マルエツ(東京都)が総菜強化の取り組みを本格化させている。7月に神奈川県横浜市内でオープンした新店では同社で初めて生鮮と総菜の売場を一体化したレイアウトを導入。商品面でも生鮮素材を積極的に用い、鮮度、味、価格、見た目にこだわった魅力的なメニューを拡充した。近年は業績の低空飛行が続くマルエツだが、こうした総菜革新の動きは停滞ムードを打破する起爆剤となるか――。
売場でもバックスペースでも、
生鮮と総菜の一体化を図る
マルエツが7月17日に神奈川県横浜市港南区にオープンした「マルエツ横浜最戸(さいど)店」(以下、横浜最戸店)。2005年まで「マルエツ最戸店」として営業していたが競争激化により撤退、土地自体は所有したまま「食品館あおば」を運営するビッグライズ(神奈川県)とリース契約を結び、同地では「食品館あおば最戸店」が営業していた。しかしリース期限が終了を迎えるに際しマルエツは再度出店を決断。古瀬良多社長は「これまでの集大成となるような店づくりにチャレンジした。会社としても気合が入っている」と気を吐く。
古瀬社長が言う“集大成”の大きな部分を占めているとみられるのが、総菜だ。鮮魚店を祖業とすることもあり、マルエツはかねて生鮮部門を強みとして打ち出し、顧客からの支持を集めてきた。しかし、古瀬社長は昨年3月のトップ就任以降、総菜強化の姿勢を明確に打ち出した店づくりを志向。その皮切りとなったのが19年6月開業の「江戸川橋店」(東京都新宿区)で、総菜メニューとしてはめずらしい鉄板で焼き上げたステーキや、「パプリカの肉詰め」や「ラタトゥイユ」といった彩り豊かな洋風メニューの提案、店内加工のフレッシュサラダの販売などにチャレンジした。
さらに今年2月には社内の組織変更を実施し、総菜強化の最前線として「フレッシュデリカ統括部」を新設。それまで「精肉」「青果」「鮮魚」「デリカ」として部門ごとに独立していた組織をフレッシュデリカ統括部に集約した。生鮮各部門と総菜の垣根を取り払い、売場づくりや商品開発の面での柔軟性を持たせるねらいだ。
この新しい組織体制のもと、現時点での「総菜強化」の取り組みの集大成として位置付けられるのが、横浜最戸店である。
売場づくりの面で最も特徴的なのが、店内中央部に、生鮮売場に囲まれるようにして総菜売場を配置するというレイアウトだ。マルエツでは初めての試みで、生鮮食品と総菜の垣根を取り払い、「『生鮮デリカ』としての一体感を実現した」(古瀬社長)
その考えはバックヤードにも及んでおり、生鮮各部門と総菜の加工・調理スペースをつなげ、行き来しやすいようにした。「これが、新たな商品(開発)にもつながっていくという発想だ」と古瀬社長は説明する。
「生鮮デリカ」のコンセプトを前面に押し出したメニューの数々
商品に目を向けると、やはり生鮮素材を活用したメニューが豊富に展開されている。その1つが、鮮魚部門が製造する寿司「魚悦」で、冷蔵の平台ケースを用いてコーナー化。「横須賀市場握り」など地魚をネタに使った商品も揃える。
このほか、レンジアップのパスタも各部門の売場に並ぶ素材を使用。「トマトたっぷり具沢山ナポリタン」「ほうれん草ととろ~りチーズのミートソース」「砂肝とぼんじりのスパイシー塩焼きそば」(各税抜350円)などを揃える。一般的なレンジアップパスタはどちらかというと調理の手軽さが先行するものだが、価格を抑えつつ素材にもこだわった商品ラインアップは支持を集めそうだ。
もう1つ注目したいのは店内調理のフレッシュサラダが並ぶサラダコーナー。「海老とアボカドサラダ」「ローストビーフサラダ」など、新鮮な素材をメーンにした、単品で一食が完結するようなメニューも提案する。これに加え、サラダのトッピングに最適な「蒸しホタテ貝」「スモークサーモン」「ハム」なども関連販売する。
業績向上につなげられるか
古瀬社長はかつて、「(総菜は)頑張ろうと言いながらも低迷している」と打ち明けたこともあった。しかし、新しい組織体制のもと、これまでからさらに一歩進んだ売場づくり、商品づくりを試行する横浜最戸店の取り組みからは、マルエツの総菜に対する本気度を感じ取ることができる。
その一方で気になるのは、近年のマルエツの業績低迷だ。足元では新型コロナウイルスによる“特需”の恩恵を受けてはいるものの、20年2月期のマルエツの既存店売上高は対前期比0.8%減となり、2期連続で減少している。
部門の垣根を取り払い、生鮮と総菜を一体化させた売場づくり、商品づくりを行うという方向性が、こうした停滞ムードを払しょくする契機になるか。総菜強化の取り組みは、マルエツにとって命運を分ける重要なミッションであることは間違いないだろう。