクチュアリの出店は拡大傾向にあり、22年5月時点で13カ所となっている。これまで出店していた、ロサンゼルスやニューヨークだけでなく、マイアミやオースティンなど新たなエリアにも進出しているのである。

 その出店計画はシンプルだ。オンライン販売やAlo Movesを通じてどの地域にどれくらいの熱心なファンがいるかを把握したうえで、そこに「サンクチュアリ」を置くことで、”リアルな体験の場”を提供しているのだ。言い換えれば、オンラインで強固なつながりを持ったファンとの関係性をさらに深めるため、いわば”Aloの文化”を共有する場所としてサンクチュアリを位置づけているのである。

 企業名にあるAloはAir、Land、Oceanの頭文字からとっており、自然環境へのコミットメントとして、エシカルなアパレル製造体制を敷いているのが特徴だ。この考えに共感した多くのヨガインストラクターがスタジオやオンラインでヨガレッスンを行い、インスタグラムなどのSNSでも頻繁に情報発信を行っていることで、Alo Yogaのファンをどんどん増やしているのだ。

デジマ戦略の2つの軸

ヨガインストラクター向けのプログラム「PRO PROGRAM」(HPより)

 Alo Yogaとしてもデジタルをマーケティング戦略の中心に置いているのだが、その軸となっているのは大きく2つ、「PRO PROGRAM」と「STUDIO-TO-STREET」である。

 このうちPRO PROGRAMは、ヨガインストラクターを対象としたプログラムである。これに参加すると、常時25%オフでAlo Yogaの商品を購入することができる。そして参加するインストラクターを介して、SNS上でAlo Yogaのプログラムやアパレルについての口コミや情報が発信されていくのだ。

 ヨガというものは、さまざまなインストラクターが構築する「コミュニティ」で成立している。企業がそこにリーチするためにはインストラクターを取り込む必要があり、PRO PROGRAMを通じてインストラクターとの”つながり”を持つ、というのがAlo Yogaのねらいだ。

人気インフルエンサーを活用したブランド戦略「Studio-to-Street」」

  もう一方のSTUDIO-TO-STREETは、絶大な影響力を持つインフルエンサーを活用したブランド戦略である。Alo Yogaの理念を支持するケンダル・ジェンナー、ジジ・ハディッド、テイラー・スウィフトといった著名人がAlo Yogaのレギンスをアスレジャーウェア(スポーツウェアを取り入れたファッション)として着用しているシーンを、公式サイトやSNSなどで拡散している。

 ヨガを単なるエクササイズではなく、ファッションやライフスタイルの1つとして訴求するこの戦略が奏功し、ブランドはNYFW(ニューヨーク・ファッション・ウィーク)の公式パートナーとなるなど、影響力を大きくしている。さらにはグローバル展開も進めており、22年にカナダのトロントに初めての国外店舗を出店、さらに、12カ国で1800以上の小売店を展開するUAE(アラブ首長国連邦)のAl hokairグループとも提携し、フランチャイズ展開による海外市場の開拓も行っていく計画だ。

メタバース上にもサンクチュアリを出店

メタバース上でも緻密なマーケ戦略を実行している

 他方、オンライン戦略に関しては、メタバースの可能性に着目しているようだ。今年2月には、メタバース空間のゲームプラットフォーム「Roblox」に「アロサンクチュアリ」がオープンしている。前述のNYFWに開催に合わせた出店であり、それを記念して公開されたPR動画が初日の夜だけで100万回再生されるなど大きな注目を浴び、その後Roblox上のサンクチュアリの利用者は3カ月で2500万人を超えている。

 アロサンクチュアリは、社名の由来であるAirLandOceanの要素を含んだ”美しい島”の中で構築されている。プレーヤーは島内を探索することで、さまざまなヨガの「ポーズ」をとることができるようになる。また毎日のログインや、アバターを通じた「瞑想」を行うことで、アバター用のオリジナル製品を手に入れられるなどの特典も用意。こうしたサービスを通じて、ヨガやマインドフルネスの体験をより多くのユーザーに広めているのだ。

顧客との「つながり」をアセットとして成長

 Alo Yogaが展開するデジタルマーケティング戦略に学ぶことは多い。顧客はもちろん、インストラクターやインフルエンサーとデジタルでつながり、そのつながりを「アセット(資産)」として成長し続ける仕組みが構築されているのだ。

 ターゲットとそれに適したチャネル・メディアをあらかじめ明確にし、ヨガ関連であれば有名インストラクターから、ファッションであれば人気インフルエンサーのSNSZ世代を中心とした若年層のヨガ市場への取り込みについてはメタバースから、といった具合にあらゆる接点から顧客とつながりAlo Yogaの世界へと誘導していく、というわけだ。

 実際にAlo Yogaのアプリやメルマガ、SNSアカウントなどに触れるとわかるのだが、製品の発売手法もデジタルの強みを活かしたものになっている。毎週のように新商品や新カラーがプロモーションと合わせて発売され、発売日当日にはインストラクターがさまざまなポーズで着用した画像がリリースされるほか、スタイリング提案も行われ、カラーやパターンによってはすぐに完売する。つまり小ロットを短期間で売り切るという販売手法がとられているのだ。情報発信と販売をセットにしたプロモーションを単品ベースで行い、”主役コンテンツ”を毎週のように訴求するという、デジタルに強いブランドが得意とする戦略である。

 リアル店舗を中心として考えた場合、例えば20色あるレギンスをすべて並べて売るのが効果的だろう。しかしデジタルを中心に考えると、まずは10色を発売した後に、毎週1色ずつ情報コンテンツとともに追加しながら販売していくほうが、購買確率や一人当たりの購買点数が向上する。もちろんこの戦略は、情報を届ける顧客とデジタルでつながっていることが前提になる。その点で、Alo Yogaはこの「つながり」を、前述のとおりアプリ、メルマガ、SNS、メタバースを介して持っており、効果的な運用ができるのだ。

 そうした一方で、Alo Yogaは意外にもポイントプログラムを導入していない。これは金銭的メリットによるつながりでなく、情緒や体験を通じたつながりを重視しているからであろう。

 デジタルで顧客とつながっているからこそできる、リアルの出店戦略や集客、体験によるエンゲージメントの強化――。デジタルでのつながりをアセットとして差別化要素を磨き、成長し続ける企業は今後どんどん増えていくかもしれない。