楽天(東京都)と西友(同)および神奈川県横須賀市は3月23日、同市内において自動配送ロボットを使った西友店舗からの商品配送サービスを期間限定で開始した。自動配送ロボットが公道を走行し食品スーパーの商品を配送する取り組みは、日本国内では初めてのこととなる。
ついに自動配送ロボットが公道を走行!
楽天と西友が、日本の買物に大きな変革を起こし得る取り組みをスタートさせた。
両社と横須賀市の3者は3月23日、同市内の馬堀(まぼり)海岸地区において、「西友馬堀店」を拠点にUGV(Unmanned Ground Vehicle)と呼ばれる自動配送ロボットを使った商品配達サービスを開始した。UGVは地域内の公道を走行し、顧客宅まで商品を配送。UGVが公道を走行して食品スーパーの商品を届けるという取り組みは国内では前例がなく、初めてのこととなる。
サービスの概要は次のとおり。対象地域の住民はスマートフォンから専用の注文サイトから商品を選択、あるいは店頭のサービスカウンターで、住所と希望する配送時間帯を指定する。西友の店内で従業員が商品をピックアップしてUGVに格納、UGVが顧客宅まで自動走行し、到着すると顧客のスマートフォンに通知が行く。利用客はUGVの側面にある操作パネルに暗証番号を入力して解錠し、商品を取り出すという流れだ。支払いは楽天のアプリ決済「楽天ペイ」で行われる。
対象となる商品は飲料、米、菓子、調味料、日用品など常温商品を中心とした約400品目。生鮮食品や冷凍食品など冷蔵・冷凍の商品は対象外となる。配送エリアは西友馬堀店周辺の約200m×約120mの範囲で、受付時間は10時~15時30分、1日の配送枠は11時、12時、13時、14時、15時、16時(いずれも店舗発時刻)の計6枠。サービス実施日は3月23日から4月22日までの1カ月のうち、火曜日と木曜日の計10日間となっている。このように限定的なエリア・日時での実験ということもあり、手数料は無料とした。
パナソニック製のUGVを使用
一方、今回導入したUGVはパナソニック製で、サイズは全長115㎝・横幅65㎝・高さ115㎝。最大積載量は30㎏(買物カゴ約4個分)。最高速度は時速4kmで、実際の配送も時速4km程度で行われる。
UGVには4つのカメラとドライブレコーダー1台が搭載されており、前者でクルマや人などの障害物を察知する。また、配送エリアから約5km離れた「横須賀リサーチパーク」でUGVの動きを遠隔監視しており、不測の事態の際にはすぐに遠隔操作に切り替えられる仕組み。さらに、UGVの配送時には保安要員が随行。国内初の公道走行による配送サービスということもあり、安全性に徹底的に配慮している。
配送ルートについては、UGVにあらかじめ3Dマップがプログラミングされており、地図情報のほか一時停止などの標識情報も踏まえて自動で作成される。
UGVの役割が高まりつつある理由
楽天、西友、横須賀市の3者は2019年から、横須賀市が推進する「ヨコスカ×スマートモビリティ・チャレンジ」の一環として、一般消費者向けの配送サービスの実験を開始。「横須賀は山や坂が多く、高齢化も進んでおり、日常生活に不便や不安を覚える方も多い。新しいテクノロジーを活用し生活を維持向上させていく必要がある」(横須賀市の上地克明市長)という課題を共有し、それを解決するための施策を共同で展開してきた。
まず19年7月から約3カ月にわたり、横須賀市内の「西友リヴィンよこすか店」を拠点に、年間約20万人が訪れる横須賀沖の猿島に向けてドローンを使った商品配送サービスを開始。バーベキューや海水浴などで多くの人々が島を訪れる時期に、生鮮品を含む食品や飲料、救急用品など約400品目を配送した。さらに同年9~10月にかけては、同じくリヴィン横須賀店を拠点に、同店に隣接する港湾緑地「うみかぜ公園」でUGVを用いた商品配送サービスも行っている。
3者の取り組みとしては3つめにあたる今回の配送サービスだが、「自動配送ロボットが公道を走行して顧客宅まで商品を配送する」という事実はやはり特筆すべき点だろう。もちろん、国土交通省による「自動配送ロボットの基準緩和認定制度」と、道路使用許可を得たうえで実現した期間限定の取り組みであり、すぐに全国各地で拡大できるものではない。しかし、実際に公道を使った商品配送サービスを日本で初めて稼働させることで得られるデータや知見は、大きな価値を持つことは間違いないだろう。楽天の執行役員ロジスティクス事業ヴァイスプレジデントの小森紀昭氏は、「ラストワンマイル配送については、UGVとドローンを次世代技術のコアとして考えている。今回のサービスを通じて安全性を認知していただき、『UGVがすぐそばにある生活』を早くお届けしたい」と力を込めた。
また、コロナ禍での買物行動の変化に対応したツールとしても、UGVの注目度は高まりを見せつつある。西友の店舗運営本部バイス・プレジデントの小川秀展氏は、「昨年から”密”を避けた買物に対するニーズが高まっており、ネットスーパーの売上が急増している。今回のUGVの配送サービスには、買物ニーズが多様化するなかで大きな期待を寄せている」と話した。
物流領域での人手不足、少子高齢化や過疎化による買物難民の増加、そしてコロナ禍での買物に対するニーズの変化――。社会に山積するこうした課題を解決するうえで、UGVの担う役割は大きい。しかし法規制の問題や、安全と効率を両立したオペレーションの策定など、導入拡大に向けてはハードルも多く存在する。今回の取り組みも実験の域を出ない面はあるが、楽天と西友が国内の無人配送の領域では一歩抜きんでた存在となることは間違いないだろう。