中元・歳暮の市場は縮小していますが、ギフト市場は拡大しています。22年のギフト市場は4%も伸長率して10.5兆円規模になったのに、中元・歳暮市場は0.8%減といいます(矢野経済研究所)。依然として1.5兆円規模の一大市場ではあるものの、ギフト全体のトレンドからは取り残されています。その要因について探るとともに、中元・歳暮の生きる道について考察したいと思います。
理由あって減っている、フォーマルギフト需要
大丸松坂屋百貨店は今年、中元・歳暮の減少対策よりも、ギフト全体の拡大策に舵を切ると明言しました。もっとも、以前から百貨店各社は、フォーマルギフトと呼ばれる中元・歳暮に関して、伝統的な意味合いとは異なる特色を打ち出そうと工夫を重ねてきました。
中元・歳暮の減少要因として、ユーザーの高齢化と、それによる利用の減少が挙げられることは多いです。ただ、これは問題の本質とはいえません。問題は高齢化ではなく、次の世代に贈答の習慣が継承されていないことです。
昭和から続く他の催事と比べても、クリスマスやバレンタインなどは世代を超えて伝わっていますが、中元・歳暮の場合、今の50~60代のどこかを境に、ほとんど断絶しているように見えます。
フォーマルギフトの需要は、理由あって必然的に下がっています。中元・歳暮以外のギフト需要の台頭により、ギフト機会としての地位が相対的に低下してきました。この現象をもたらした要因は何か? 時代の変化といえばそれまでですが、ここではテクノロジーの進化によって人付き合いが変容したからであるという仮説を立て、踏み込んでみたいと思います。
かつて人のつながりは距離に制約されていた
中元の取材中に、ある百貨店のバイヤーは「LINEなどで常時つながっている状況では、季節のご挨拶という感じにはなりにくいだろう」と話していました。そうかもしれません。ここに、中元・歳暮が衰退し、他のギフト機会が台頭してきた理由があるように思いました。いや、全てLINEのせいというわけではありません。さかのぼっていえば携帯電話。さらにさかのぼれば電子メールも含めて、人のコミュニケーションは頻度と密度を変えてきました。
距離によって通話料が変わる時代には、ただ単に市が違うだけでコミュニケーションの量は制約を受けました。社会人ともなると、最も近しいのは職場に集まる人たちです。取引先など仕事上の関係者とのつながりも、緊密さでいえばかなり上位に位置していたでしょう。今でも職場の仲間と多くの時間を共有することに変わりはありませんが(コロナ禍ではそうともいえなくなりましたが)、テクノロジーの進化によって、仕事関連ではない仲間とも、常に緊密につながっていられるようになりました。
個人の中で、仕事上のつながりの位置付けが相対的に下がれば、フォーマルギフトの必要性は薄れてくるでしょう。また、かつて家の固定電話にかけていたものが個人のケータイに取って変わったのをはじめ、家と家のつながりは薄れ、人は個人単位で結びつく傾向が強まりました。これも中元・歳暮を贈答し合っていた当時とは異なる環境です。
ギフトの脱フォーマル化とは、すなわち多様化のこと
中元・歳暮のフォーマルギフトが減少する一方で、ギフト市場は伸びています。この傾向はギフトのカジュアル化、パーソナル化と言われていて、結局のところギフト機会が多様化したことを表しています。
中元期と重なる5~8月を見ても、母の日や父の日がギフト機会として台頭してきました。父の日の売れ筋ギフトはウナギです。中元ギフトの売れ筋の一つでもあり、間には土用の丑の予約販売も挟みます。季節が重なれば売れ筋も似てくるようで、ウナギを贈りたいという動機があるとしても、それはいくつかの機会のいずれかに分散されてしまうでしょう。
また、先にテクノロジーによって人のつながりは緊密になったと書きましたが、相手の今をより深く知っていれば、相手に合わせたギフトを選択することが可能になります。当たり障りのない商品から、贈り先の嗜好に踏み込んだ商品をチョイスするので、求められる商品も以前とは変わってくるのが道理です。当然、贈る機会も個々の事情に合わせるわけで、なにも中元・歳暮の時期に縛られる理由はありません。
されど中元・歳暮はギフト機会の1つ
テクノロジーがもたらしたコミュニケーションの変容が、社交上の儀礼に与えた影響というと、年賀状が引き合いに出せるでしょう。年賀状のピークは2003年だそうで、スマホの登場前です。23年の発行枚数は、当時の4割以下に低下しています。
それに比べると、中元・歳暮は物品を介してのコミュニケーションなので、情報テクノロジーの進化だけで淘汰されるものではありません。むしろ物品を介すことに、新たな価値が生じないとも限りません。
人と人のつながりが変容してしまった後で、以前のような動機で贈答し合うのは困難です。そういう意味で、もはや中元・歳暮はギフト機会の「one of them」でしかありません。しかし、ギフト市場は拡大しているのです。中元・歳暮は数ある機会の1つとしては意義を失っておらず、その中身は時代に合わせて変化も可能です。バレンタインやハロウィン、母の日、父の日などが変容しながら関連市場を大きくしているようにです。
百貨店をはじめとする各業態では、伝統的な贈答文化を大事にしつつ、お取り寄せグルメやスイーツを楽しみ、それをシェアする機会として中元・歳暮の再定義を試みています。