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好調の無人AI決済店舗「TOUCH TO GO」 アフターコロナの小売業成長株に?

2020年3月23日、JR山手線・京浜東北線の新駅「高輪ゲートウェイ」駅構内にオープンした無人AI決済店舗「TOUCH TO GO」。新駅開業効果やメディアでの報道などによって大きな話題を集めたが、直近では新型コロナウイルスの感染拡大により一部曜日の休業に踏み切るなど逆風が吹く。しかし、同店を運営するTOUCH TO GO(東京都:以下TTG)の阿久津智紀社長は、「コロナショックはむしろ追い風になる」と息巻く。その理由とは。

オープン後1週間の日販は80万円!

JR山手線・京浜東北線「高輪ゲートウェイ」駅にオープンした「TOUCH TO GO」

 TOUCH TO GOの店舗面積は約60坪。弁当・総菜、菓子、飲料、雑貨など約600アイテムを揃える。「無人AI決済店舗」をコンセプトとして掲げるが、もう少し咀嚼すると「ウォークスルー型の完全キャッシュレス店舗」とも表現できる。

  利用客は店内に入り欲しい商品を手に取った後、出口付近にある”決済ゾーン”に立つと、ディスプレー上に選んだ商品と合計金額が自動で表示される。あとは交通系ICカードを“タッチ”するだけで退店可能。今後、クレジットカードや各種電子マネーなど決済手段を拡大する予定だ。

  こうした仕組みを可能としているのは、店内の天井部に設置された約50台のカメラや、商品棚の重量センサー。これらが利用客の動向や商品の動きを認識している。規模は異なるものの、米アマゾンのレジレス店舗「アマゾン・ゴー」で導入されているシステムに類似したものだ。

  一方でアマゾン・ゴーと異なるのが、利用にあたって専用アプリのダウンロードが必要ない点である。前述のとおり決済手段はJR東日本の「Suica」をはじめとする交通系ICカードで、これさえ持っていれば誰でも使うことができる。首都圏の鉄道利用客のほとんどは交通系ICカードを所持しているだろうから、利用ハードルは低いと言えるだろう。

TOUCH TO GOの詳細についてはこちらの記事を参照→話題の新駅「高輪ゲートウェイ駅」にAI無人決済店舗「TOUCH TO GO」が誕生!アマゾン・ゴーにはない利便性とは?

  鳴り物入りでオープンしたTOUCH TO GOは、開業直後からTTGの予想を上回る盛り上がりを見せた。阿久津社長によると、「1日の売上目標を30万~40万円程度に設定していたが、オープン初日(23日)は120万円を超え、その後1週間は平均して180万円程度の売上があった」という。TVやネットなどで大きく報道されたほか、高輪ゲートウェイ駅がJR山手線では49年ぶりの新駅ということもあり、見学客が殺到したことで売上を大きく伸ばした格好だ。

 “見学需要”がひと段落した後も、1日の平均売上は50万円程度で推移。「オープン当初はTTGのオリジナル商品(ノベルティグッズ)がよく売れていたが、最近はパンや飲料、夕夜間はアルコール類の販売が好調」(阿久津社長)といい、駅利用客にふだんの買物スポットの1つとして受け入れられているようだ。商品の認識率も90%超に上り、稼働状況も安定している。

 

「他人と接触したくない」という新たなニーズを取り込む

TOUCH TO GOはアフターコロナの小売市場における成長株になるか

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大という大きな試練に直面しているのは、TOUCH TO GOとて例外ではない。開業間もない32829日・445日には東京都からの外出自粛要請に応え臨時休業、その後5月末まで土曜日曜の休業を決定している。

  そのため売上面では一定の影響を受けているものの、コロナウイルスが「追い風になる」と阿久津社長が見る背景には、TOUCH TO GOの「非対面・無人決済」というコンセプトがある。お客と従業員、買物客同士の接触が通常の小売店舗と比べて少ないため、ウイルスの感染拡大を抑止できるというわけだ。

  TOUCH TO GOのようなレジレス・スキャンレス型店舗は、日本では人手不足の問題を根底とする「省人化」「店舗効率化」といった小売側の利点が注目される傾向にある。反面、一般消費者にとってはそのメリットがわかりにくく、そもそもそうした店舗の開発が進んでいるという認識すら広がっていない感が否めない。しかしコロナ禍で「他人とできるだけ接触したくない」という新たなニーズが世界中で生まれた今日、ウォークスルー型店舗、あるいはレジレス・スキャンレス店舗は一躍スポットライトを浴びる存在になる可能性が高い。

 そうしたなかTTGは、月額約80万円~という具体的な金額とともにサブスクリプション型でのシステムの外販に乗り出す考えを示している。阿久津社長は「すでにいくつかの話が進んでおり、今年度中に数カ所で(TTGの仕組みを取り入れた店舗を)展開する計画がある」と明かす。同時に運営コストの低減も図り、提携先を増やしたい考えだ。

  一方、国内では、大手コンビニエンスストアもレジレス店舗の開発に意欲的だ。今回のコロナショックを踏まえ、開発・展開スピードを加速させていくと予測される。新型コロナウイルスによって、日本でもレジレス店舗というこれまでの店の在り方を大きく変えるようなフォーマットでの出店競争が激しくなりそうだ。