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小売10社を取材!原価高騰、競争激化を勝ち抜く、コロナ後の総菜売場の作り方、徹底解説!

総菜大

総菜の重要性はコロナ禍でも変わらず

 コロナ禍で総菜を取り巻く環境はますます変化している。コロナ禍1年目の感染拡大初期は、食品スーパー(SM)など食品を中心とする生活必需品を取り扱う業態が特需を受け大きく売上を伸ばした。自宅で過ごす時間が増えたことから調理ニーズが高まり、生鮮食品の需要が伸長。また、感染を避ける観点から来店頻度が減少したことにより、消費者は1度の来店で大量にまとめ買いするようになったため、保存性の高い加工食品や冷凍食品も好調に推移した。

 こうしたなか、コロナ禍1年目にSMの部門でインストアベーカリーとともに苦戦したのが総菜部門だ。消費期限が短く日持ちがしないほか、衛生上の観点から揚げ物などの販売方法の主流だったバラ売りができなくなったことが一因とみられる。しかしコロナ禍2年目以降は、在宅生活の長期化に起因する「調理疲れ」や、国民のワクチン接種が進んだことによる来店頻度の回復などにより、総菜の売上は徐々に復活しつつある。

 もともとコロナ前から、共働き世帯の増加やライフスタイルの多様化などにより、簡便・即食性が高い総菜はニーズが高まっていた。また、SMにおいて自社製造する総菜は独自性を出しやすく、来店動機になるような魅力ある看板商品を開発できれば他社との差別化にもつながる。加えて、加工度が高い総菜は他の部門と比べて粗利を稼ぎやすいという利点もある。コロナ禍で一時的に不調だったとはいえ、今後も総菜がSMにおいて成長を牽引する重要な部門であるという認識は変わらないだろう。

 とはいえ、総菜部門には課題も多い。コロナ前から指摘されている人手不足や人口減少・高齢化、コロナ禍で生じた消費者のライフスタイルの変化、昨今さまざまなメディアで取り上げられている原価高騰など多くの課題をクリアし、継続性ある総菜売場構築のための商品開発や生産性向上、利益確保などを実現する必要がある。

PCを効果的に活用し生産性を高める

 このような課題を解決すべく、有力各社はすでに総菜部門の改革へ動き出している。近年深刻化している人手不足への1つの有効策が、プロセスセンター(PC)の整備による効率的な製造体制の構築だ。店内加工は出来立ての総菜を訴求するうえで重要だが、すべての作業を店内でやるには人時がかかりすぎる。PCは店内の人手不足を補えるほか、工場で一括製造するため生産性向上にも寄与する。徹底したオペレーションの標準化・効率化に強みを持つベルク(埼玉県/原島一誠社長)は、商品の特性に応じて子会社が運営するPCと店内製造、ベンダーへの外注を使い分け、効率的な売場運営に取り組んでいる。

 ライフコーポレーション(大阪府/岩崎高治社長)は多様化する消費者のニーズに対応するため、PCを積極的に活用している。たとえば近畿圏では、トレーが9つに分かれている「御膳弁当」は、以前は店内ですべてのおかずを詰めていたが、現在はPCで6マスを埋め、残る3マスは店内で調理した揚げ物や焼き物などを入れるという手順に変更し、作業の効率化と出来立て感の両立を図っている。

 また、商品を絞り込むことで1品当たりの生産効率を高めているのがバロー(岐阜県/田代正美社長)だ。同社の総菜売場を運営するバローグループの中部フーズ(岐阜県/纐纈(こうけつ)直孝社長)はコロナ禍を機に「強い商品づくり」に注力し、各カテゴリーの品揃えを絞り込む戦略を採る。お客の支持が高い商品だけを単品量販で売り込むことによって、多くの種類を製造する手間が減り、核となる「強い商品」に製造を集約することで生産効率を高めている。

価格に見合う付加価値を追求する動きが活発に

 最近では、飲食店で食べるような洋風・エスニックメニューや、味や品質を向上させた高付加価値商品の開発に取り組むSMも少なくない。その理由の1つが、異業態を含めた総菜市場の競争の激化だ。とくにコロナ禍ではテイクアウトサービスを開始する飲食店が増えているほか、「ウーバーイーツ」などのフードデリバリーの利用者が増加しており、家庭でも手軽に飲食店のメニューが楽しめるようになった。

 青果、精肉、総菜を品揃えするドラッグストアのGenky DrugStores(福井県/藤永賢一社長)は、強みの低価格を総菜においても強く訴求。子会社が運営するPCを活用し、SMやコンビニエンスストアからお客を取り込もうと、総菜の強化に乗り出している。「無印良品」を運営する良品計画(東京都/堂前宣夫社長)は、本社1階にオープンした小型店の「MUJIcom 東池袋」(東京都豊島区)で店内製造の総菜や弁当を提供する新サービス「MUJI Kitchen」を開始。今後も同サービスを小型店に導入していくとしている。

 こうした異業態を含めた激しい競争環境で自社・自店が消費者に選ばれるため、各社は総菜の味や品質向上に取り組むほか、大手SMを中心に各カテゴリーを深掘りした専門店風の売場を構築している店舗もみられる。

 また、直近で深刻化している原価高騰への対応としても、高付加価値商品が1つの有効策と考えられている。値上げが避けられない状況で、味や品質を追求することで消費者に高くても納得して買ってもらえるような商品を開発する必要性を感じている企業は少なくない。総菜コンサルタントの小関恭司氏は、「原価高騰がメディアで取り上げられ、消費者が値上げを容認する土壌ができあがっている今こそ、総菜を上質化し値上げするチャンスだ」と主張している。

 東京都と神奈川県でSMを展開する文化堂(東京都/山本敏介社長)は、エビをサイズアップし旧価格から100円値上げした「大海老天と5種の旨味天丼」(税抜598円)など改良した商品の売上が好調だ。こうした高付加価値商品が部門全体の売上を引き上げているという。

自社の総菜を新たにブランド化する企業も

(写真上)ヨークベニマルの総菜・ベーカリーの新たな統一ブランド「with mom」の売場
(写真下)コロナ禍ではほとんどのSMがバラ販売を中止している(写真はコロナ前のもの)

 人口減少・高齢化が進む日本では、より多くの地域住民を集客し、商圏シェアを高めなければ売上を伸ばすことはできない。ヤオコー(埼玉県/川野澄人社長)は近年、今後の消費の中心となる30~40代の若いファミリー層の集客に注力。ローストビーフ丼やナチュラルチーズを100%使ったドリア、フルーツタルトなど若年層に人気のメニューを積極的に開発するほか、全体的に少量の個食商品を充実させるなど、細かなニーズに対応しお客の支持を高めている。

 また、あらためて自社の総菜をブランディングし、お客に自社の総菜の認知度を高めるとともに、こだわりのポイントを訴求しようとする企業も出てきた。中四国・九州エリアで総合スーパーとSMを展開するイズミ(広島県/山西泰明社長)は2022年4月から、子会社で総菜の製造を担うゆめデリカ(同/阿部睦夫社長)とともに自社製造のこだわり総菜をリブランディングし、「zehi (ゼヒ)」というブランド名で商品の改良を進めている。また、ヨークベニマル(福島県/真船幸夫社長)は21年2月から、総菜・ベーカリーの統一ブランド「with mom」を立ち上げ、売場づくりも一新。なお、同社は22年3月に総菜製造子会社のライフフーズを吸収合併し、製販一体のビジネスモデルを追求すべく新たなスタートを切っている。

 本特集で取材・調査した10社は、いずれもアフターコロナを見据えてすでにさまざまな改革を実行している。今後の総菜戦略を考えるうえで、本特集をぜひ参考にしてほしい。

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