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NRF2020レポート1 マイクロソフト、コールズ、スタバ… デジタル活用で、従業員に権限以上し、顧客体験を高める!

小売業界の世界最大のカンファレンスがNRF Retail’s Big Show(以下NRF)だ。NRF2020 112日(日)~14日(火)の3日間、ニューヨーク・マンハッタンのジャヴィッツ・センターで開催され、 99カ国から約40,000(うち小売業者18,000)が参加。ビジネス環境に不確実性が増す中、小売業がデジタル変革を推進し、新しいビジネスモデルを構築するための、先進的なセッションが行われた。

マイクロソフトCEO「小売業、データ活用で広告事業が伸びる」

マイクロソフトのサティア・ナデラ CEO (写真提供:NRF)

 「5年前と比べ、消費者はより利便性を重視するようになり、60%の消費者が小売業のイノベーションが買い物体験を改善し、80%の消費者がイノベーションがオンラインの買い物体験を改善していると答えている。消費者の期待はさらに高まっている」

 112日、朝8時30分、NRFの社長兼CEOであるマシュー・シェイはこのように語り、3日間に渡って行われるカンファレンスの口火を切った。小売各社のデジタル化が確実に実を結んでいるとともに、それに伴って顧客がより主体的に購買決定に関わるようになった結果、消費者の力が増したことを印象づけたものだ。

 それを踏まえ、以降のNRF2020のセッションでは、デジタル投資を通じて、①自店の顧客をより深く理解し、顧客エンゲージメントを高める、②従業員に権限委譲して機械ではなく人間にしかできないことに注力する、といったことについての具体的な事例が話し合われた。また、小売業における新たなエコシステム構築のために、IT・デジタル活用、人材育成、D2C、女性参画等もセッションの主なテーマとなった。

 NRF3日間を通じて、最大の聴講客を集めたのが、シェイ氏に次いで行われたマイクロソフトのサティア・ナデラCEOの基調講演だ。マイクロソフトが提唱する「Enabling Intelligent Retail」を実現するための、「顧客を理解する」、「従業員を強化する」、「インテリジェントな サプライチェーンを提供する」、「流通業ビジネスを再創造する」という各ステップについて、小売業の事例を交えながら紹介した。また、消費者および購買行動に関する膨大なデータが集まる小売業が、広告チャネルとしてその影響力を高めること、その広告事業に投資することの重要性を力強く説いたのが印象的であった。

 

店舗にお客を呼び込む コールズの奇策が大成功

コールズのミッチェル・ガスCEO(写真提供:NRF)

 オンラインリテーラーがその勢いを増す中、伝統的小売業はECを成長エンジンとしてはいるものの、その事業の中心は依然として店舗である。その店舗をお客にとってより魅力的なものにし、わざわざ行く価値を創造することに、小売各社は力を注いでいる。アメリカで百貨店を展開するコールズもその1つ。ミッチェル・ガスCEOは基調講演の中で、「デジタル分野が成長するが、実際はお客は店舗とデジタル分け隔てなくオムニチャネルで購入している。だからお客が店舗に来たいと思うような関係性を構築しなければならない」と語った。

 その1つの施策が、アメリカの全店舗でAmazon.comで購入した商品の返品を受け付けるというもの。「トラフィックをコールズにどう呼び込むかという観点から考えたもの。コールズの店舗は1400あり、消費者の80%が50マイル内にあること、30秒でお客が返品作業を完了できることから、多くのお客がコールズに来店している」とガスCEOは成果を強調した。

 もちろん、MD政策の変更により、コールズという店の持つブランドイメージの刷新にも着手。アクティブ・ウェルネスをテーマに、ナイキやアディダス、アンダーアーマーなどのスポーツブランドの販売を強化するとともに自社のプライベートブランドを組み込んで売場を構成。「アクティブウェアが買える店」としてお客のブランド認知を進めたことで、店舗の集客力アップに成果。古巣であるPG仕込みのマーケティング戦略に手応えを得たガスCEOは「コールズの未来は明るい」と締めた。ちなみにコールズは、店内の一角にハードディスカウンターのアルディを誘致するという発表もしており、リアル店舗にいかにお客を呼び込むかという点で今後も注目が集まりそうだ。

 

デジタル活用で浮いた時間の100%を接客投入するスタバ

左・スターバックスコーヒーのケヴィン・ジョンソンCEO(写真提供:NRF)

 デジタル投資を通じて従業員の作業負担を軽減し、そこで浮いた時間を接客に投じることで、さらなる顧客体験の向上に取り組むのがスターバックスコーヒーだ。2017年からAIベースのレコメンド・プラットフォームである「Deep Brew」を導入。店頭やアプリ、デジタルメニューボード、ドライブスルーや音声オーダーシステムなど全チャネルでの行動履歴に基づいたパーソナライズした情報をお客一人一人にレコメンドするというものだ。また、店舗ごとに発注すべき在庫管理や必要なスタッフ数を30分毎に予測する機能もあり、バリスタが作業に追われるのでなく、お客との接客に集中できるようにするねらいがある。

 「AIが、人手による体験に取って代わると考える人が多いがそうではない。 デジタル活用で浮いた時間の100%をお客との接客に振り向けている。お客との繋がりは、以前に比べて高くなっており、それが売上アップにつながっている」とケヴィン・ジョンソンCEOは語った。 

 同社は同時に、従業員への権限委譲などを通じて、モチベーションを引き上げることにも取り組んでいる。さまざまなチャレンジを奨励し、結果が出なくてもそれを失敗とするのではなく、「学び」と定義。「ミレニアル世代の従業員がやりたいことができる環境をつくったところ、次々と新たな取り組みを行ってくれた。彼らの野心を拾い集め、それを前に進めるようにするのが私の仕事」と、その顧客体験向上を常に続ける企業文化の秘訣を語った。

オンライン発 優れた顧客体験を提供するEnjoyに注目

「いまや店があなたの元へ」を合言葉とするEnjoy

 オンラインリテーラーによる新たなビジネスモデルの紹介も興味深い。アップルストア事業の責任者であったロン・ジョンソン氏が立ち上げたのは、プレミアムブランドのラストワンマイルを提供する、Enjoyという企業。スマートフォンからの注文で、習熟したテクノロジーエキスパートが自宅や会社に訪問し、セッティングや使用方法などを納得するまで説明してくれるサービスだ。たとえばiphoneを購入する場合、わざわざ混雑しているApple storeに行かずとも、同様かそれ以上の体験を自宅で得ることができる。ジョンソン氏は「アップルストアでの経験から、お客さまはサポートを必要としている」と感じて創業に至った。デジタル化、EC化が進むからこそ、いっそう密な接客を必要とする顧客を取り込むことができる事例と言えそうだ。

 このように、3日間に渡るセッションでは、デジタル活用を通じて、顧客と繋がり、顧客体験をいかに優れたものにするか、同時に、従業員の働きやすさをどう確保するかといったことが話し合われた。AIを含め、現実的なソリューションとして先進的な小売業がデジタル活用を進めている実態が明らかとなった。

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