「キリン一番搾り生ビール」の好調に加え、「本麒麟」の大ヒットによって、2018年は市場を大きく上回る伸長率の達成を見込むキリンビール。1年を振り返りながら、成功の要因に迫るとともに、今年度に向けた取り組みを、キリンビール株式会社 執行役員 マーケティング本部長の石田明文氏に聞いた。
主力ブランドを筆頭に2018年はねらいどおりに達成
――まずは、2018年の酒類市場を振り返っていかがでしたか。
石田 ビール類市場は全体で前年比マイナス2~3%で着地しましたが、RTD市場は2ケタ増を達成しました。ここ数年のトレンドと変わらない結果ですね。このあと2020年、23年、26年と酒税改定が行われますが、RTDは26年まで税額が変わらないこともあり、この流れは継続、あるいは加速するだろうとみています。
ビール類はボリュームベースでいえば、最盛期の70%程度にまで減少していますが、一方でクラフトビールは、構成比は少ないものの、ここ数年で倍増しています。つまり、お客さまは価格に対してシビアですが、価値を感じられるものには購入を惜しまない。したがって、どれだけ価値を伝えきることができるか。当たり前のことですが、非常に大事なことだと思っています。
――御社においては、どんな1年だったでしょうか。
石田 一昨年の秋にフルリニューアルをした「キリン一番搾り生ビール(以下、一番搾り)」が引き続きのご好評をいただき、特に缶製品は大幅前年超えで好調に推移しました。今年で発売30年目を迎える「一番搾り」は、われわれのものづくりに懸ける思いを体現したフラッグシップブランド。キリン独自の一番搾り®製法でつくられたビールのすばらしさを、広告だけでなく、店頭からも発信し続けてきた結果だと思っています。
この好調をベースに、新ジャンルでは1月に発売した「キリン のどごし STRONG(ストロング)」と3月に投入した「本麒麟」が大ヒットし、さらに6月にブラッシュアップした「キリン のどごし〈生〉も好調に推移しその結果、 6~8月の最盛期において、ビール類市場が縮小傾向にあるなか、ビール類計で2桁増で駆け抜けることできました。
――ビール類は大成功を収めたということですね。RTDなどほかの酒類はいかがでしたか。
石田 まずRTDですが、フラッグシップブランドの「氷結®」ブランドが堅調に推移しました。そのうえで「本搾り™」シリーズが2ケタ増を達成。さらに、 4月より発売開始した「キリン・ザ・ストロング」シリーズが上乗せしました。当初予定していた年間販売目標の約1.5倍を達成し、「キリン 氷結®」の発売以来、17年ぶりの大型新商品となりました。
また、ウイスキーも国産ブランドに加え、「ホワイトホース」や「ジョニーウォーカー」といった輸入ウイスキーも非常に好調で、ウイスキー全体で109%の伸びを示しています。また、 8月に「キリンウイスキー 富士山麓 Signature Blend シグニチャーブレンド」を発売しましたが、高価格帯であるにもかかわらず、計画比120%で推移しております。
結論として、2018年はねらいどおりに達成することができました。
満を持して投入した自信作「本麒麟」が大ヒット
――昨年は新ジャンルの「本麒麟」が話題を集めました。
石田 弊社には新ジャンルカテゴリーの主力商品として「のどごし」ブランドがありますが、これは“ゴクゴク飲める爽快な味わい”を追求したものです。これに匹敵する太いニーズの、“ビールらしいコクのある味わい”を追求した新ジャンルを育成したい。そんな思いから、これまで10を超えるブランドを立ち上げ、チャレンジしてきましたが、なかなか定着させることができませんでした。その理由をすべて振り返ったうえで生まれたのが「本麒麟」です。
手前味噌になりますが、お客さまからは「ビールと比べても遜色のない味」という評価をいただいています。「本麒麟」というネーミングは、まさにわれわれの本気度を示すもの。ブランドカラーを使った上質感にあふれた深紅のパッケージも然り。自信作であることを体現しています。
――テレビコマーシャルをはじめ、店頭の広告も印象的でした。
石田 お客さまが見て、「飲んでみたい!買ってみたい!」と思う広告やコミュニケーションを実施することができたと思います。そして店頭では、「コマーシャルで見た! 飲んでみたい! 買ってみたい!」と思わせる売場をつくることができました。
店頭を真っ赤に染めて展開しましたが、単にパッケージが深紅だからそうしたわけではなく、どうしたらお客さまがテレビコマーシャルを想起して、興味をもち、商品を購入してくださるか。お客さまの購買心理や購買行動を論理的かつ科学的に検討し、一定の仮説をもってつくり上げたのが、あのような売場です。
――なるほど。では「本麒麟」のヒットの要因は、ズバリ、何でしょうか。
石田 商品開発から広告戦略、売場のプロモーションまで一気通貫のマーケティングができたことです。お客さま起点でニーズをとらえ、商品を開発し、ブランドの価値を伝える。そうすることで、トライアルが進み、そのおいしさに驚いて「また飲もう!」という好循環が生まれました。多くのご支持をいただけたおかげで、当初、年間販売目標は約510万ケース*でしたが、それを大きく上回る約870万ケースを販売しています。(2018年12月中旬現在)
*大びん換算
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マーケティングの質を高め19年は主力ブランドに注力
――非常に好調だった18年ですが、19年の取り組みについて聞かせてください。
石田 ビール類市場が縮小するなか、税制改正によってとくに発泡酒、新ジャンルカテゴリーは縮小するでしょう。それに伴い、ブランド淘汰は進むと見込んでいます。それゆえ、マーケットの変化を見極めながら、19年は主力ブランドに注力する形で取り組んでいきたいと考えています。
ここ数年、数字を重視するあまり、新商品やブランドのエクステンション商品を多く投入してきましたが、先々のことを考えると、主力ブランドのよさをきっちり伝えていくことが大事。そこが勝負になると思っています。
したがって、「一番搾り」については引き続き、その価値を伝え続け、将来的には日本のビールの本流にしていきたい。税率が一本化されても、エコノミークラスは残りますから、そのジャンルにおいて「本麒麟」を、「のどごし」ブランドとともに、柱になるように育成していきたいと考えています。
ブランドが淘汰される一方、クラフトビールのように、付加価値のある商品はこれからも増えていくでしょう。税制改正の影響だけでなく、お客さまの嗜向の変化も後押しして、今後拡大していく市場だととらえています。
RTD市場においては、引き続き拡大が見込めると考えています。なかでも、アルコール7%以上のいわゆる「ストロングカテゴリー」は成長領域。今やRTD内構成比の50%を超えてます。昨年、「氷結®ストロング」シリーズと棲み分ける形で「キリン・ザ・ストロング」シリーズを発売しましたが、カニバリも最小限できちんと差別化されています。今後もそれぞれの強みをしっかり訴求して、多くの支持を得たいと思っています。
――お客さまにブランドの価値をきちんと伝えられるかどうかがカギとなりそうですね。
石田 そうですね。こういう環境下、おそらくメーカー各社は同じ戦略をとることになるでしょう。だからこそ、マーケティングの質をどれだけ高められるか。「本麒麟」で成功した一気通貫のマーケティングを、今年はもっと進化させていかなくてはなりません。とくに店頭での価値訴求は重要です。
一番大事なことは、来店される地域のお客さまのことをしっかり理解すること。日本全国、お客さまは全然違います。「47都道府県の一番搾り」を経験したことで、地域のお客さまを理解する力はずいぶん高まりました。小売店のみなさまはもっとお客さまのことをご存じです。来店されるお客さまのことを理解したうえで、小売店さまと協業しながら、ブランドの価値を店頭からしっかり伝えていくこと。広告と連動した、質の高い売場をつくることで、小売店さまの売上にも貢献できるととともに、もっと愛されるブランドに育成できると確信しています。
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