カインズ(埼玉県/高家正行社長)は9月25日と26日、「CAINZ商品発表会2024」を開催した。「CAINZ Style」や「CAINZ FiT」など8つのプロダクトブランドのオリジナル商品をブースで展示するとともに、これらの商品の魅力を伝える演劇「くらし ららら劇場」を披露した。商品発表会はホームセンター(HC)業界で初となる。
商品開発の情熱を能動的に発信
「カインズはこれまで商品開発に情熱を注ぎ込んできた。この思いをもっと多くの人に伝えたい」—。
カインズ商品統括本部商品企画統括部統括部長の清水政良氏は商品発表会のねらいをこう語った。
同社は2007年に「SPA(製造小売)宣言」を行い、業界で先駆けてオリジナル商品の開発に取り組んできた。オリジナル商品の売上構成比率は約3割である。
昨年9月には商品開発をさらに加速させるために組織体制を刷新し、8つのプロダクトブランドを発表した。既存の「CAINZ」ブランドに加えて、「日々のくらしを『楽に』」をテーマとした「CAINZ Style」や、「日々のくらしを『すこやかに』」をテーマとした「CAINZ FiT」といった新ブランドを立ち上げ、新商品の開発や、既存商品のリニューアルに取り組んできた。
プロダクトブランドの発表から約1年。その間、新商品を約6000SKU投入し、既存商品は約1万2000SKUを刷新した。リニューアル商品はカインズオリジナル商品の全体の約半数に当たる。
このように同社は商品開発に注力する一方で、社内ではオリジナル商品の魅力を十分に発信できていないのではないかという課題意識があった。
「テレビなどのメディアやSNSでカインズオリジナル商品が取り上げられると、一気に商品が売れる。これはうれしいことだが、裏を返せば商品のアピールが足りていないといえる。これまで情報発信は受け身だったが、能動的に発信していく必要がある」と清水氏は話す。
そこで、商品統括本部とマーケティング本部が一体となり、本プロジェクトを始動。第1回商品発表会の開催にこぎつけた。
バイヤーが直接思いを語る
商品発表会はJR「新宿」駅直結のイベントホール「新宿ルミネゼロ」で開催された。
会場には「庭」「玄関」「キッチン」「リビング」「寝室」「風呂・洗面」の6つのブースを設置。カインズオリジナル商品を使って、実際の利用シーンがわかりやすく伝わるように展示した。開発に携わったバイヤー総勢10人以上が出迎え、来場者に商品の使い方や開発の思いを伝えた。
また、メディア、インフルエンサー向けにそれぞれ演劇「くらし ららら劇場」を開催した。来場者をステージに巻き込んでいく「イマーシブ体験」を取り入れ、オリジナル商品の魅力を伝える。たとえば、冒頭は「庭の困りごと」のシーンから始まり、土が中に入りにくい長靴や手袋、取っ手が2カ所付いていて手首に負担がかからない除草剤、手が汚れにくい人口砂といったオリジナル商品が紹介された。
劇中ではバイヤーが出演し、人気商品「立つほうき」の開発秘話や、商品化にこぎつけるまでの苦労話を披露するシーンも見られた。
「カインズは昨年度から新たなブランドコンセプトとして『くらしDIY』を掲げ、創意工夫のアイデアでお客さまのくらしの課題を解決することをめざしてきた。演劇を通じてくらしDIYとは何かをより多くの人に知ってもらいたい」と高家正行社長は話した。
マーケティング先進企業への挑戦
これまで小売業で、メディアやインフルエンサーを招いて商品発表会を開催してきた企業は少ない。とくに非食品を中心とする業態では良品計画(東京都/堂前宣夫社長)やワークマン(群馬県/小濱英之社長)といった企業に限られ、HC業界ではカインズが初となる。
準備段階では同じベイシアグループのワークマンにアドバイスをもらったと清水氏は明かす。
「ワークマンは『過酷ファッションショー』などの商品発表会を開催し、最も成功させている企業の1つ。アンバサダーマーケティングでも反響を呼んでいる。どのようにすればよいのか、担当者に何度も相談しに行った」(清水氏)。
そのアドバイスを受けて、今回の商品発表会にはメディア、インフルエンサーのほか、約60人の「社内アンバサダー」も招待した。社内アンバサダーは、カインズの中でもとくに商品が好きな社員や、優秀なスタッフを表彰する「CAINZ of the year」に選ばれたメンバーなどで構成されている。
社内アンバサダーは会議に参加したり、試作品を使用して使い心地や改善点をフィードバックするなど、ユーザー目線で商品開発にも携わる。「社内アンバサダーを新たに起用し、意見を取り入れることで、顧客目線の商品開発を加速させたい」と清水氏は意気込む。
今後の課題について、執行役員CMO(最高マーケティング責任者)兼マーケティング本部本部長の石橋雅史氏はSNSの活用を挙げる。
「オリジナル商品のキッチンマットはインスタグラムで700万回再生されて、一気に注目を浴びた。しかし、まだまだ売場で埋もれている商品が多い。もっと認知度を高める必要がある」(石橋氏)。
小売業ではマーチャンダイジングを意識する企業は多いが、マーケティングに取り組む企業はほとんどない。カインズにとって、本イベントはマーケティング戦略の第1歩という位置づけだ。「これだけで終わらせず、さまざまな施策に取り組んでいく。商品発表会も毎年開催できるようにしたい」と石橋氏は言う。
カインズは小売業界の〝マーケティング先進企業〞になるべく、チャレンジを続けていく。
本項は以上です。続きをご覧いただく場合、ダイヤモンド・ホームセンター10月15日号をご購読ください。