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急拡大するイケアのEC売上 「顧客体験をつなげる」ビジネスのオムニチャネル化とは?

イケアは1943年の創業以来、郊外の大型店舗で家具を販売するビジネスモデルで成功を収めてきたが、近年、デジタル化の流れを受けて戦略を転換。イケア・ジャパン(千葉県/ペトラ・ファーレCEO)も2017年、EC事業を本格的に開始した。同社カントリーデジタルマネージャーの野崎智子氏は、EC事業で最も大切なのは「顧客体験をつなげる、ビジネスのオムニチャネル化」だと話す。野崎氏にイケア・ジャパンのデジタル戦略のこれまでと、これからを聞いた。

ECで重要度が増した「カスタマーサポート」

海外のオンラインストア

 2020年度、イケアの全世界売上に占めるECの比率は18%で、日本においても着実に成長を続ける。EC売上増の理由をイケア・ジャパンのカントリーデジタルマネージャー・野崎智子氏は「コロナ禍で、家からお買い物を楽しむ方向へ、顧客の行動が変化したため」と分析する。

 野崎氏によると、過去約1年半で、カスタマーサポートセンターへの顧客からの相談が爆発的に増えたという。特に、オンラインでの購入の仕方、在庫に関する質問、組み立てが複雑な家具などをオンラインで購入したいという顧客からの問い合わせが多い。変化したニーズに応えるために、急ピッチで、インテリアのアドバイスやプランニングをビデオ通話を用いて相談できるサービスを始めた。

 イケアの強みは、約4万㎡の大型店で優れたデザイン、品質を兼ね備えた商品を低価格で、バリュエーション豊富に提供するところにある。野崎氏は、店舗でできる顧客体験をオンラインでも可能にすることが大切だと話す。電話注文サービスを始めたのも、その一環だ。

 「イケアの家具の特徴は、一つの商品にさまざまな機能、用途があることです。店舗であれば、スタッフに分からない点を聞くことができますが、オンラインでは難しい。だからこそ、オンラインのカスタマーサポートに力を入れています。現在では販売やインテリアに関するさまざまなサービスを提供するお客さまの重要なタッチポイントとして、進化を遂げています」(野崎氏)

 また、コロナ禍を機に、インスタグラムやYouTubeを用いて顧客がイケアと接触できるチャネルを拡大した。インテリアのトータルコーディネートを、実際の店舗から配信する取り組みだ。イケア・ジャパンの公式アカウントはフォロワー数102万人を超えており、その人気ぶりが伺える。ライブの視聴者は、購入する家具の機能やデザインを、インテリアにどう活かすか、コーディネートの参考として楽しんでいるという。

 店舗、EC、ライブコマース、カスタマーサポートセンターと、顧客とのタッチポイントは多岐に渡る。その核となる概念は、顧客自らが家具をコーディネートする、能動的な「セルフサービス」だと、野崎氏は話す。イケアのオムニチャネル戦略は、どのプラットフォームでも、共通のブランドメッセージを伝えることを意味するのだ。

都心型店舗の出店とアプリ開発の狙い

IKEA原宿内観

 イケア・ジャパンは20年、初の都心型店舗であるIKEA原宿をオープンさせた。「ブランド認知度の向上」および「都心部における利便性」が出店のねらいだ。同店の総面積は約2500㎡と、大型店よりもかなり小さいため、商品点数も限られる。そこで、いちばん小さなイケア店舗というコンセプトのもと「IKEAアプリ」もIKEA原宿オープンに合わせて公開した。

 「IKEAアプリは、商品点数が少ない中で、いかに豊かな顧客体験を実現するか、という観点でスタートさせました。ECサイト『IKEA オンラインストア』との違いは、アプリの方がより直観的で、使いやすい点です。必要なコンテンツだけが表示され、お買い物完了までも非常にスムーズ。特に、若い世代に支持されています」(野崎氏)

 顧客チャネルをつなげるための仕掛けも用意している。IKEA原宿では試験的にAR技術を搭載した「IKEA原宿アプリ」を開発・導入。その面積から、例えば6色展開の椅子を全て並べることはできない。そのため、売られている青色の椅子の商品タグにはQRコードが記載されており、スマホで読み込むと、全てのカラーをARで好きな場所に配置して見ることができる。客は店舗にない商品でも、アプリで購入することが可能だ。

イケアアプリ使用イメージ

 リアル店舗とオンラインとの融合が、都市型小型店戦略のカギだと言えそうだ。78年間、郊外での大型店でビジネスを進めてきたイケアだが、世界的なヒトの都市部への移動というトレンドを受け、試行錯誤しながらビジネスモデルの変革に挑んでいる。野崎氏によると、最近は、店舗で商品を見て、オンラインで買い物をする顧客も増えているという。

オンラインでも、店舗と同じサービスの実現を 

 野崎氏は、商品の配送も、オムニチャネル戦略において重要な位置づけにあると話す。現在、オンライン販売における配送は、全て店舗から行っているが、郊外の大型店、都心部の小型店を含めて、EC向けの物流能力をいかに拡大するかが近年の課題だという。物流コストが高い日本の市場の中でも、顧客に安く商品を提供するために、インソーシングでの配送の試みも始めている。

 今後は、家具の組み立てサービスや返品といった、店舗では当たり前にできるサービスをオンラインでも可能にすることに注力する構えだ。

カントリーデジタルマネージャーの野崎智子氏

 「例えば、家具の組み立てサービスは店舗では簡単に申し込むことができます。ですが、オンラインに全て移行するためには、現場レベルでのオペレーションの変革が必要で、簡単ではありません。しかしコロナ禍という後押しもあり、オンラインでできることは過去1年半でかなり増えてきました。デジタル化の実現には、上層部だけでなく、現場を含めた社内の意識改革が欠かせません。今後も、オフラインとオンラインのギャップを埋める努力を続けていきます」(野崎氏)