少子化、高齢化、人口減少を前にコンビニエンスストア(以下、コンビニ)業界は、都市部ではさらなるシェアを獲得すべく大量出店、地方では消費の伸び悩みに対応すべく店舗戦略の見直しなどを進めてきた。しかし、新型コロナの蔓延によって、コンビニを取り巻く環境は、一段と大きな変化を見せ、過去の政策の再見直しが迫られている。そんな中、ファミリーマート(東京都/細見研介社長)は、JR東日本スタートアップ(東京都/柴田裕社長)とサインポスト(東京都/蒲原寧社長)が設立したTOUCH TO GO(東京都/阿久津智紀社長:以下、TTG)に資本参加するとともに、同社が開発した無人決済システムを導入したサテライト店舗を、東京駅に隣接するサピアタワーにオープンさせている。なぜ、無人決済システム導入なのか? ファミリーマートの動向を追った。
直営店のほか鉄道会社運営店、郵便局にも設置
ファミリーマートは、2021年3月31日に「ファミマ‼サピアタワー/S店」をオープンさせた。続く8月13日には西武鉄道がフランチャイジーとして運営する駅ナカ・コンビニ「トモニー中井駅店」(西武新宿線)をリニューアルオープン。10月12日に東武鉄道グループの東武商事がフランチャイジーとして運営する「ファミリーマート岩槻駅店」(東武アーバンパークライン)、10月29日には日本郵便とともに初の郵便局内のサテライト店舗として「ファミリーマート川越西郵便局/S店」を開設した。
TTGの開発した無人決済システム導入店舗を順次開店している理由について、狩野智宏・ファミリーマート執行役員ライン・法人室長は以下のように話す。
「コンビニは、フォーマット化された店舗を大量出店することで順調に規模を拡大してきました。ファミリーマートの場合は、商圏内に一定数のお客さまが来店してくださることを前提に、常時2人以上のスタッフを配置し24時間営業体制を維持してきました。しかしコンビニの合計店舗数が5万5000店を超えて、約2200人に1店舗が存在する中では、商圏の捉え方を変えなければ次の成長はありえないと考えるに至りました」。
そこで、目を付けたのが、従来よりも狭域の「マイクロマーケット」だ。
「これまでは商圏内において目標の客数が見込めない場所への出店は避けてきました。しかしそこでも出店できる方法は何かと考えた時に、たどり着いたのが常駐スタッフ1人での店舗運営でした。実は、スタッフの1日の業務の3割くらいがレジでの接客なのです。ここを自動化することができればオペレーションコストの低い店舗運営が可能になります」(狩野氏)。
そんな考え方から生まれたのが、従来よりも小規模で無人決済システムを導入した店舗である。
誰でも利用可能にするためアプリも顔認識も不要に
無人決済システムの選定では、上述したように狭域商圏で利益を上げるフォーマットである以上、ローコストであることが大前提だった。そのため、大量のカメラやセンサーを配置して投資が膨大になることは避けた。
しかしそれ以上に重視したポイントは「利用客にストレスを感じさせない」ということだ。
「コンビニは通りがかりの方が気軽に利用できる店舗です。利用するときに専用アプリを立ち上げる必要があったり、顔認証で個人を特定しないと使えないという仕組みはマッチしません」(狩野氏)。
その点で、TTGのシステムはアプリや専用のソフト、顔認証も不要だ。決済は現金やクレジットカード、交通系電子マネーも使える。
TTGの無人決済システムは、欲しい商品を手に取りバッグなどに入れ、出口のディスプレーで購入した商品を確認して決済を行うだけ。ファミリーマートにとっては新しい仕組みだ。それだけに、導入に当たっては慎重を期したと推測できるが、意外にもそれほど迷うことなくすんなりと決まったのだという。
「何社かいろいろなソリューションを拝見しましたが、この仕組みが一番、当社の考え方に合致すると即断しました。TTGにもかなりスピーディに対応してもらいました」と狩野氏は振り返る。
もうひとつ。TTGは、システムをサブスクリプションで利用できるため、初期投資がかからないというのも導入しやすかったポイントだ。
売場面積55㎡に700アイテムを揃える
無人決済1号店の「ファミマ!!サピアタワー/S店」は、東京駅に隣接するサピアタワーの1階で展開している。同タワーの3階には従来型の店舗がある。
「1号店をどこにするのかは『母店とサテライト店を組み合わせて運営できる直営店』という理由でサピアタワーに決めました。交通の要衝である東京駅だからということではありません。3階に母店がありますので、2店を一緒に運営しコスト削減を図りながら、お客さまの動向をうかがうことができます。また、たとえ突発的な事態が起こっても3階からスタッフが即座にヘルプに入ることができます」(狩野氏)。
無人決済店舗ではあるが、バックヤードにはスタッフ1人が常駐している。酒類やたばこなど年齢確認が必要な商品を扱うには、カメラでお客を確認する必要があるためだ。無人決済が初めてで戸惑っている利用客がいれば、バックルームから出てサポートもする。
1号店の店舗面積は55㎡で約700アイテムの商品を揃える。通常のファミリーマート店舗は3000アイテム程度を扱っているが、無人決済店舗ではその中からファミリーマートの基準で抽出した約700アイテムに決定した。ただ、いまのところ動作保証上、加温した飲料やフックにかけてある商品、アイスクリームなど冷凍ケースにある商品も扱えないという。
売れ筋商品は通常のコンビニと同様だ。「無人決済店だからと言って、特別に商品を変えていません。ランチタイムならサンドイッチやおむすび、弁当などが同じように売れています」(狩野氏)。
この無人決済システムの導入によって、決済のスピードは「確実に速くなっている」(狩野氏)という。
従来型店舗の場合、レジカウンターに行って、スタッフがスキャンして「何点でいくら」と言われてから現金なりクレジット、電子マネーなどで支払う。セルフレジの場合でも自分でスキャンして支払いをする。カメラとセンサーで商品を判断する無人決済店舗の場合、ひとつひとつスキャンする時間が省かれているからだ。
母店に対するサテライト店という位置づけ
今後の無人決済店舗の出店戦略はどうなっているのか?
基本的には母店が存在する狭域商圏にサテライト店として出店する。
2号店、3号店は、西武鉄道や東武鉄道といった鉄道会社グループのフランチャイジーによる出店となったが、駅売店の潜在性は大きいという認識だ。
それというのも駅売店は人件費削減や運営効率化のために、次々と閉鎖されてきた過去があるからだ。狩野氏は「閉鎖の場合、新聞、雑誌やたばこなどの売上が失われてしまいます。たとえば日販10万円ならば、年商3650万円×店舗数分の売上が消えてしまいます。けれども小規模で運営費の低い店舗なら採算ベースに乗る可能性が高くなります」。
実際、提携する鉄道会社から「無人決済店舗を出店したい」という問い合わせを多く受けるという。となると、鉄道関連の売店だけでもかなりの数の出店が見込めることになる。
さらに小規模店舗がマッチする病院や公共施設内の売店、オフィス、大学キャンパスなど出店が見込める場所は多い。
ファミリーマートでは2024年度までに無人決済店舗1000店の出店を目標としている。
「当社の無人決済店舗は、実験ではなく実用・大量出店の段階に入っています。今、取り組んでいるのはモジュール方式の無人決済店舗です。例えば2.5坪をミニマムなモジュールとして、2つつなげれば5坪、4つつなげれば10坪というように不動産に合わせて変幻自在に店舗規模を変えられます」(狩野氏)。
そして店舗数を増やしながら、バージョンアップを図っていく。
「1000店も出店できれば、カメラやセンサーなどのコストも変わってくるでしょう。立地と店舗面積にあったアイテムを柔軟に揃えて狭商圏の需要にも対応したい。いずれにしても、これまで出店が困難であった立地における、無人決済店舗を各所にアピールしていきたいところです」と狩野氏は抱負を語った。