今年に入ってから、あちこちで「昭和百年」なるワードを耳にします。改めて食品産業における100年トレンドを考えてみると、思い浮かぶのは「簡便性の進化」です。簡便ニーズは昔も今も存在し、これに応える商品の進歩は止まりません。供給サイドにとって、簡便ニーズへの対応は利益の源泉です。家庭の手間を引き受けることで付加価値が生まれます。食品スーパーのこれから先の収益源も、簡便さの価値を高めていくアプローチにあることは間違いなさそうです。
ヨークベニマルは5工場体制で総菜強化
食品スーパーにおいて、食卓の手間を引き受けて付加価値を生む部門といえば総菜です。需要があるだけでなく、各種コストの上昇局面にあっては粗利益高を稼ぐ部門としてその重要性は増しています。
ただ、総菜を作り込むにはコストがかかります。いかにして総菜の販売数量を増やし、粗利益確保につなげていくか。規模の大きなチェーンほど直面する難題かもしれません。
ヨークベニマルは、総菜部門の売上高比率を現状のおよそ13%から15%に高めるべく体制を整えています。今期は5カ所目の総菜工場を稼働させ、それにより内製化を一段と進めることで総菜の収益力を高めようとしています。
ヨークベニマルの総菜の強みは、自社工場で製造するオリジナリティ、定評のあるクオリティだけではありません。単品ごとに工場粗利、店舗粗利、全体粗利を把握しながら販売できる仕組みこそ、大髙耕一路社長が「長い時間をかけて築いた当社の強み」と誇るポイントです。
トライアルは西友統合で総菜拠点を拡充
西友の買収を発表したトライアルホールディングスは、想定する統合効果の1つに、西友の店舗・センターが有する総菜製造力の活用を挙げます。
トライアル店舗で支持されている低価格総菜の製造ノウハウを提供し、西友店舗の集客力アップを図るとしています。また、西友が関東・中部・関西に所有するセントラルキッチンやプロセスセンターからトライアル店舗への供給も考えているようです。
西友店舗はトライアルの小型業態「トライアルGO」の母店としての活用も想定します。関東都心部におけるトライアルGOの多店舗化を支える総菜の供給拠点も兼ねるというわけです。
総菜は、簡便ニーズに対応する要です。その戦略はヨークベニマルに見るように大規模な投資を伴うものであり、トライアルホールディングスに見るようにM&Aの動機の1つにもなります。
きゅうりも冷食化! 簡便商品充実のトップバリュ
食品スーパーが食卓の手間を引き受けるアプローチは、総菜だけではありません。ここ何年にもわたるトレンドの一つに、冷凍食品売場の拡大があります。冷凍食品は、総菜を補完する役割を担いますが、生鮮素材を簡単・便利にする機能も見逃せません。
冷凍素材ならではのストック性や使いやすさはユーザーにとって便利です。また最近では、生の素材よりも価格が安定していることも魅力になりつつあります。このところ農産も水産も畜産ですら、相場の変動が穏やかとはいえません。
農産の相場高が続いていますが、そこには気候の影響だけでなく、構造的なコスト増もあるようです。食卓の出現頻度が高い野菜は、産地リレーによって年中流通しています。ただ昨年来、遠距離の輸送にはトラック運転手のリレーも必要になりました。まして人件費は上昇を続けており、物流のコスト構造は以前とは異なります。
イオングループのPB「トップバリュ」は、100品目を超える冷凍野菜を商品化しています。2月発売の「スライスきゅうり」は、価格対応型のシリーズ「ベストプライス」として発売、ヒット商品になっているそうです。
きゅうりをカットしてある利便性や、冷凍しても食感を維持する技術もさることながら、その魅力は収穫量の多い旬の時期にまとめて製造して物量を確保できることです。これにより安定した価格を実現できます。消費者にメリットというだけでなく、供給サイドにも安定した収益をもたらすはずです。
簡便性を高めるために、商品にさまざまな手間を加えます。その手間にはコストもかかりますが、利益の源泉でもあります。最近の取材からも、その工夫は進歩を続けていると感じた次第です。昭和二百年になっても簡便ニーズへの対応は続いているに違いありません。