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ニューノーマルにより行動も価値観も変化=2020年秋冬 注目マーケティングトレンド

食の魅力度アップへの取り組みが重要に

新型コロナウイルスの影響により、食品小売業が果たす役割はますます大きくなっている。第2波への警戒も高まる中、何をどのように売っていくべきか?だが、こうした情報収集の場である主要卸の展示会は軒並み中止の状態だ。そこで弊誌では、誌上展示会と位置づけた別冊本を企画。主要メーカーの秋冬注目商品を紹介するとともに、三菱食品マーケティング本部長の小山裕士氏にコロナによる生活者動向と今後について伺った。

備蓄系から手づくり系へ巣ごもりで購買行動に変化

写真/recep-bg
三菱食品マーケティング本部長
小山裕士氏

── まず、コロナによって、消費動向はどのように変わったでしょうか?

小山 一言でいえば、すべての前提が変わりました。なんといっても商品の売れ筋が変わりました。巣ごもりが始まった3月は、パスタや缶詰、米飯加工品、冷凍食品などの備蓄系が跳ね、4月も堅調。さらに、手づくり系のものや子供と一緒につくれるものが売れました。ホットケーキミックスやお好み焼き、小麦粉、中華調味料といった類いの商品です。また、ヨーグルトや納豆、キムチ、ハチミツなどの免疫力を上げるといわれる商品も売上を伸ばしました。

 当社では、商品ごとに属性をふり、それに出荷状況を掛け合わせて消費動向を分析しているのですが、3月と4月は実に興味深い結果となりました。3月は「安心・安全」の属性のものが伸び、4月はこれに加えて「お買得」「大容量」といったものが伸長。節約志向とともに、個食で買っていたものをまとめて購入する傾向が現れました。緊急事態宣言の発出によって行動が制限されたことで、生活者の買い方が変わってきたのです。最初は食料確保の意味合いから備蓄系商品が需要爆発しましたが、それらが行き渡ると、飽きも出てくる。それで食の楽しみやこだわり、手づくりなど別の欲求が出てきたというわけです。

── そうなると、春先に出た新商品は苦戦したわけですね?

小山 ケースバイケースだと思いますが、試食もマネキンもできず、チラシも打てない状況だったので、メーカーの中には新商品を休売するケースは多かったですね。また、既存商品で欠品が発生すると、新商品よりもそちらをしっかり供給しようという動きがあったので、結果として春先は新商品が少なかったといえます。

 苦戦したといえば、総菜です。個食で毎日購入する需要を総菜とするならば、コロナによって生活者の行動は変容しているので、従来のようには売れなくなってきています。バラでの販売は個包装化されてきており、また在宅勤務になると、仕事帰りに総菜を買うというシーンが減少しているのも大きな要因です。代わって、家で料理する割合が高まり、調味料系は好調でしたね。

コロナによって価値観に変化物質的から精神的な充足感へ

── 緊急事態宣言が解除されてから、消費動向に変化はあったでしょうか?

小山 どういうスパンで見るかにもよるのですが、社会環境的には国内外の経済が悪化しているので、否が応でも節約志向は出ています。ただ、宣言が解除されたとはいえ、外出やイベントにはまだ制限があるため、極端な言い方になりますが、食べることしか楽しみがない。食べるものぐらいはいいものを食べたい。おいしいものを食べたい。食べてホッとしたい。そんな欲求が出てきます。つまり、食がもつ本質的な価値があぶり出されてくる。食に求める楽しみがこの先グッと上がることは間違いありません。

 家で食べる内食化の傾向はこのまま続き、全てがコロナ前の状態に戻ることはないでしょう。一方で、家事の負担が増えるため、家事の分担傾向やテイクアウトのニーズが高まったり、味の変化を求めたりなど、いろんなニーズが出てくると思います。在宅の浸透や健康意識の向上、人との繋がりの再確認、社会貢献への高まりなどを背景に、生活者の意識や行動は大きく変わってきています。その根底には、本質志向や生活防衛志向、家の中で楽しもうといった価値観があります。そうなると、この先売れるものは、そうした価値観に紐付くものではないかと考えています。

── コロナによって価値観が変わり、それにつながる商品が今後売れるのではないかということですね?

小山 はい。ただ、価値観は今後も変わる可能性もあります。現在の制限がもう少し緩和されれば、また違ってくるだろうし、第2波が来れば、節約志向がもっと高まるでしょう。しかしながら、節約志向とこだわり志向のように、相反する志向がメリハリをもたせながら共存するのではないでしょうか。ラグジュアリーではないけれど、シンプルでいいものを選ぶといった具合に。物質的な欲求から精神的な充足感へのシフトが進むと思いますね。

 当社では生活者調査を長年行っているのですが、以前からその傾向はありました。コロナによってそれが鮮明になってきた感はありますね。自粛という抑圧の中で、ほかに楽しみがないからこそ、食に求めるものが多くなり、それらと価値観が相互に絡み合って購買行動に出てくるのではないかと思います。

新生活様式に合わせた売場やプロモーションの再構築を

── 今後、秋冬の売場づくりにおけるポイントは何でしょうか?

小山 5月に新しい生活様式が公表されましたが、これが根付いた場合、生活者の購買行動はどうなるか? 当社ではいち早くオンラインブレストを行い、売場づくりのポイントをまとめました。

 まず、生活者の意識や行動をキーワードとして挙げ、「テレワーク」「行楽・イベント」「料理」「健康」「おうち時間」というカテゴリーに分類。これに意識や行動の変化のキーワード、「心とカラダの健康」「人との繋がり」「食育」「節約」「働き方」「イエナカ・近圏」「国産品志向」を絡めて、注目すべき切り口・系統の商品をピックアップしてみました。

 たとえば、「テレワーク」×「働き方」・「心とカラダの健康」という切り口であれば、「在宅ワークのQOLを上げましょう!」をテーマに、ワンハンド飯や集中力アップの商品などを揃えてはどうかと提案しています。

 また、オリンピックが延期になって、計画していた販促ができない今、どんなかたちで何を消費者に訴求できるかを整理。「行楽・イベント」×「イエナカ・近圏」・「国産品志向」という切り口で、「ふるさと需要・エア旅行・自粛ご褒美提案で地域の食品メーカーを応援しよう!」をテーマに、お取り寄せグルメ展を開催してはどうかと提案しています。

 さらに、商品だけでなく、店舗の在り方についても言及。感染症対策を変化のチャンスととらえ、店舗全体でできる新たなサービスに取り組んでみてはどうかと提案しています。

── 新しい生活様式に合わせて、どんなふうに店舗は変わるべきでしょうか?

小山 新生活様式によって変化した購買行動に対し、新たな店舗フォーマットが求められています。今回、ホットケーキミックスなど粉物系の欠品が続きましたが、実はこれは近年縮小されてきたカテゴリーです。「手づくりする人は少しずつ減少していく」といわれ、より簡便にという流れの中で総菜が増えた。しかし、コロナの影響でその流れが大きく変わった。「つくる」ことへの価値を初めて味わったり、思い出したり。この流れを絶やさず、提案していくべきだろうと思います。そういう意味で、売場構成比や棚割等も見直した方が良いかもしれません。プロモーションも然りです。必要に応じてネットやIT技術を活用し、リアル店舗ならではの利点を生かしたプロモーションを考えるべきでしょう。そうすることで、真に生活者に寄り添った店として支持されていくと思います。