メニュー

EC基幹システムをクラウドへ全面移行 スクロールの描くECの未来と基本戦略

2020年12月18日、スクロール(静岡県/鶴見知久社長)と日本オラクル(東京都/三澤智光社長)は、スクロールのEC基幹システムを日本オラクルの提供するクラウドサービス「Oracle Cloud Infrastructure(オラクル・クラウド・インフラストラクチャ:以下OCI)」へ移行したことを発表した。1拠点あたり1日約15万件の受発注処理を24時間365日行う、大規模な基幹システムのOCI移行はまだ例が少ないという。今回のOCI移行の旗振り役を務めた、スクロール取締役執行役員システム統括部長の小山優雄氏に話を聞いた。

スクロールとは

 スクロールは、主に女性アパレル、雑貨、化粧品などの通信販売業および、EC・通販事業者へのソリューション事業を行う企業だ。1939年に武藤洋裁所として静岡県浜松市で創業。その後、70年にムトウ、2009年にスクロールと社名を変更し現在に至る。当初は婦人会向けの直接販売でスタートし、その後生活協同組合の会員向け通販、個人向け通販と事業を拡大してきた。近年はM&A(合併・買収)を中心としたECおよびソリューション事業の強化を進めている。

 直近の業績は、コロナ禍によるEC需要の高まりを受け、2021年3月期第2四半期決算での売上高(対前年同期比)14.3%増、経常利益(同)141.5%増となった。なお、20年3月期通期の売上高は726億3400万円だった。

ECにおけるクラウドサービスの利点

 コロナ禍の後押しもあり、EC・通販事業への需要は高まり続けている。しかし、その成長に伴って問題となるのが、取扱データ量や処理量の爆発的な増加だ。増え続ける顧客データや商品データ、そこに在庫管理や消費期限の管理も加わって莫大な量になっている。

 スクロールは19年に創業80周年を迎えた老舗企業でありながら、ICT(情報通信技術)を用いたECシステムの強化・効率化に“超”積極的に取り組んでいる。元々スクロールは、サーバーなどを自社で保有・運用する「オンプレミス」によるECサービスを提供してきたが、オンプレミスでは上で述べたような問題への対応が難しくなると予測し、およそ10年前からクラウドへの段階的な移行を行ってきたという。

 オンプレミスの欠点の一つに、保持できるデータの容量に融通が効きにくいという点がある。日々取り扱うデータが増える中、将来の需要をあらかじめ予想してサーバーの容量を決めるのは至難の技だ。クラウドであれば必要に応じて自由自在に容量を変えられる。また、一定の時間内に集中して1日の処理を行う必要のある基幹システムも、オンプレミスで期待通りのパフォーマンスを得るためには、高いサーバーコストがかかり続けることがわかった。

 このような問題点を解決したのが、日本オラクルの提供するクラウドサービスOCIだ。OCIは、非常に負荷の高い処理にも耐え、スクロールの要求処理速度に余裕を持って応えることができた。また、クラウドで問題視されがちなセキュリティについても高い安全性を持っていることから導入が決まった。

ICT戦略のカギは“ICT4ヶ条”と将来を見通す高い目線

 こうしたスクロールのICT戦略を推し進めているのが、取締役執行役員システム統括部長の小山優雄氏だ。小山氏は“ICT4ヶ条”を掲げ、さまざまな施策を実行に移してきた。今回のOCI移行の軸にもなった4ヶ条の1つ目「クラウドファースト」は、クラウドの持つ柔軟性を生かして必要な分だけ資源を調達し、余分なものは持たないという姿勢だ。2つ目の「レスポンシビリティ」は、安全性と利便性を調和させることを指す。3つ目、4つ目は「ユビキタス」(いつでもどこでもICTを利用できること)と「BCP・DR」(BCP:事業継続計画/DR:災害復旧)で、いつでもどこでも、継続的に利用できるサービスをめざす、というものだ。

スクロール取締役執行役員システム統括部長 小山優雄氏

 小山氏が考えるICT戦略の肝は、「5年先、10年先にどのようなシステムを備えていなくてはならないかを常に考える」(小山氏)ことだ。目先の問題やコストにとらわれるのではなく、将来を俯瞰した上で戦略を立てているという。その上で、基幹システムのクラウド化という一つの区切りを迎えたスクロールが次にめざすのは、保持する莫大なデータの活用だ。
クラウドに移行したことで、スクロールが持つさまざまなデータが一箇所に集約され、利用しやすくなった。個人情報など保護すべきものは厳重に取り扱うが、それ以外の購買データや閲覧履歴などは積極的に活用していく考えだ。「クラウド化はこれからめざす世界の前提でしかない。情報を持っている企業はそれだけで強みになる」と小山氏は話す。

次のキーワードは“生き残り”

 小山氏によればこれからの小売は、同業他社と争うのではなく、マーケットから要求されるものに協力しあって応えていくという世界になっていくという。「その中で最終的に生き残り、いかに存在感をアピールできるかが各社の腕の見せ所だ。そのためのクラウドでありそのための情報活用」と小山氏は考えを語った。今後もスクロールは日本オラクルと協調し、さらなるビジネスの拡大をめざす。