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ダイヤモンド・リテイルメディア・セミナーレポート
アマゾン時代 リアル店舗の在り方
新しいスーパーマーケット創造2018
同質化、寡占化、ボーダーレス化の進展の中でどう生き残るか

 人口減、少子高齢化の進行など、スーパーマーケットを取り巻く市場環境は厳しさを増している。さらにEコマースの台頭や食品スーパー業界自体も同質化や飽和化、さらに業界の寡占化が進むとともにドラッグストアやコンビニエンスストア(CVS)が取り扱う食品のバリエーションを拡大するといったボーダーレス化も進んでいる。そうしたなかでスーパーの生き残り競争は激化の一途をたどっている。では、新しいスーパーマーケットはどうあるべきか。千野和利・阪急オアシス代表取締役会長兼社長(現顧問)と原和彦・アクシアルリテイリング代表取締役社長の2氏に今後のスーパーマーケット創造戦略について語っていただいた。

 

主催 :株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア
「ダイヤモンド・チェーンストア」

協賛 :アサヒビール株式会社/伊藤忠食品株式会社/加藤産業株式会社/
キリンビール株式会社/シャープマーケティングジャパン株式会社ビジネス
ソリューション社/東海漬物株式会社/東芝テック株式会社/
フジッコ株式会社/三菱食品株式会社(五十音順)

 


【講演1】

「新しい食空間の創造」~ルクア大阪へのチャレンジ~
大阪・梅田にキッチン&マーケットをコンセプトに新業態を展開

株式会社阪急オアシス
代表取締役会長兼社長
千野 和利 氏


【講演2】

「ボーダーレス・再編時代のスーパーマーケットの経営戦略」
進化を続けるアクシアルのMD戦略

アクシアル リテイリング株式会社
代表取締役社長
原 和彦 氏

 

【講演1】

「新しい食空間の創造」~ルクア大阪へのチャレンジ~

大阪・梅田にキッチン&マーケットをコンセプトに新業態を展開


株式会社阪急オアシス
代表取締役会長兼社長
千野 和利 氏

(千野氏は4月1日付で顧問に就任)

 

人口減少、少子高齢化をはじめ社会環境が激変

株式会社阪急オアシス
代表取締役会長兼社長
千野 和利氏

 いまの食品スーパーマーケット業界が抱える課題は数多く存在する。人口減少や少子高齢化といった人口動態の変化、少子高齢化の進行からくる消費の変化、ドラッグストアやコンビニでも食料品の取り扱いを拡大するなどリアル店舗での超業態間競争の激化。また、あらゆる産業で問題化している慢性的な人手不足とそれによる人件費の上昇や働き方の価値観の変化などが挙げられる。さらには19年に予定されている消費増税、インバウンド需要の動向、東京オリンピック/パラリンピックまでの好景気とその後の景気後退など、注意しておくべき問題もある。

 

 2020年代以降になれば、Eコマースの本格的なシェア増大やAI・IoTをベースにした第5次産業革命による産業構造自体の変化も起きる。日本だけみれば人口減少が問題となっているが地球規模では人口爆発と食糧不足が懸念されている。日本は先進国の中でも格段に食料自給率が低くその対策も重要であり、そのための地方創生も一層推進していく必要があるだろう。

 

「なくてはならない存在」「働きがいと誇りの持てる会社」目指す

 阪急オアシスの経営理念は、まず「お客さまにとってなくてはならない存在であり続けること」であり、「従業員にとって働きがいと誇りの持てる会社であること」だ。その実現に向け、2020年以降の「阪急オアシスの新たなブランド戦略」が重要になっていた。中心となるのは「自社にしかない付加価値をいかにつくっていくか」につきる。

 

 そのためには、普通のスーパーとは差別化できる付加価値を持ち、クオリティの高いスーパー業態を確立し、そこで働く社員が常にオリジナリティを求めるという企業風土をつくっていかなければならない。

 

 これまでに阪急オアシスは、NSC(近隣型ショッピングセンター)や都市型新業態の店舗開発、カード稼働会員120万人をめざす顧客政策、グループSPA(製造小売化)の拡充、PB(プライベートブランド)戦略や提携による国内外のネットワーク拡大と共同商品開発、人材雇用と教育の充実などによって企業理念の実現に努めてきた。

 

事業拡大の中で新たな価値創造をねらいに店舗づくりの進化を継続

 もちろん、これまでにも新たな価値創造にチャレンジすることを目的に、その時代のニーズに対応した業態の店舗を展開してきた。

 

 近畿地区は競争がますます激化しており、出店のリスクが高いだけでなく、候補地を探すにも大変な労力を強いられる。その中で、2015年11月に「STORE of THE YEAR 2016」(ダイヤモンド・リテイルメディア社)で1位を受賞した箕面船場店を出店。また、2016年6月には吹田片山店をオープンし、「STORE of THE YEAR 2017」の第2位を受賞している。

 

 さらに17年7月には「STORE of THE YEAR 2018」で1位を獲得したNSC型店舗の伊丹鴻池店をオープンさせている。ここではたとえばドライフルーツやナッツの量り売りや鮮魚売場ではマグロの解体を売りものにしたり、熟成牛肉に力を入れたりといった独自性を打ち出している。

 

 今後は、都市型スーパーの出店にも注力する。2018年4月に出店した中之島店を皮切りにJR福島店、西区新町店、三宮店をオープンさせ、「高質食品専門館」をコンセプトに新規・リニューアルを推進している。

 

 高質食品専門館は、2009年の千里中央店が1号店。カテゴリーワールドを拡充させて専門性を深化するだけでなく、量り売りやマグロ解体販売など洗練された市場に通じるライブ感の創出、食育や料理教室、会員情報誌といったコミュニケーション強化を通じた顧客への情報発信を図っている店舗だ。

 

大阪・梅田の「ルクア大阪」に新業態「キチマ」をオープン

 その発展形といえるのが、18年4月1日にJR大阪駅「ルクア大阪」地下2階にオープンした「キッチン&マーケット」(キチマ)である。大阪・梅田は阪急百貨店などもある激戦区。最初にJR西日本から出店依頼があった時から、ぜひチャレンジしたいと意欲を持った。世界の潮流である物販と飲食を融合させたマルシェ(仏)やメルカトーレ(伊)といった市場【いちば】感覚の活気ある店舗とフードスクエアをつくりたいと考えた。「欧風テイストの市場感と賑わいの両立」に取組み、「キッチンとマーケット」を融合させた。「キチマ」のコンセプトは今後も続けていく方針だ。

 

イタリア20州すべてから取り寄せたワインなどこだわりも満載

 ターミナル駅なので、ビジネスパーソンや観光客、学生などさまざまな人が集まる。そこにイタリアンや鮨、ミートデリなどさまざまな食を提供する。提供の仕方はテイクアウトも可能だし、レストランスタイルやカフェスタイルなどのイートインもできる。「買う! 食べる! 集まる! がここにある。」を謳って300席、スタンディングを含めれば350席を確保してある。

 

 フロアはイタリアの食材を中心にワインもイタリア20州のすべてから取り寄せる「メルカ」、旬の果物や和洋菓子などを集めた「スイーツアットホーム」、産地直送野菜やサラダバー、マグロの解体ショーも行う「フレッシュガーデン」、日本全国の産品を集めた「グルメコーナー」、一からつくり直したクロワッサンをメーンに打ち出した「ラ・プチ・ブーランジェリー」、コーヒーや紅茶から150種のクラフトビールを集めたコーナーも設置した「ミート&イートスクエア」で構成。さらに什器の素材や配置なども綿密に、実験なども行って決め、縦陳列やワゴンも設置するなど欧風の市場感を醸し出すことで差別化を図った。

 

 

【講演2】

「ボーダーレス・再編時代のスーパーマーケットの経営戦略」

進化を続けるアクシアルのMD戦略


アクシアル リテイリング株式会社
代表取締役社長
原 和彦 氏

 

「収益性は高いが強みに欠ける」が課題として浮上

アクシアル リテイリング株式会社
代表取締役社長
原 和彦 氏

 2013年、新潟県を地盤とする原信ナルスは、群馬県を拠点に栃木県、埼玉県にも店舗展開するフレッセイと経営統合した。現在はアクシアル リテイリングとして原信ナルス78店舗、フレッセイ51店舗を擁している。株式公開している食品スーパーの中では、16年度売上高2289億円で9位、経常利益約92億円で7位、経常利益率は4.0%で4位というポジションにある。

 

 これまで地域のスーパーなどの経営統合から業容を拡大してきた。2000年以前は当時、米国で優良スーパーと言われていたアルバートソンズを真似て標準化や商品の絞り込みを行ったが、核となる商品や核となる売場がなく、MD(商品政策)よりもシステムを重視するスタイルだった。これにより小ぎれいだけど何が売りたいのか方向性がない、収益性は高いが強みに欠ける企業になっていたところがある。

 

 そこで2001年から「ニューコンセプト」として、これまでのスタイルから「提案型」MDへの転換を図った。品揃えもカテゴリーを揃え、大中小や上中並、用途別といったマトリクスを引いて商品を並べ、調理見本やレシピなど関連販売や食べ方提案にも力を入れ、地域商材も増やしていった。当初は順調だったが、ここで思わぬことが起きた。

 

「新潟戦争」を機にMD改革を加速・拡充

 原信ナルスは長岡市内でしっかりとドミナントを構築していた。しかし、2003年10月に市内に売場面積2000坪の大型店が出店、その翌週には隣接する見附市に5000坪のスーパーセンターが開店、さらに1カ月後には3000坪のスーパーセンターも進出してきた。これを業界では“新潟戦争”と呼んだが、競合の出店によりお客さまの流れが変わるだけでなく、主要商品の相場も一気に下がった。そして2003年度は減益になった。

 

 それまでチェーンストアとしての基盤整備に力を入れ、24時間営業などサービスも拡充してきた。しかも上場企業として「減収減益はできない」という思い込みもあった。しかしこの「新潟戦争」で気づかされたのは、われわれに強みがなく真っ向勝負を避ける体質だったということ。そこでハイ&ローやコモディティ商品のESLP(エブリデー・セイム・ロー・プライス)化などの売価政策も取り入れ、単品の大量販売に舵を切った。そこで「販売数量日本一」を意識しながら、「自信」を持ってもらうように努めた。

 

 しかし2004年には大規模な水害や中越地震に見舞われて、事業に大きな影響が出た。そこで否応なく気づかされたのは、競争は避けられず価格対応はしなければいけないということとライフスタイルの変化とともにわれわれも変化し続けなければならないことだ。

 

 「増収増益」は絶対的な金科玉条ではなく、柔軟な発想が必要ということ。スーパーは地域から必要とされている業種であるということだ。

 

MD改革で坪当たり売上高改善もより強いMDの必要性も

 そうした気づきを経て、「ニューコンセプト」を加速。2004年度以降、災害復旧を含めて店舗の改装や新規出店を進めた。それが奏功して2000年前後は500坪で267万円だった坪当たり売上高は、2009年の段階では約600坪と店舗が大型化しているにもかかわらず、坪当たり345万円を売り上げることができるようになった。一方で、さらなる成長のために、より強いMDが必要という考えも出てきた。

 

 そこで新たなフォーマットとして「ニューコンセプトⅡ」と昇華させ、普段使いや提案、名物商品などの新たなMD、あか抜けた売場づくり、生産性の高い店舗という3つの柱で改革を実施した。

 

 「ニューコンセプトⅡ」では買い上げ頻度の高い野菜、日配商品の価格訴求、さらに商圏を広げる酒類や水産売場の品揃え拡充、高品質の肉やおいしさを追求した総菜で店舗イメージ再構築に取り組んだ。その結果、平均売場面積をより拡大させながら、坪当たりの売上は357万円に向上した。

 

ネットスーパーはヤマトの宅配使い投資抑制

 さらに15年10月からは「毎日の食生活に豊かさ、楽しさ、便利さを」を掲げ、「ニューコンセプトⅡ」をマイナーバージョンアップした「ニューコンセプトⅡ+」をスタートさせた。

 

 新たに「セントラルマーケット」をオープン。そこではライブ感の演出や専門店・ショップ化、和洋菓子をはじめ統一ブランドの育成を図るだけでなく、人口減少・少子高齢化対策として健康ニーズと、核家族化と共働き世帯の増加から時短ニーズへの対応をねらいに据えた。さらにそれまで商品ごとに縦割りの部門別から、食卓シーンを意識した売場づくりへの転換も図った。

 

 2011年9月には「ニューコンセプトNet」として新潟県内を対象にネットスーパーも開始した。「当日10時までの注文で当日配送」を謳っており、店舗出荷型で無料配送ではなくヤマトシステムの宅配を活用することで投資を抑制している。最近では個人利用だけでなく、グループホームや託児所といった法人会員の利用が増えている。

 

「簡便性」「快適性」「生産性」の向上が新たなねらい

 今年3月に開業したのが「ニューコンセプトEx(エクスプレス)」だ。

 

 現在当社は、坪当たりの売上は堅調だが、人時売上高は伸び悩んでいる。そこで生産性向上を図るための取組みと位置づけている。「ニューコンセプトⅡ+」では、品揃え拡充が強みとなったが、反対に手間がかかるという弱点もある。

 

 なによりも社会環境は大きく変化してきた。そこで「簡便性」「快適性」「生産性」を重視した新たなMD戦略を進めたい。お客さまに訴求するポイントは、手早くパッと買物できる店舗づくりや手早くおいしい食事を楽しめる店舗。それを実現する最初の店舗が「原信 エクスプレスマーケット城岡店」(新潟県長岡市)だ。店舗レイアウトを半分に分けて片方を即食・簡便ゾーンとして利便性を追求する。さらにセントラルマーケットとして既存店の1・5倍に拡大した店舗や、物流センターの整備、自動発注システムの見直し、プロセスセンターやコミサリーの再構築も順次着手していく。