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“冷やしたビール”を売る必要性はあるのか  2020年代のショーケース刷新問題から考える

2020年代の産業界はカーボンニュートラルを理想に、まずは可能な限りの省エネ対策に邁進するはずです。食品スーパー(SM)とて例外ではありえません。対策として注目されることの一つが、店内に数多く配置されたショーケースでしょう。これをいかに省エネ運用するかですが、昨今は冷凍食品の需要が高まり、冷やさなければならないアイテムはむしろ増加中です。そこで求められるのは、冷やすべきか否か。カテゴリーごとに必要性に立ち返ったうえでの選択かもしれません。

2020年代にはこれまでの常識の見直しが進む?

ビールは冷やして売るべきか? 

 日本スーパーマーケット協会の川野幸夫会長(ヤオコー会長)は昨年末の会見で、冷蔵に関するヤオコーとエイヴイの違いに言及しました。ヤオコーで販売する缶ビールは冷蔵ケースに陳列しますが、ディスカウントストア(DS)業態のエイヴイでは常温で販売します。川野会長は環境に配慮したSMの運営スタイルとして、また電気代や作業効率などコスト的な観点からも、常温で販売できるものを冷やす必要があるのかどうか検討の余地がある、と指摘しました。

 確かに冷えていなくてもビールは売れます。個店レベルで比較すれば、冷やして売るSMよりも冷やさないDSの方がむしろ売れそうです。そもそもビールを冷やして販売することは本質的に無意味のようにも思えます。帰宅後すぐに飲むよりも、冷やし直す人がほとんどでしょう。また移動中に揺れるので、当日購入した缶ビールを開けると必要以上に泡が立つものです。飲む前に1日は安置しておくのが良いとされています。

 まして6缶パックを冷やすことの必然性となると、??? です。バーベキュー場の近くにある店でもない限り、実はニッチなニーズのために店舗のスペースを割いて電力を消費しているのではないかと思います。

 ビールに限らず、常温で物流しているのに冷蔵して販売する商品はあります。これらを冷やすかどうかで売場のレイアウトは変わってきます。一方で、冷やして売らねばならない冷食カテゴリーは確実に増えており、最近の店舗ではすでに売場の変更を伴っています。

冷やさねばならない商品は増加の一途

 チェーン各社の冷食売場は拡大傾向にあります。ヤオコーが21年10月に開設した旗艦店・和光丸山台店(埼玉県和光市)の話題の一つは、従来の2.5倍に拡大した冷食売場でした。各社の新店、改装店をみても冷食売場は必ずといっていいほど強化ポイントに挙げられます。

ニーズの高まりで拡大が進む冷食売場

 加えて、生鮮部門でも冷食の必要性が高まっています。かつてはチルドで販売していた商品も、冷凍の方がストックに便利と評価されるようになりました。干物やひき肉・バラ肉、ミールキットのような商品です。
 冷食売場が広がる以上、いかに省エネ運営するかが重要です。かつては扉のないオープンケースが一般的でしたが、2010年代には扉付きケースに様変わりしました。生鮮売場は今もオープンケースが中心ですが、冷食カテゴリーに限ればリーチインケースも多く見られます。
 生鮮売場の平型ケースに扉を付けるとなると、顧客の買いやすさからも店の作業性からも問題はあります。ただ、世の中がカーボンニュートラルに向けて多少の面倒も受け入れるというのであれば、技術とデザインで克服すべき課題になるかもしれません。

省エネだけじゃない! ショーケース刷新を要請する問題

 ショーケースに関わる環境対策は省エネだけでは片付きません。冷媒の問題があります。かつてはオゾン層を破壊するフロンガスが問題になり、代替フロンに置き換わりました。ところが代替フロンは、CO2の数百倍から1.5万倍も温暖化係数が高いことが問題視されるようになりました。日本を含む先進国においては、2036年までに代替フロンの生産・消費量を11~13年比で85%削減することが合意されています(モントリオール議定書キガリ改正)。中間目標として29年に70%削減という設定もあります。

 国内の状況を見ると、フロンガスからのスイッチが本格化した05年以降、代替フロンの排出量は19年時点で約2倍(CO2換算)に増加しています。温室効果ガス全体の排出量は13年をピークに減少していますが、代替フロンだけ増え続けている現状です。しかもガスの種類別ではCO2に次ぐ排出量です。(環境省・経産省「代替フロンに関する状況と現行の取組について」2021年4月より)

 この状況が放置されるわけがなく、20年代を通じて代替フロン冷媒から自然冷媒(ノンフロン)機器への置き換えが進むでしょう。自然冷媒とは、フロンのような人工化学物質ではなく、二酸化炭素やアンモニア、家庭用の冷蔵庫で使用されている炭化水素などです。スーパーで稼働中のショーケースは、台数的にはほとんどが代替フロン機器という現状なので、10年単位で見た場合の変化はドラスティックなものになるはずです。代替フロンの使用には漏洩管理などの義務が伴うばかりか、今後は代替フロンの製造自体も規制されていくため、使用そのものが困難になっていく流れにあります。チェーン経営を2030年代にも続けていくには、避けて通れない投資になります。

 ショーケースを抜本的に見直さねばならない以上、そこに何を陳列すべきか再考するタイミングかもしれません。この投資対効果を測るのは効率や顧客満足だけではなく、環境負荷も含まれるところが、2020年代ならではの問題です。