冷凍食品マーケットはいまどうなっているのか!? 答えは「激変」である。コロナ禍の1年で、生活者の冷凍食品に対する認識が変わり、売れる量も増え、売れる商品も広がった。外食に代わる価値ある商品も人気だ。購入層が広がり、そして購入する「場所」も広がっている。この購入場所の広がりが2021年のトピックとなりそうである。
コロナ禍を背景に過去1年、家庭用冷凍食品の好調が続いている。2020年3月の「臨時休校要請」、4月の「緊急事態宣言」発令により、スーパーマーケットに殺到した消費者が競って買い求めた食品の中に、冷凍食品があった。冷凍ショーケースがからっぽになった店舗が続出、大量の発注に冷凍食品業界は供給に苦労する日々が続いた。家庭用冷凍食品販売の一大チャネル、生協宅配でも秋口まで供給不足が続いた。
「おいしい食品」「冷凍食品があって助かった」という声
振り返れば、家庭用冷凍食品の転機は、15年からの『炒飯戦争』であった。同年春、ニチレイフーズが炒飯カテゴリーナンバーワン独走中の「本格炒め炒飯」に追加30億円の設備投資を行い、品質アップのリニューアルを実施。ラグビーの五郎丸歩選手を起用したテレビCMも投入して注目を集めた。
そして同年秋に、味の素冷凍食品が「ザ★チャーハン」を新発売。俳優、小栗旬さんを起用したTVCMにより、『男メシ』炒飯として大人気商品となった。以降、男性が、自分で食べたい冷凍食品を買い求める、という購買行動が生まれ、30~40代の子育て主婦層というメーンユーザーのイメージがぼやけていくことになる。
マルハニチロも炒飯CMに参戦して、炒飯市場は三つ巴。この話題を受けて、『美味しい冷凍食品』について、テレビ、雑誌をはじめさまざまなメディアが飛びつき、幅広い世代に商品情報が伝わった。男女年齢を問わず、『美味しい冷凍食品』に対する関心が芽生えたのである。また、有職主婦が増え、彼女らに響くことば、家事の『時短』に冷凍食品が最適だったことも後押しした。
17年からは、コンビニエンスストアで冷凍食品の売場拡大が本格化していく。かつて家庭用冷凍食品需要の半分以上を占めるといわれてきたお弁当向け商品は、少子高齢化を背景にコロナ以前より減少傾向にあり、代わって夕食向け商品やめん類、米飯類が伸びていたのだが、コンビニ冷凍食品は、「おかづまみ」(セブンイレブンの造語)というジャンルも開拓する。夕食のおかずにも、おつまみにもなる冷凍食品という意味だ。缶ビール・酎ハイなどを合わせてワンコイン(500円)という価格設定が受けた。さらに、個食需要に便利な1人前具付きめん類、使い切りのミックス野菜やフルーツまで、品揃えを広げていき現在に至っている。
食べたいときにコンビニで買って帰れる身近な食品。冷凍庫にストックしておけば、いつでもすぐに食べられる冷凍食品の便利さ、美味しさに対する評価は、コロナ禍以前から高まっていたのである。また、「コストコ」や「業務スーパー」で購入できる大容量でお得な冷凍食品、安価に買えるドラッグストアの冷凍食品もかねてから注目されていた。ネット通販(EC)市場も含め、消費者から見た『買い場』は広がっていた。コロナ禍によりその傾向は一気に加速した感がある。
冷凍食品の評価が高まる背景は他にもあった。それは、イオンが取り組むフランスの冷凍食品専門店「Picard(ピカール)」の店舗展開(2016年11月~)、良品計画「無印良品」の冷凍食品発売(2018年9月~)である。いずれもその特徴ある品揃えで、冷凍食品の持つ幅広い可能性を示したと言って良いだろう。冷凍食品に対するイメージが変わった生活者も多かった。そして、両者とも店舗に加えECにも注力している。
コロナ禍で新規ユーザーが増える
昨年3月以降夏まで、家庭用冷凍食品の消費は購入数も購入層も大きく拡大した。メーカー各社が秋の新商品発表会見を行った中で、メーカーの実感として最も印象的だった言葉は、「マーケティング活動がオートマティックに一気に行使された結果と同じ」(日清食品冷凍)であった。従来からの客は買い上げ点数を増やし、非利用者の新規利用が広がって、定着したのである。在宅時間が増え、買い物頻度が減ったことで、日持ちしない総菜より、冷凍食品を買い置く方が得策だと気づいた人が増えていった。
国内生産品目の数量第1位の「うどん」も、ナンバーワンメーカー、テーブルマークによると、「玉うどんは間口(購入率)の拡大が奥行増(購入数量/人)を大きく上回った」という。チルドゆでうどんから冷凍うどんに切り替えた人が続出したのである。
外食業界、業務用、異業種の参入でさらに広がる『買い場』
今さらながらだが、冷凍食品業界から見ると、スーパー、コンビニは、家庭用冷凍食品の販売店であり、総菜売場やカウンターまわりで使用する業務用冷凍食品の需要先でもある。しかし、この1年、業務用は苦戦している。業界は、業務用の落ち込みを家庭用がカバーして増収増益の企業もあれば、売上減少でも収益は上がった企業、家庭用中心なので二ケタ増の企業、業務用主体で減収減益企業など様々だ。
好調な家庭用冷凍食品市場には、新規参入がめだってきた。外食店がテイクアウトの延長として自社ブランドの冷凍食品を作り、次の柱事業にと力を注ぐロイヤルのような事例。ピッツェリアの冷凍ピザ販売など、専門店の自家製冷凍品も登場。起業家による、サブスクのスムージー・スープ、パン、幼児食といった、まったく新規の参入も続いており、これらはすべて、ネット販売に特化して顧客獲得に努めている。業務用主体だったメーカーも、今春は家庭用市場に目を向けて商品提案を行っている。家庭用・業務用の境界線は少しぼやけてきているようだ。
既存メーカーにとってはライバル激増の2021年。売上好調なスーパーマーケットもうかうかとしてはいられない。家庭内の冷凍庫スペース争奪戦が始まっている。
山本純子責任編集、冷凍食品専門情報サイトは「エフエフプレス」