超情報化時代の流れとともに、スイーツ業界もトレンドの移り変わりがますます激しくなり、短命化の傾向にある。2021年は「マリトッツォ」が大きな反響を呼んだが、22年に入ってからは早くもブームが沈静化しつつあり、“ポストマリトッツォ”の座を射止めるべく、さまざまなスイーツが生存競争を繰り広げている。
今回はそうした中から、近年のスイーツ業界の大きな流れとなりつつある「定番回帰」に注目し、身近な事例とともに紹介する。
歴史ある古典菓子や
誰もが知っている定番菓子が主役に
スイーツ業界では数年前まで、複数のスイーツを掛け合わせて新しい味を生み出す「ハイブリッドスイーツ」が注目を集めていた。「ハイブリッドスイーツ」が注目されるきっかけとなったのは、2013年にアメリカの「ドミニクアンセルベーカリー」が日本上陸した影響が大きく、その後、コンビニスイーツなどへとその手法が受け継がれて現在に至っている。
しかし、一ブームを築き上げた同店もコロナ前に日本から撤退。その反動のように近年、注目を集めているのが、誰もが知っているスイーツにスポットを当てた「定番回帰」のスイーツだ。
伝統菓子をアレンジした
ハーゲンダッツの新シリーズ
その一例が、ハーゲンダッツジャパンが今年3月に発表した新商品、「クラシック洋菓子」シリーズだ。第一弾として、『ナポレオンパイ~苺とカスタードのパイ~』と、『レーズンバターサンド』の2商品が発売されている。
「クラシック洋菓子」のコンセプトは、「作り手のこだわりや温もりを感じられる昔ながらの洋菓子を、ハーゲンダッツ流にアレンジした新シリーズ」。ナポレオンパイもレーズンバターサンドも一昔前からある定番のスイーツだが、同シリーズではその味わいをそのまま再現するのではなく、現代人の嗜好に合わせて進化させているのが特徴だ。
たとえば、昔ながらのナポレオンパイでは重厚感のあるカスタードクリーム、レーズンバターサンドでは重めのバタークリームとしっとりとした食感のバタークッキーの組合せが特徴的だったが、昨今のトレンドである軽めの口あたりのカスタードクリームや、サクサク食感のバタークッキーを参考に味づくりを行なったという。
ローソンも「定番回帰」で
カスタードにこだわった新商品を展開
コンビニ大手のローソン(東京都)では2021年より、①専門店監修商品(生クリーム専門店「Milk」、「パティスリー サダハル・アオキ パリ」、アップルパイ専門店「RINGO」など)、②冷凍スイーツ(アップルパイ、カッサータなど)、③定番回帰、の3つをキーワードに、商品開発を進めてきた。
このうち③の定番回帰をテーマに開発されたのが、21年9月に発売された「生ガトーショコラ」。カフェやレストランでおなじみのガトーショコラを、ワンハンドで食べられるコンビニならではのスイーツに仕立てた商品で、発売から約5ヵ月でシリーズ累計1700万個以上(21年2月末時点)を販売している。
またローソンではこの春より、「カスタード」にこだわった商品の展開をスタート。第1弾として、カスタードを使用したメニューの中でも人気の高いシュークリームとプリンに着目し、「生カスタードシュークリーム」と「埋もれるショートケーキプリン」(現在は販売終了)の2品が発売された。
「生カスタードシュークリーム」は、昨今のトレンドである卵感やバニラの香りをしっかりと感じられるカスタードクリームを特徴とする商品だ。こだわりのカスタードクリームの味を活かすため、シュー生地はあえて薄めに仕立てている。同商品は半年で販売数1000万個を目標に掲げており、発売20日間で600万個を突破するなど出だしは好調だ。なおカスタードにこだわったスイーツは、今後も新商品の発売が予定されているという。
「定番回帰」が求められる背景とは
また昨今、専門店が増え、お取り寄せでも人気を博しているカヌレも、古典的なフランス菓子の1つ。日本ではチョコレートやフルーツなどでデコレーションされたものも多く、SNS映えするのも人気の理由となっている。さらにニューオープンのパティスリーでも、前衛的な菓子に力を入れるよりも、フランスの古典菓子や、ショートケーキのような日本ならではの洋菓子を売りにする店が多い印象だ。
こうした定番菓子が増えてきた背景としては、ストライクゾーンが広いためターゲットを幅広く設定でき、またシンプルなスイーツが多いゆえアレンジがしやすいという売り手側の理由がある。それに加えて、コロナ禍で先行きの見えない不安やストレスの多い生活の中で、スイーツには安心感や既知のおいしさを求める傾向があるという消費者側の事情もある。売り手側と買い手側、双方のニーズがマッチした「定番回帰」のスイーツは、今後もさまざまな展開を見せそうだ。