ロイヤルホールディングス(東京都/阿部正孝社長)には、昭和31年(1956年)6月に制定された「ロイヤル経営基本理念」が存在する。その文言は以下の通り。
ロイヤルは食品企業である。
お客様から代金をいただくからには、
一、食品は美味しくなければならない。
一、調理・製造も取扱いも衛生的でなければならない。
一、サービス・販売はお客様の心を楽しませ、社会を明るくするものでなければならない。
以上のつとめを果す報酬として、 正当な利潤を得られ、 ロイヤルも私共も、永遠に繁栄する。
フードサービスの原理原則はQuality(おいしい料理)、Service(素敵なサービス)、Cleanliness(行き届いた清潔さ)の3つの頭文字からとったQSCだが、これをきちんと踏襲している。
さて「ロイヤルホスト」にとっても、人員不足は大きな課題である。その対策としてDX(デジタル・トランスフォーメーション)についてどのように取り組んでいるかを、前回と同様、事業会社ロイヤルフードサービスの代表取締役社長の生田直己氏取材をしたことからまとめておきたい。
「地域に愛されるレストラン」として
「ロイヤルホスト」では、この4月25日に久々の新店となる「光が丘IMA店」(東京都練馬区:以下、光が丘店)をオープンした。同社のPRでは「ロイヤルホストが目指す地域に愛されるレストランとして……」と紹介されていて、これを実現するために「タッチパネル・オーダー」を採用した。
「ロイヤルホスト」がタッチパネルを導入したのは光が丘店が2店舗目となる。1店舗目は、コロナ前にオープンした「銀座インズ店」(東京都中央区)であった。ただ、同店のタッチパネルは、画面が小さくて分かりづらいという課題があり、以降は導入を止めたという経緯がある。ここでの反省点は「タッチパネルを導入することが主たる目的となってしまっていた」と生田氏は述べる。
「お客さまが楽しくメニューを決められるというのがまず前提としてあって、タッチパネルを導入をすることで、従業員がお客さまをより早くご案内したり、料理を最適な状態で持っていけるようになる。また、これまでは一生懸命訓練してメニュー内容を覚える必要があり、それでもミスが起きてお客さまにご迷惑をかけることも多かったが、そのようなこともなくなる。これにより、従業員が早く成長できるようになり、その結果、当社のホスピタリティをより表現できるようになる」
そして、「光が丘店でレビューをしながら既存店に(タッチパネルを)入れていこうと考えている」と語る。
筆者は「それは、接客サービスの省力化が狙いか」と尋ねたところ、生田氏は毅然としてこう答えた。
「大きな目的は、お客さまにどのように楽しんでいただきながらオーダーをしていただくかということ。従業員がオーダーに関わらないぶん、別の付加価値に変えていく。何よりも、従業員の教育・訓練の時間が短くなる。採用難でもあり、人の入れ替えが激しくなっても安定したQSCを提供するということにつなげていきたい」
DXはホスピタリティを充実させる存在
「ロイヤルホスト」では、これまでの経験から、DXはお客にとって店からのサービスを十二分に感じてもらうことが重要だという認識を深めている。
その象徴的なできごとが、コロナ前の「セミセルフレジ」での経験だ。セミセルフレジ会計はお客にお金を入れてもらうのだが、導入当初は、「なんで私たちがお金を入れないといけないの」とお客に怒られたという。
お客がレジの向こう側にいる従業員と向き合っている場合、従業員はお客と向き合いながら説明する。そこでアルバイトから「お客さまの隣に寄り添って説明をしてみてはどうか」という提案があった。その通りに実践すると、お客から「ありがとう」と感謝されるようになったという。
その対応にお客は店の「おもてなしの心」を感じ取ったのであろう。そしてコロナ禍となり、「こんな衛生的なレジはありません」という言葉。「DXを導入して、ホスピタリティがより充実した」ことを感じ取っていただくことを学びとしている。
外食産業にとって「人員不足」は現実的な問題である。筆者は生田氏に「DXは人員不足を解消できるか」と尋ねた。すると、過去のリアルな経験からこのように述べた。
「現場のたたき上げである私の立場から言えば、いつの時代も人員は足りていない。私が入社した当時の『ロイヤルホスト』は24時間営業をしていたので、ミッドナイトにお客さまがドドーッと来店される。しかし、人員が不足していたために客席の一部を閉めて営業していた。それが悔しくてたまらなかった」(生田氏)
この話題をベースに生田氏が主張したことは「マネジメントは一貫していなければならない」ということだ。「少子高齢化だから人員不足だ」といった言い訳が通ってしまうと、事業は衰退していく。お客も「人手不足なんだから仕方ない」となれば、世の中の価値が下がってしまう。
このような側面から、DXは「“外食産業の質”を担保するためにはどうすればいいか」ということを考え抜いていく必要があると生田氏は主張する。「マネジメントはこのようなことを意識して、店や社内でのコミュニケーションを密接に行なうべき」と生田氏は語る。