新型コロナウイルス感染症の拡大によって、生活者の行動や意識、価値観が一変した。これにより、菓子市場も大きな影響を受けたが、チョコレートカテゴリーにおいては堅調に推移。とくに大袋商品や健康志向チョコレートが好調だ。今後もその傾向は続くと見込まれることから、小売業においては菓子売場を見直し、生活者目線の売場づくりが急務だろう。そこで、その根拠となるデータとともに売場実例を紹介する。
菓子市場で最重要カテゴリー コロナ禍に支持された理由とは
コロナ禍によって新しい生活様式が求められた2020年、生活者の意識や価値観は大きく変わった。それに伴い、消費行動にも変化がみられ、さまざまな業界で明暗を分ける事態が発生したが、菓子業界も例外ではない。しかしながら、図表①に示すように低迷するカテゴリーがあるなか、前年を上回ったのがチョコレートだ。
この10年、菓子業界においてチョコレートカテゴリーの販売金額は順調に伸長し、ナンバーワンの座を獲得している。その要因は、「健康」や「プレミアム」を切り口にした商品によって、シニア層を中心に大人の需要を喚起したことだ。結果、いまや最重要カテゴリーに位置づけられ、コロナ禍においても大きな影響を受けることなく好調を維持している。
確かに、外出・移動の自粛やテレワークの推進によって、都市部のコンビニエンスストア(CVS)での販売は低調だったが、食品スーパー(SM)やドラッグストア(DgS)は前年比プラスを達成している(図表②)。その理由として、巣ごもり生活によって在宅時間が増えたことで、家での間食を楽しむようになり、チョコレートを喫食する人が増加したことが挙げられる。チョコレートは仕事や家事、勉強の合間に食べやすいうえ、その口溶けや香りは“癒やし”にもなる。閉塞感が漂う日々のなかでストレスが増えているだけに、チョコレートが求められたのは当然のことといえるかもしれない。
市場をけん引する健康志向チョコと大袋タイプ
たとえば、家で食事をとったり、自分で調理したりすることが多くなったことで、栄養バランスを意識するようになった人は少なくない。また、巣ごもり生活による運動不足から“コロナ太り”や睡眠の質の低下など体型や体調に悩みを抱える人も多い。それゆえ、間食するならチョコレートの中でも健康を配慮したものを選びたいと考えるようになり、健康志向チョコレートを喫食する人が増えている。
かつては健康志向チョコレートといえば、高カカオチョコレートが代名詞的存在だったが、現在は高カカオだけでなく、乳酸菌やG A B A、糖質コントロールなどさまざまな機能性をうたう商品がメーカー各社から登場している。こうした機能性(ブランド)の広がりによって、シニア層だけでなく若年層も取り込み、市場は拡大傾向にある(図表⑤)。
一方、大袋チョコレートについては節約志向を背景に、値頃感のあるところが支持されているようだ。加えて昨年は、外出自粛によって来店頻度が減り、店内の滞在時間も短縮化を余儀なくされたことで、計画的にまとめ買いをする人が増加。衝動買いが減り、新商品が苦戦するなか、ロングセラーブランドによる大袋は購入して失敗することがなく、お得で安心なことから購入が進んだ。さらに、大袋は個包装されているため、衛生面でも安心できる。コロナ禍で衛生意識もこれまでになく高まっていることから、いっそう支持されたといえる。
健康志向チョコの習慣化で大袋タイプが重要な存在に
健康志向チョコレート市場においては、先述したように機能性(ブランド)が広がったほか、大袋タイプの購入が進んでいることも注目すべきトピックだ。図表⑥に示すように、販売金額に占める大袋の構成比は年々アップしている。主な要因は喫食の習慣化だ。
そもそも健康志向チョコレートは、継続して食べてこそ価値がある。たとえば、高カカオチョコレートに含まれているカカオポリフェノールは体内にとどめておくことができないため、健康を心がけるなら毎日必要な分をコツコツとこまめに摂取しなければならない。そこで毎日の喫食用に買い置きできる便利な大袋が支持されているというわけだ。箱やパウチタイプでトライアルし、その価値に共感してリピーターとなり、やがて喫食の習慣化が定着し大袋へシフトする。その結果、大袋市場は年々拡大し、重要なカテゴリーに成長している。
こうしてみると、菓子業界におけるチョコレートの存在感はますます大きくなっていることがよくわかる。しかしながら、菓子売場の実態はどうだろうか。生活者の意識や価値観に寄り添ったものになっているだろうか。
今後コロナが収束しても、健康に対する意識は定着するといわれており、健康志向は消費行動を左右する大きな価値基準となっていくことはいうまでもない。だからこそ旧態依然の菓子売場を見直し、生活者が求めるチョコレート売場を一気に拡大したいところだ。なかでも健康志向チョコレート売場の拡充は必須だ。さらに大袋タイプの品揃えを充実させ、手に取りやすいようにコーナー化することも必要だろう。それこそが生活者のためであり、小売業にとっても人口減時代に生き残るうえで有効な施策といえるはずだ。