こんにちは。コピーライターの川上徹也です。この連載では「店舗の皆さんが、チラシ・POP・メニューなどでどのような言葉やストーリーを書けば売り上げに繋がるか」の理論について、実例を交えつつ紹介しています。今回は「ベネフィットを訴求する」という手法をお伝えします。
「ポテサラ論争の完璧な回答」とは?
今年の7月上旬に、ツイッターで巻き起こった「ポテサラ論争」をご存知でしょうか? きっかけになったのは、とある女性が投稿した以下のツイートからでした。
「『母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ』の声に驚いて振り向くと、惣菜コーナーで高齢の男性と、幼児連れの女性。男性はサッサと立ち去ったけど、女性は惣菜パックを手にして俯いたまま。私は咄嗟に娘を連れて、女性の目の前でポテトサラダ買った。2パックも買った。大丈夫ですよと念じながら」
このツイートは、 13万2000件のリツイートと39万件の「いいね」がつき(8/11現在)、当時トレンドワードに「ポテトサラダ」が入るくらいに話題になりました。
他人にそんな失礼をことを言う人間がいるのかという非難の声が多数でしたが、一方でポテトサラダを作るのが簡単か難しいかという論論もおきました。
そんな中、さいみん(@saimin_echo)さんが「近所のスーパーのお惣菜コーナーは『ポテサラくらい作ったらどうだ』に対する完璧な回答を出してる」というツイートとともに、惣菜コーナーのPOPの写真を投稿しました。それが以下のものです。
近所のスーパーのお惣菜コーナーは「ポテサラくらい作ったらどうだ」に対する完璧な回答を出してる pic.twitter.com/qvuvf10oFE
— さいみん (@saimin_echo) July 11, 2020
このPOPに書かれているコピーを文字化すると以下のようになります。
このコーナーで売っているのは時間です。
夕食にぴったりな時短メニュー大集合!
調理時間短縮に「お惣菜」
「手を抜いた」と言われないために
お気に入りのお皿に盛りつけるだけで
「手作り気分」ですよね!
このPOPは“ポテサラ論争”に関係なく以前からあったものらしいですが、共感の声が多くよせられ、3万7000件のリツイートと9万7000件の「いいね」がつき話題になりました。では多くの人は、なぜこのPOPのコピーに共感したのでしょう? それは、買い手のベネフィットが書かれていたからです。
ベネフィット(Benefit)とは、一般的には「利益」と訳されますが、広告業界では「その人にとって得する情報」という意味で使われることが多いです。「得」というと、金銭的なことばかりを考えがちですが、必ずしもそうではありません。お金以外のベネフィットもいろいろと存在します。
私はこのベネフィットのことを「(商品を通じて得られる)買い手のハッピー」と超訳しています。当たり前ですが、自分に何かハッピーが書かれてあると思うと、人はその情報に興味を示します。自分に関係あると思うからです。
このPOPで言うと「惣菜を買うと夕食のための調理の時間を節約できる」というのがベネフィットです。時間を節約できれば、その分、他のことに時間を使うことができます。もし買い手が惣菜を買うことに「手抜き」と言われる罪悪感を持っているとすれば、このPOPのコピーを読むことで引け目なく買うことができるかもしれません。
「買い手にとってのハッピー」の絵が浮かぶように
視聴者へのベネフィットを提示するのが得意だったのが、「ジャパネットたかた」の創業者で元社長の髙田明さんでした。テレビショッピングでは、商品そのものを説明するよりも、その商品が買い手にとってどのようなハッピー=ベネフィットがあるのかを絵が浮かぶように話しました。
たとえば、髙田さんが、テレビショッピングでとあるメーカーのICボイスレコーダーを販売した時のことです。一般的には会議がインタビューの録音で使われることが多く、メーカーのパンフレットには「録音時間」「音質」などが記載されていることがほとんどです。
しかし髙田さんはまったく違うベネフィットを訴求することで、働くお母さんに向けてこのICボイスレコーダーを爆発的に売りました。それはどのようなベネフィットだったでしょうか?
髙田さんは以下のように呼びかけました。
「働くお母さん。子供が学校から帰ってくる。でもお母さんはいない。ちょっと淋しい。そんな時、このボイスレコーダーがあると、お子さんに声でメッセージを残すことができるんです。『〇〇ちゃん、お帰り。お母さん、まだ会社だけど、おやつは冷蔵庫に入っているからね。宿題は早めにちゃんとやってね』とかね。どうですか? こんなお母さんの声を聞いたら、お子さんは喜びます。さびしさも少しやわらぐと思いますよ」
自分が働くお母さんの立場なって聞いてみると、ボイスレコーダーを使うことによるハッピーが目に浮かびます。つまり「ベネフィット」が提示されているのです。 実際、この放送は大反響を呼び、ボイスレコーダーはバカ売れしました。
皆さんが商品を売ろうとする時、POPに商品の特長を書いてしまいがちです。そこでちょっと考えて、買い手のベネフィットは何かを考えてみましょう。うまく発見して、買い手にとってのハッピーを絵が浮かぶように書くことができたら、きっとバカ売れに繋がります。
・プロフィール
川上徹也(コピーライター 湘南ストーリーブランディング研究所代表)
大阪大学人間科学部卒業後、大手広告会社勤務を経て独立。東京コピーライターズクラブ新人賞、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞など受賞歴多数。中でも、企業や団体の「理念」を1行に凝縮し旗印として掲げる「川上コピー」が得意分野。「物語」の持つ力をマーケティングに取り入れた「ストーリーブランディング」という独自の手法を開発した。
著書は『物を売るバカ』『1行バカ売れ』『コト消費の嘘』(角川新書)、『キャッチコピー力の基本』(日本実業出版社)『売れないものを売る方法? そんなものが本当にあるなら教えてください』(SB新書) など59万部突破。海外にも多数翻訳されている。