配達ドライバーの時間外労働の上限規制による「2024年問題」が現実味を帯びているが、物流施設を管理する管理人や警備員の人手不足や賃金上昇もまた、物流施設を運営するディベロッパーや物流事業者にとっては深刻な「物流クライシス」の一つだ。
その中で、全国に物流施設を開発する大和ハウス工業と、ITソリューションを提供するNTTコミュニケーションズは、ドローンやAIなどの先進技術を活用した物流施設の無人点検管理の実現に向けた協業をスタートした。「もう一つの物流クライシス」を解消する一手となるか。
物流テナント人気の陰で深刻化する「管理人や警備員の人手不足」
EC市場の拡大などを背景に物流ニーズが高まる中、増加しているのがマルチテナント型物流施設だ。自社で物流施設を持てなくてもテナントとして複数の企業と共同利用できる手軽さとコストメリットで、各メーカーや物流企業から人気を集めている。
大和ハウス工業では、そのマルチテナント型物流施設「DPL」を全国に119棟展開している(2023年9月末現在)。
マルチテナント型物流施設の管理は、各テナント部分は契約している企業が行うが、車路、車輌待機場、ドライバー休憩室、食堂などの共用部分は管理者である大和ハウスプロパティマネジメント(大和ハウス工業のグループ会社)が担っている。わかりやすく言えば賃貸マンションの共用部分は管理者に管理を委ね、共益費を払うのと同じだ。
その共用部分においては、管理人や警備員が毎日点検管理を行っている。シャッターに傷はないか。消火栓は正しい位置に置かれているか。不審者や不審物はないか。何往復もして見回り、点検結果を日報にまとめ管理し、不具合や異常などがあれば報告書を作成の上、施設所有者に報告する。
報告書に記載し、管理者に報告する。物流施設は年々大型化する傾向にあり、その労力は「1フロアにつき1万歩、4フロアあれば4万歩にも及ぶ物件もある」と、大和ハウス工業 建築事業本部の菅野寿威氏は語る。
そして、人手不足を背景に管理人や警備員の確保は年々困難をきわめており、賃金コストも上昇圧力がかかっている。
ドローン活用で点検業務の時間を3割削減
このような背景から生まれたのが、ドローンやAIを活用した無人点検管理のアイデアだ。大和ハウス工業が協業のパートナーに選んだのが、飲食店の配膳ロボットなどロボティクスやAI制御技術を持つNTTコミュニケーションズ(以下「NTT Com」)だ。
両社はこれまでも、AIやIoTを活用した物流施設のDXにおいて協業を進めてきた。「DXの新しい企画について情報交換する中で、タイミング的にドローン業界が盛り上がってきたこともあり、構想が膨らんでいった」と、NTT Com関西支社の村川幸則氏は振り返る。
大和ハウス工業とNTT Comの協業によって構築した、物流施設の無人点検管理のソリューションは次のような仕組みだ。
①米スカイディオ社が開発し、NTT Comが販売するドローン「Skydio 2+™」を遠隔操作(または自動操縦)しながら、物流施設内をドローンが巡回し、撮影を行う。
②撮影された画像データは、NTT Comのデータ駆動型プラットフォーム「Smart Data Platform for City(以下「SDPF for City」)」に自動的にアップロードされる。
③SDPF for Cityに格納された画像データは、AIのセンシング技術によって画像解析され、施設内の異常を自動で検知。異常が確認された場所と内容も自動で管理者へと通知される。
④さらに、点検管理の報告書も自動で作成・通知される。
このソリューションを導入することで、「施設の規模などにもよるが、物流施設の点検業務にかかる時間を約3割短縮でき、約25%の省人化が見込まれる」と菅野氏は言う。この効率化・省人化のメリットに加え、設備の損傷や異常をすばやく検知・発信することで、管理人による迅速な対応が実現され、防犯機能の向上も期待される。
物流施設を遠隔一元管理する「プラットフォーム」構想
2023年8月に、大和ハウス工業、NTT Com両社によるドローンを活用した物流施設の無人点検管理のプロジェクトがスタート。これから順次、大和ハウス工業が手掛ける物流施設内で実証実験を進めていく。
現状での課題として、「画像認識AIの精度の向上」を菅野氏は挙げる。「傷や不審物のさまざまなパターンの画像をダミーで作成し、機械学習させながら精度を高めていきたい」
もう一つ、技術的な課題として「屋内でもドローンを自律飛行させること」を村川氏は挙げる。というのも、屋外ではGPSを受信しながらドローンを制御することができるが、非GPS環境の屋内でドローンを正確に制御するには、別の制御技術の確立が求められる。
「まずは人がドローンを操作し、そのドローンに飛行ルートを覚えさせておくプロセスが必要。また、物流施設の図面データをSDPFに取り込むことによって、図面上で飛行ルートを設定することにも取り組みたい」(村川氏)
一方で、ドローン飛行においては法律上の規制がある。自社の施設内であれば自社の裁量でドローンを飛行させられるが、屋外でドローンを飛行させるためには航空法に基づく国土交通大臣への飛行許可・承認の手続きが必要となる。「例えば、無人の物流施設でトラブルがあった際に遠隔地からドローンを偵察に向かわせる、ということが現状ではまだできないが、今後のDXの機運の中で法改正の議論が進むことを期待している」と菅野氏はいう。
商業施設、マンションなどへの横展開も見据える
いくつかの課題はあるものの、プロジェクトは緒に就いたばかり。「クリティカルな課題はないとみている。現場の意見などを反映しながら、一つひとつの課題をクリアし、実用化に向けてスキームの精度を高めていきたい」と村川氏は意気込む。
ロードマップが順調に進めば、2025年度から大和ハウス工業が開発する全国のマルチテナント型物流施設への順次導入される予定だ。実現すれば、非GPS環境の屋内ドローン点検管理のケースとしては国内初となる。さらに次のフェーズとして、有事の際のテナント従業員の避難誘導、遠隔での設備異常点検などの機能追加も見据えている。
大和ハウス工業 建築事業本部の湯川夏実氏は「物流施設以外の施設管理にも水平展開していきたい」と先を見据える。
「人手不足の問題は物流業界に限った話ではない。商業施設、マンションなど他の用途の建物でも技術の横展開は可能だと思っている」
物流施設による管理人や警備員の人手不足という、知られざる「もう一つの物流クライシス」。ドローンによる無人点検管理ソリューションが、その解消の一手となるか、注目される。