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実力派SMチェーンの文化堂が“はみ出し陳列”に力を注ぐワケ

有力企業がひしめく東京都心エリアで、中小ながら存在感を放つ食品スーパー企業の文化堂(山本敏介社長)。同社屈指の繁盛店「フレッシュフードストア文化堂豊洲店」(東京都江東区:以下、豊洲店)ではどのような売場づくりをしているのか。前編では総菜を含む生鮮4部門の売場をレポートした。後編では、日配・菓子・グロサリー・酒類の売場を見ていく。
調査日=8月14、16日 ※本文中の価格はすべて本体価格

同社オリジナル商品と見られる絹ごし豆腐

④日配売場
品揃えは人気NBがベース
一部でこだわり商品の扱いも

 日配売場を見ていこう。品揃えは「タカノフーズ」「男前豆腐」「むつみ」「さとの雪食品」と、人気ナショナルブランドを中心とした構成となっている。豆腐コーナーでは、「ヤシマ食品・きぬ豆腐300g」(58円)の訴求に力を入れながら、300g198円の絹豆腐を扱うなどこだわり商品も一部差し込んでいる。漬物コーナーでもキムチや梅干でアッパーの価格帯を充実させているようだ。牛乳は、神奈川県の乳業メーカー、柳川乳業の「酪農牛乳(成分無調整)1L」(168円)の売り込みに力を注いでいる。冷凍食品では、調査時は販売価格から4割引セールを実施しており、毎週木曜には5割引セールを実施。集客の要となっている。アイスクリームは、108円の個食タイプを豊富に揃えている。

⑤加工食品・酒類・菓子
店内の至るところで
加工食品の“はみ出し陳列”を展開

 加工食品のスペース構成比は25%であるが、店内を見渡すとゴンドラエンドや空いたスペースの至るところで“はみ出し陳列”を展開しており、実際のスペース構成比はもっと高いかもしれない。

 売場コーナーごとのテーマを重視している印象で、ゴンドラエンドでは売場担当者の推奨商品を写真入りPOPで紹介している。実際にゴンドラエンドを見てみると、「亀田製菓・亀田の柿の種」や、成城石井バイヤーが買い付けたフランス産、イタリア産ワインなどをレギュラーでコーナー展開するほか、パスタやカレーといったメニュー別の商品提案などを実施している。

豊洲店の売場レイアウト

 酒類売場は売れ筋中心の品揃えとなっている。ビール系飲料を重点商品としていると見られ、冷蔵ケースに豊富に並べている。焼酎は品揃えを売れ筋に絞っている。ワインは同社バイヤーがイタリアやフランスのワイナリーを実際に訪ねて開拓した商品を品揃えする。陳列は価格帯別で、500円~1000円以下を豊富に揃えている。

 日本酒は「純米吟醸」「大吟醸酒」を充実させている印象だ。ウイスキーは「倉吉」「角鷹」「明石」「武蔵」など地場産のウイスキーを充実させている。全体的にバランスの取れた構成という印象だ。

 菓子コーナーの売場スペース構成比9%で、配置はレジ前に集中させている。売場を見ると、キッズ向け商品を充実させているようだ。調査終了後の8月下旬、改めて店舗を訪れてみると、週末に「菓子2割引セール」を実施しており、レジ前什器にも菓子を並べて大胆に展開していた。

まとめ
“はみ出し陳列”はスタッフの販売意欲のあらわれ?

 豊洲店は開店して15年目を迎える。オープン当初の店舗周辺は空き地が広がっており、このSCだけが目立っているような状況だった。そこから高層ビルやマンションの開発が進み、周辺は大きく様変わりした。そうしたなかでも、ビバホームと文化堂だけは開店時と変わらぬ活気を保っている。

 周辺には昔ながらの団地もまだ多く、商圏内は年配者が多いと見られるが、来店客の客層を見ると、20~30代や子供連れといった若年層が多い。そうした若いお客が活気をもたらしているのだろう。やはり、人口増エリアの店舗にはエネルギーがある。

 ここ最近、新規オープンした店舗を見ると、「整然とした店」が多い。これに対し豊洲店は、空いているスペースがあれば商品を置き、少しでも多く露出して売るスタイルを徹底している。とくに加工食品、青果の売場でその傾向が強く、雑然とした印象すら感じるかもしれない。

 特売品目も多く、少しでも陳列量を増やそうと試行錯誤し、“はみ出し陳列”を実施するに至ったと思われる。ただそれは商品がよく売れているから成せる技でもあり、スタッフの販売意欲のあらわれであるとも言える。

 こうした企業文化が醸成された背景には、創業者の現相談役の後藤せき子氏の存在が大きく影響していると見られる。それを象徴するのが、文化堂の公式HPに大きく掲げられた「スーパーマーケットは食を通じて人々の生活を豊かにする素晴らしい仕事です」という同氏のメッセージだ。

 昨今、お客に向けたメッセージを発信する小売業は多いが、働くスタッフに対してここまでの思いを発する企業は少ないのではないだろうか。働くスタッフは心強く感じるだろう。24歳で独立し、約4坪の菓子店をスタートした後藤氏の歴史と信念を感じる言葉である。

 首都圏で店舗展開するチェーンにとって、最大の課題となるのは「出店」であろう。最近はSM店舗を出店可能な物件が少なくなっている。建築費の高騰なども相まって、出店への初期投資コストも高くなっており、中小チェーンはとくに厳しい局面にある。

 だが、それでも出店していかなければチェーンストア企業としての成長は望めない。文化堂は18年に「スマイルワンフーズ鶴ヶ島店」(埼玉県鶴ヶ島市)、19年に「豊島店」(東京都北区)をオープンするなど直近では年間1店舗のペースで新規出店しているものの、出店が最大の課題となっていることは想像に難くない。この課題を打破するのは難しいものがある。ネットスーパーをはじめ、新規出店に頼らない成長戦略を模索していく必要がありそうだ。

(企業概要)
所在地 東京都品川区二葉4-2-14
創立 1953年
代表者 山本敏介
売上高 220億円(2018年度)
店舗数 東京都内12店、神奈川県7店

(店舗概要)
所在地 東京都江東区豊川3-4-8
開店日 2005年8月
売場面積 約350坪(歩測)
営業時間 10:00~23:00(日曜日9:00開店)
駐車台数 850台(共有)