現役ドラッグストア店員が注目店舗を訪問する本連載。今回訪れたのは、マツキヨココカラ&カンパニー(東京都:以下、マツキヨココカラ)が2023年9月に改装オープンした「薬 マツモトキヨシ SHIBUYA DOGENZAKA FLAG」(東京都渋谷区:以下、DOGENZAKA FLAG)だ。マツキヨの旗艦店として新たに生まれ変わった同店の魅力はどこにあるのか。実際に足を運んでみた。
斬新な内装と刺激的な売場配置
今回訪れたDOGENZAKA FLAGは、都内屈指の乗降客数を誇るターミナル駅「渋谷」駅からすぐの場所にある。
元々は「渋谷Part2店」として営業していた店舗を改装し、2023年9月29日にリニューアルするかたちでオープンした同店。「渋谷」駅周辺は、ドラッグストアの激戦区で、「サンドラッグCARER渋谷駅前店」など化粧品に特化した店舗も多い。
早速店内を見ていこう。店舗に入ってまず目を引くのが店内の装飾だ。従来の「マツキヨイエロー」は使わず、美と健康に特化した専門ブランド「matsukiyo LAB」のシックな黒と、鮮やかなネオンカラーをミックスした配色となっており、洗練された空間が演出されている。高揚感やワクワク感といった、来店客が“主役”になったような買物を楽しめる工夫が売場各所に施されている。
1階では、話題の韓国コスメコーナーを展開。「ティルティル」「イニスフリー」「エチュード」など人気韓国ブランドのほか、SNSで話題の「シートマスク」なども大きく売場展開されていた。このフロアでは、新商品・話題品・限定商品など「目新しさ」をテーマに、新しい売場と商品を充実していた。
現役店員として驚いたのは、最新のトレンドに合わせて新商品をいち早く展開する「スピード感」だ。昨今のトレンド消費は目まぐるしく、時にはドラッグストアとして追える速さを超えてくるものもある。
一般的な店舗は話題品の情報をキャッチできても売場に反映できるのは数ヶ月後、といったことも多い。トレンドのピークに商品を入荷・展開することが難しく、想定していた売上を生み出すことができず、歯がゆい思いをすることもしばしばだ。
しかし、このDOGENZAKA FLAGは話題品の展開が早いのはもちろん、品切れのないように在庫も潤沢に準備してあり、販促物をしっかり活用して新商品の魅力もアピールされるなど、売場づくりも一級品だ。販促物は色褪せによる劣化が早いので適宜入れ替えをしないといけないが、同店の売場に色褪せた販促物は一切なく、売場の新鮮さがキープされていた。
筆者もあまり見かけない商品やブランドも豊富に揃えてあり、ドラッグストアに勤めている人が見てもフレッシュで大変楽しめる空間だった。
マツキヨココカラPBの強さと課題
2~3階はスキンケア、メイクアップコーナーになっており、「資生堂」や「ソフィーナ」といったメジャーブランドの扱いもみられた。ここでは馴染みあるブランドに並んで展開されていた、オリジナルブランド「nake(ネイク)」に焦点をあてたい。
「nake」は2024年3月11日に販売開始したマツキヨココカラの新プライベートブランドで、「スキンケア以上、メイク未満」をコンセプトに掲げた、「すっぴんを整えてより理想のすっぴんへ導く」というコスメシリーズだ。
ラインナップはスキンケアベースやマスカラ、コンシーラーなど全10SKUで、その中でも一番興味深いのは「nake ポア スムースベース 01クリア」だ。同商品は肌を滑らかに補正し、毛穴・凹凸を整える化粧下地だ。すっぴん肌に使うコスメアイテムという新しい立ち位置のアイテムである。
ネイクの発売と同時期に、花王から「キュレル パウダーバーム」という化粧下地が発売されているが、発売日はネイクの方が早く(キュレル パウダーバームは4月6日発売)、価格もネイクが1430円、キュレルが2090円(いずれも税込価格)とnakeの方がお手頃な価格となっている。発売日も価格もマツキヨココカラが先行していることもさることながら、このクオリティの商品をPBとして出せる同社の商品開発力の強さとスピードには驚かされる。
筆者が個人的に応援しているPBである「THE RETINOTIME(ザ・レチノタイム)」にも注目したい。同シリーズはマツモトキヨシとココカラファインが経営統合する以前からあったスキンケアPB「BLANC WHITE(ブランホワイト)」をブラッシュアップしたマツキヨココカラの新スキンケアPBである。
ブランホワイト時代は「美白」を軸にアプローチしてきたが、ザ・レチノタイムは「美白」に加えて「しわ改善」にも対応したラインナップとなっており、より幅広い肌悩みに合わせられるようになっている。
このようにマツキヨココカラは、消費者ニーズに合わせた商品を続々と投入して市場を盛り上げているが、個人的に懸念していることがある。それは、「SNSの発信力、話題性に勝てるのか」という点だ。ネイクやザ・レチノタイムなどのPBは、各売場の最上段、または各売場の“一等地”で展開されていたものの、店全体の訴求という点でみると、話題の韓国コスメのほうが圧倒的で、PBの魅力を十分にアピールできないととらえることもできる。
ここ数年続いてきた韓国コスメの勢いはいまだ衰えることがなく、一過性の人気を超えて、消費者の定番となりつつある。これまでドラッグストア業界の話題性を牽引してきたマツキヨココカラが満を持して投入したPBはこのような立ち位置に上り詰めることができるのか。コンセプトやターゲット層は申し分ないので、「消費者に届く工夫」が成功のカギになるのではないかと筆者は考えている。
現在はコスメやスキンケア商品の出会いの入り口はSNSのショート動画や口コミがメインで、売場をはじめとした「リアルでの出会い」はそれらに遅れをとっているのが現状だ。このDOGENZAKA FLAGでは、「SNSではなくリアルで出会える店づくり」を軸に売場づくりが行われており、現場での出会いを提案し続ける姿勢は現役ドラッグストア店員としても大変好感が持てる。
DOGENZAKA FLAGは、商品との出会いが「SNS一択」に近くなってしまっている現状の打破、または新しい提案のかたちを創出するきっかけになる店舗になるかもしれない。今後も同店の発信力と成長の行方を見守りたい。