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トライアルグループが「スマートカートの外販」を本格化できた理由

スーパーセンターを主力業態に全国で店舗を展開するトライアルホールディングス(福岡県/亀田晃一社長)は、創業期からITと小売の融合を志向してきたことで知られる。近年は「リテールDX」の実現に向け、スマートカートやデジタルサイネージの効果検証、開発に注力。そして2023年10月には、スマートカートシステムの外販を本格化させた。その背景と今後の展望とは。

約200店舗で約1万9000台が稼働

「スキップカート」はトライアルグループの約200店舗で導入されている

 トライアルグループは2018年2月に出店した「スーパーセンタートライアルアイランドシティ店」(福岡県福岡市)を皮切りに、新規出店および既存店改装によって、デジタル技術をフル活用して買物体験のアップデートを図る「スマートストア」の数を増やしてきた。同年11月にはリテールテックのソリューションをグループ外にも広げることをミッションに掲げ、デジタル子会社のRetail AIを設立している。

 「当初はAIカメラ、SkipCart®︎(2023年10月より「スマートショッピングカート」より名称変更:以下、スキップカート)、インストアデジタルサイネージを同時並行で進めて、効果検証をしていた」と同社の田中晃弘取締役は振り返る。

 トライアルグループでは基幹システム、サプライチェーン・マネジメント、バックヤード改革という大きく3つの軸でDXに取り組んできた。最初は数名でスタートしたが、トライアルの情報システム部門と統合して、今では200人体制、中国のメンバーを含めると500人以上のエンジニアを抱える。

 23年10月末現在、Retail AIの主力製品となっている「スキップカート」は196店舗で約1万8800台が稼働。現状、世界で最も導入台数の多いスマートカートとみられる。

 スキップカートはショッピングカートにタブレット端末が付属したもので、プリペイドカードもしくはトライアルアプリを登録し、欲しい商品を買物かごに入れる前にスキャンすると、レジレスで決済できる仕組みである。さらに、プリペイドカードの顧客属性や購買履歴をもとに、クーポンを発行し、非計画購買を促すことができる機能も付加している。

 18年にリリースして以来、自社中心で効果検証を行い、20年には食品スーパーの丸久(山口県/田中康男社長)、21年にはスーパーセンターTAIYO(熊本県/西村正治社長)と、グループ外企業の一部店舗にも導入されている。

外販を後押しした2つの”ポジティブな背景”

将来的には海外企業への外販も視野に入れる

 そして今年10月、トライアルグループはスマートカートのシステムをトライアルグループ外に本格販売を開始することを発表。同時に、製品名称をスキップカートへ変更し、ブランドを刷新した。スキップには「レジ待ちをスキップする」という機能性と「お客さまがスキップするような楽しい買物体験」という情緒性の2つの意味を込めた。

 このタイミングで外販の本格化に動いた背景は大きく2つある。

 1つは、自社グループでの効果検証でポジティブな結果が得られたことだ。最新のデータで、スキップカートの利用率は平均26%(※2023/9/25~10/25の9時~21時までの実績)、最も高い店舗で44.8%。スキップカートの利用者は非利用者よりも来店頻度が13.8%高いことがわかっている。

 2つめは、POSシステムとの接続の問題に解決の見通しが立ったことである。この課題解決はチャネルパートナーとの連携によるところが大きい。22年9月には東芝テック(東京都/錦織弘信社長)と業務提携し、共同プロジェクトを開始。小売企業側のPOSレジとスキップカートのシステムを連携できるようにした。 

 「これまでグループ外の企業は1、2店舗単位で実験することはできたが、全店や多店舗で展開するにはシステム接続が障壁になっていた。チャネルパートナーとの提携によってそこがクリアになり、本格的に外販できる体制が整った」と田中取締役は説明する。
すでに食品スーパー、ドラッグストアの大手チェーンから引き合いがあるという。

 まずは国内流通業の変革を実現し、将来的には海外展開も視野に入れる。Retail AIを中心とした、トライアルグループによる流通革命はまだ始まったばかりだ。

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