いなげや(東京都/本杉吉員社長)は11月14日、東京都練馬区に「いなげや練馬中村南店」以下、練馬中村南店)をオープンした。「ina練馬中村南店」(以下、旧店)をスクラップ&ビルドにより業態刷新したもので、生鮮・総菜売場を強化し、30~50代のヤングファミリー層の取り込みをねらう。その売場づくりをレポートする。
社会情勢の変化により
店舗形態を見直し
今回のいなげやの業態刷新は、ハード面と店舗運営面、双方の背景がある。
ハード面については、旧店は、1979年10月に「いなげや」としてオープンし、その後小型の食品ディスカウントストア業態「ina21」に転換するも、23年10月29日に閉店。44年間にのぼる営業期間の中で、施設の老朽化に伴う課題が目立つようになり、10年ほど前から建て替えに向けた協議を行ってきた。
店舗運営面については、「ina21」のコンセプトは「EDLP」(エブリデー・ロープライス)。従業員3~4人の体制で、かつ取り扱い商品も絞り込んで発注・陳列作業を効率化し人件費を削減。また、チラシの発行も減らすなどの施策で、ローコストオペレーションの経営手法を取ってきた。
しかし近年はデジタル化が進み、いなげやを含む全店でチラシの発行頻度が減少。さらに物価高の上昇が続き、従来の売価を維持することが難しくなり、「ina21」と「いなげや」業態の差が縮まっていた。
こうしたことから、「ina21」業態に見直しをかけるとともに、旧店時代に改善を求める声が多かった生鮮・総菜部門を強化するという判断のもと、今回のスクラップ&ビルドでは食品スーパー(SM)業態である「いなげや」を選んだ。
店舗入口付近に
生鮮売場を結集
練馬中村南店は、西武新宿線「鷺ノ宮」駅から徒歩で北へ約8分の場所にあり、旧店の向かいにあったゴルフ場の空き地に建てられている。競合店としては、南へ280mに「オーケー中杉店」が、北へ950mに「西友 中村橋駅南店」がある。
ストアコンセプトは、「地域一番の鮮度・品揃え・接客・サービスで、お客様の暮らしぶりにあったお買い場を提供するお店」。新店は1層で、売場面積は1,408㎡。旧店の115%ほどの広さだ。全体で1万1706SKUを扱っており、うち食品は9706SKUを販売する。全部門の中で買い上げ機会が最も多い青果売場を入口に配置、青果と一緒に購入されることの多い鮮魚・精肉売場を近くに置いたレイアウトとすることで、買い物時間の短縮と利便性向上をはかった。
商圏の特性として、500m圏内には8434世帯、1km圏内には約3万3912世帯が住む。平均世帯人数は約1.8人で、いなげやの全体店舗平均の約2倍と、人口密度は高め。また商圏内での年齢層は30~50代のヤングファミリー層が多く、シニア層の割合が低い。
練馬中村南店の特徴は、旧店で取り切れていなかったヤングファミリー層を主なターゲットに設定し、対応に注力している点だ。
具体的には「洋風」「価格」「簡便性」の3点をテーマとして設定。「洋風」についてはインストアベーカリーでピザやタルト、総菜売場で洋風メニューの品揃えを拡充した。
「価格」については、青果に特設コーナーを設けるほか、タイムサービスなども導入した。
「簡便性」については、青果のカットサラダを大型店と同じ尺数・構成とし、ミールキット、大容量パックの導入も拡大している。
食品部門を強化することで、衣料品や文具・雑貨に関しては取扱品目を削減。肌着やスポンジ、弁当用小物など実用性が高いもののみを売場に残した。
鮮度にこだわった
商品を厳選
そのほかにも特徴的だった売場を部門別に見ていこう。
青果部門では約390SKUを扱う。「糖度」「熟度」「産地」「品種」の切り口でフルーツを厳選し、「こだわりま撰果(せんか)」の名称で販売する。取材日当日は、和歌山県有田産の「ゆら早生みかん」(税抜499円)が売場に並んでいた。ほかに産地と連携した食品ロス削減への取り組みとして、規格外や傷のある商品を「得しま撰果(せんか)」の名称で販売する。
鮮魚部門では「お魚屋さんの寿司 海宝大トロ入(10貫・同1000円)」など、季節魚を盛り込んだ寿司や、海鮮丼、太巻きなど約280SKUを展開。品揃えはいなげや全店の中で最大級という。
精肉部門では約450SKUを扱う。サシがきめ細かく、脂の旨味にこだわった宮城県産仙台黒毛和牛の肩ロース、ももなどを提供。また環境配慮型の商品として、パンや弁当など売れ残った食品や、野菜のカットくずなどの調理残さを利用して製造された循環型飼料「エコフィード」を与えて育てた豚肉や、ノントレー商品の鶏肉パックなどを提供する。
総菜部門では、「ご飯の量が150g以上」という規定のもと、ボリュームを誇る人気商品「偉大なおむすび」を使い、ライスバーガー(同359円)やお茶漬け(税抜399円)を独自に開発し、同商品の新しい食べ方を提案する。また、いなげやのプライベートブランド(PB)「食卓応援セレクト」に含まれる「さくらいろたまご」を使用した厚焼き玉子など、鉄板で店内調理した総菜を販売する「鉄板メニュー」コーナーも展開している。
植物由来の原料を使った
コーナーを特設
ヤングファミリー層の取り込みという観点から、健康志向の商品にも力を入れる。総菜部門では、「焼き茄子とみそ糀チキン」(同359円)や「根菜としょうゆ糀チキン」(同359円)など、糀を使用した商品を提供する。
グロサリー部門では、植物由来の原料を使った代替食品「プラントベースフード」コーナーを展開。「植物うまれのカルボナーラ」「植物うまれのボロネーゼ」(各同249円)や、「北海道産大豆100%大豆ミート」(同369円)などの商品を集めた。
23年11月には、イオン(千葉県/吉田昭夫社長)がいなげや株の51%を取得し、いなげやはイオンの連結子会社となった。24年11月にはユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都/藤田元宏社長:以下、U.S.M.H)とも経営統合を行い、完全子会社になる予定だ。こうした背景から、いなげやは下期、スーパーマーケット事業でイオンのPBである「トップバリュ」の導入アイテム数を前期末の約2倍にする方針を打ち出しており、練馬中村南店でもトップバリュの商品を積極的に取り入れていく。
これらの取り組みによって、練馬中村南店は旧店の約2.69倍となる年商18億円をめざす。
鈴木竜太店長は「今までとくに生鮮・総菜の部分で近隣住民の皆さまにご不便をおかけしていた。オープンとともに来ていただいたお客さまを裏切らないように、地域でいちばんのお店を作っていきたい」と話した。