前回に続き、今回もトライアルの「スマートショッピングカート」の機能について解説します。ロス対策やAIレコメンドなど、新世代カートに搭載した機能がリアル店舗内でのコミュニケーションを大きく変えていくことを説明していきます。
スキャン漏れ検知機能を搭載
まず、最近リリースしたスマートショッピングカートの新型モデルにおける取り組みを紹介します。当社はこれまでのリアル店舗で集積した知見をあわせて、新世代カート開発に継続的に取り組んでおりました。2022年3月より「スーパーセンタートライアル田川店」(福岡県田川市)で新世代カート140台を本格的に稼働開始しています。また、同じタイミングで開催された「リテールテックJAPAN2022」(22年3月1~4日)にも展示しました。
従来のモデルは通常の鉄製ショッピングカートにタブレットやバッテリー等の機器を搭載していたのに対して、今回稼働を開始した新世代カートはスマートショッピングカートとして専用設計されました。従来機種と比較して2割以上の軽量化を実現し、買物客がより使いやすく、店舗スタッフのオペレーション負荷も大きく軽減することができました。
とくに強化したのはロス対策です。スマートショッピングカートに限らず、セルフレジなどの無人決済ソリューションを店舗に導入すると、お客さまの利便性向上や店舗オペレーションの効率化が進む一方で、万引きやスキャン忘れに起因するロスが増加することが業界共通の課題となっています。その課題解決のため、新世代モデルではスキャン漏れ検知機能が実装されています。今後はこの新型カートをトライアルグループの複数店舗で稼働させ、ロス削減の効果を詳細に検証していく予定です。
AIレコメンド機能の精度が向上
スマートショッピングカートの機能として特徴的なのは、完全AI化されたレコメンド機能です。スマートショッピングカートはリアル店舗内におけるコミュニケーションポイントになると私たちは捉えています。お客さまはタブレット画面を見ながら店舗内を回遊するため、私たちはタブレット画面を通して密なコミュニケーションをとることができるようになります。つまり、スマートショッピングカートは「メディア」としての役割を果たすこともできるのです。
この利点を最大限に生かすべく、スマートショッピングカートには完全AI化したレコメンド機能を実装しており、マッチング精度の改善を日々図っています。従来のモデルにもこの機能はありましたが、事前に設定した商品を表示するだけでアイテムも数百ほどでした。改良を重ね、現在のモデルでは数千規模の商品の中からおすすめ商品を表示できるようになりました。
今までリアル店舗内では不特定多数へのアプローチが中心で、個々にあわせた対応が難しかったのですが、データに基づいたレコメンド機能により、ECのように「これが欲しいのでは?」という提案ができるようになりました。
他社への外販も進む
データ起点としたアプローチを繰り返していくことで、マーケティングコミュニケーションの常識をひっくり返すようなことまでできるとわたしたちは考えています。リアル店舗内でのコミュニケーションの手法を変え、小売・メーカーのみなさんが行っていた従来の販促活動を大きく変えるコミュニケーションポイントとなる可能性がスマートショッピングカートにはあります。さらに、将来的にはほしい商品の場所がわかる機能を搭載するなど、買物時に抱えている課題をすべて解決できるようなプロダクトとして昇華させたいと考えています。
現在、当社のスマートショッピングカートはトライアル各店舗のほか、丸久(山口県/田中康男社長)の食品スーパー「アルク」や太陽電気工業所(熊本県/西村正治社長)の「タイヨー」でも導入されています。今後はさらに多くの小売各社への導入を進めていきたいです。
これまでの導入で収集した客数や売上等のデータから、当社はレイアウトなどの店舗設計・店舗の運用ノウハウを蓄積しております。また、前述したとおり、スマートショッピングカートを店舗内での新たなコミュニケーションポイントとして活用することで、お客さまがいっそう楽しいと感じられる買物体験の提供を実現していきます。さらに、これらの知見をフルに生かして、流通産業の変革に共感していただける仲間を募っていきます。
プロフィール
永田洋幸(ながた・ひろゆき)
1982年福岡生まれ。米コロラド州立大学を経て、2009年中国・北京にてリテール企業向けコンサルティング会社、2011年米シリコンバレーにてビッグデータ分析会社を起業。2015年にトライアルホールディングスのコーポレートベンチャーに従事し、シード投資や経営支援を実施。2017年より国立大学法人九州大学工学部非常勤講師。2018年に株式会社Retail AIを設立し、現職就任。2020年よりトライアルホールディングス役員を兼任。