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導入店舗急増中のイオンリテール「レジゴー」 利用者の買い上げ単価が増える理由は?

レジゴーを利用する客

コロナ禍の影響で、小売業の店頭では非接触・非対面がニューノーマルとして定着した。加えて「レジ待ちの列に並びたくない」「スピーディーに支払いを済ませたい」という顧客ニーズもいっそう強まっている。こうしたニーズに対応するため、流通各社はレジレス決済システムの導入を加速している。“レジに並ばない”買い物スタイル「レジゴー」の運用を開始している、イオンリテール(千葉県)の現状と戦略をまとめた。

店舗に貸出用のスマホを配置

イオンリテール 執行役員 システム企画本部長 山本 実氏

 イオンリテールは2019年5月より、スマホ精算システム「レジゴー」を導入している。当初は高齢者を含め、スマホを持たない人でも使えるように専用の貸出用スマホを店頭に導入する形でスタート。その後、順調に利用店舗数、利用者数が増加、リピーターにとっては自分のスマホを使った方が利便性が高いこともあり、21年4月にはiOS版のアプリの配信を開始し、その後Android版のアプリも追加している。

 レジゴーの使い方は以下の通り。商品をスキャンしたら、ショッピングカートやカゴにそのまま商品を入れる、会計は、専用スマホ内の「お支払い」を押した後に、専用レジの2次元バーコードを読み取り、専用レジで会計をするという仕組み。

 専用のスマホなら、レジゴーのサービスを利用するために、わざわざアプリをダウンロードする手間が省けるし、ID登録による個人情報に触れることもない。誰でも買い物に訪れて貸出用スマホを手にすれば、レジゴーを利用できるため、「スマホを触ったことがない高齢者にも喜ばれている」とイオンリテールのシステム企画本部長、山本実氏はいう。

プライスカードにあるバーコードを読み込むことでもスキャンができる

 買い物客にとってのメリットは、店内で買い物をしながら買ったものをスマホ画面上でチェックでき、その都度、買い物の合計金額も確認できる点。もちろん店舗スタッフとは非対面、非接触で決済できる。決済もクレジットカード、WAONなどの各種電子マネーに加え、現金でも可能だ。イオンリテールの山本氏は、「食料品などたくさん買い物をする人は、レジで店舗スタッフが商品のバーコードをひとつひとつスキャンする時間を省けるし、レジ待ち時間も減らせる。マイバッグにそのまま商品を入れられるので、支払いの後でカゴからマイバッグに入れなおす作業も無くなる」と顧客体験(CX)向上に役立つ仕組みだと強調する。

 さらにレジゴーの利用により「買い上げ単価が上がる」のだという。理由は、端末に表示される、スキャン済み商品のリスト。「お客さまは買い物時に『予算』があるもの。導入当初は合計金額内に収まるよう買い物されると思っていたが、それ以上に買い忘れの問題が大きくあった。我々もなかなか1回の買物で全て買い揃えることができずに後日近隣のドラッグストアやコンビニなどで購入していることが多い。レジゴーだと買物の途中でスキャンした商品を画面上で確認でき、買い忘れが少なくなり購買点数が上がっていると考えられる。レジゴー利用者の買い上げ単価は明らかに高く、とくに調味料などが買われるケースが増える」(山本氏)のだという。

 レジゴーの利用により、結果的にお客の入店から買い物、退店までの一連の流れがスムーズになる。そのため、「買い物から決済までのハードルが下がる『アクセシビリティの改善』につながっている」(山本氏)という。

カートに貸出用スマホを固定して買い物を実施できる

21年度中に100店舗に展開目指す

 20年3月に2店舗で開始して以来、イオンリテールでは段階的にレジゴー導入店舗を増やしてきた。「買い物客にも好評で注目度も高い。導入したいという店舗側からの要望も増えてきた」(同)。イオンリテールでは、21年度末までに100店舗での導入を計画している。ただし、全国各地に導入するというよりは、特定の都市、特定のエリアに集中して展開する方針だ。同じエリアにレジゴーを設置すれば、特定の商圏内での認知度が高まるうえ、1人のお客さまがどこのお店に行ったとしても、レジゴーを利用することができるからだ」と語る。

 21年4月からは、貸し出し用端末を使わずに、お客自身のスマホを使えるよう、レジゴーアプリを開始。さらに、非接触ニーズに徹底的に対応するため、ゲートにかざすだけで会計確認が完了する「レジゴーゲート」の導入も拡大しており、導入店舗拡大に弾みがつきそうだ。

レジゴー専用の精算機では非接触決済が可能

CX向上に加えてEXの向上も実現

 なお、同じイオングループで、マルエツやマックスバリュ関東、カスミといった食品スーパーを傘下に持つユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)でも、同様にレジ待ち解消を目的にスマホ決済システム「スキャン&ゴー・イグニカ」を20年11月から運用開始し、導入店舗を増やしてきた。

この仕組みとはどこが違うのだろうか?

 基本的な買い物の流れは一緒だが、1つは、レジゴーは店頭に専用端末を置いて、スマホを持たない人でも、アプリをダウンロードしていない人でも利用可能な点だ。

 次にレジゴーはクレジットカードの登録が不要である点も大きな違いだ。「結局はセキュリティのレベルをどこに設定するかで仕組みが変わってくる」と山本氏は、レジレス決済の仕組みを検討する上での難しい点を語る。

 利用率を上げるという点も、店頭に貸出用スマホを置いておけば、気軽にレジゴーを使用できる点は大きいだろう。実際、これまでの利用率は20%を超えていると言い、想定以上に買い物客には好評のようだ。山本氏は「結局はハードルを下げて仕組みを開発したレジゴーの使いやすさが評価されているのだと思う」と語る。

 店舗側も取り扱いが簡単なことが、導入店舗が増えている要因だ。「あたらしい仕組みも店舗スタッフにとって手間が増えるだけでは、積極的にお客さまに利用を促すように取り組んでくれない。その点、レジゴーの普及に関して、積極的な店舗が多い」という。

入店時にカートにマイバックをセットし貸出用スマホをとるだけで簡単に買物が可能

 このようにイオンリテールでは、DX、CX向上に向けたデジタル化が進むなかで、「レジレス決済」という切り口で大きな成功体験を得、拡大フェーズへと進んでいる。その成功のカギは、お客が使って便利であるというCX向上のみならず、店舗のスタッフにとっても利便性が高く、手間がかからないというEX(従業員体験)にまで踏み込んでいるからと言えるかもしれない。