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PBはライフスタイル商品になる?イオンやライフが示す2020年代の進化

PB(プライベートブランド)と聞いてどんなイメージを抱くかは人それぞれですが、もし「NB(ナショナルブランド)代替の低価格品」と思うだけなら、それは二昔前の通念と言わねばなりません。おおよそ一昔前から「価格軸の3層構造」の時代が続き、2020年代は「価値の多軸化」が進行中です。どんな価値軸でPBを開発するか、そこにチェーンの考え方や主義主張が織り込まれる時代なのです。PB開発の流れを、その来し方から確認してみます。

PBや店舗ブランドとして拡大するライフの「ビオラル」

2010年代、異業種と戦うために3層化?

 2000年代までのPBは、総じてNBの低価格バージョンでした。中には付加価値型の商品もありましたが、思い返せば07年に誕生したセブン&アイ・ホールディングス(東京都/井阪隆一社長)のPBが「セブンプレミアム」を名乗ったとき、「PBなのにプレミアム?」と不思議に思った記憶があります。そのセブンプレミアムがすぐに画期になったかというとそうでもなく、翌年のリーマンショックからの景気後退では価格訴求のためのPBという役割はむしろ強まりました。

 ただその頃、PBのシリーズ構成として「低価格・スタンダード・プレミアム」の3層構造ができつつあったことも確かです。イオン(千葉県/吉田昭夫社長)やセブン&アイHDのPBはそうでしたし、当時の食品業界ではスタンダードに対してプレミアムと位置付けられるカテゴリーが確立しつつありました。これは00年代の半ば、ビールに端を発したムーブメントです。

 価格軸の3層構造がPBの基本構造として定着したのは、東日本大震災を契機に、コンビニエンスストア(CVS)でPBを購入することが当たり前になってからでしょう。CVSのPBがオリジナル商品として認知されると、カテゴリー的にも価格的にも食品スーパー(SM)と競合する部分が増えました。そうなると、スーパーも低価格だけではないオリジナリティのあるPB開発に力を注ぐようになり、その表現方法として「プレミアム」は重宝されました。

 また、低価格ニーズに対してはドラッグストアやディスカウントストアが台頭し、価格訴求に関しても従来より踏み込んだ対応が求められました。付加価値を武器にするCVSと、低価格を武器にする業態と、価格軸の上下から侵攻を受けた結果、SMのPBも価格の上下に先鋭化した商品群を形成するようになりました。

価格軸からライフスタイル軸へ

 2010年代は生鮮3品のPB化も進みました。魚や肉の加工品をはじめ、独自調達のブランド肉や、カット野菜・サラダ、バナナなどの輸入果実にPB名が冠せられるようになると、実質的にもNB代替の範疇に収まらなくなります。オリジナルブランドとしての意味合いが強くなると、その表現方法が「価格軸だけでいいのか? 」という問題も出てきます。チェーンのオリジナルであるPBは、顧客のニーズに幅広く対応するものなのに、いわゆる松竹梅の枠組みだけでその価値を消費者に伝えられるのか?という疑問です。

 3層構造ならではの課題もあります。低価格とプレミアムの間にある中間層が、ブランド価値的に曖昧になりがちなことです。とくにプレミアムがあることで、スタンダードの価値が一段落ちてしまう…。これが理由で、NBを席巻したプレミアムブームもピークアウトしていきました。

 消費者ニーズを価格とは異なる価値軸で追い求めるとき、登場してくるのがライフスタイル軸です。ここでは各自の消費スタイルを決める考え方を指すと思ってください。このライフスタイル軸で選別する商品は、「ある人は価値を認めても、別の人には無価値な商品」になります。消費者のライフスタイルは多様ですから、価値軸の種類も増えます。

 例えばオーガニックです。高くてもオーガニック野菜を選ぶのか、そこに価値を見出さないかは人それぞれです。添加物を使用する・しないもそうですし、糖質や塩分がどうこう、フェアトレードや環境保全を気にするかどうか、素材から作るのかミールキットを利用するのか、などです。これらを選ぶか否かは価格だけの問題ではありません。

うまい・安いだけが問題ではない

 PBは、ライフスタイル軸に合わせて多軸化を進めている真っ最中です。10年代の後半にはその傾向が現れていましたが、20年代に入ってからのコロナ禍で、流れはより確実なものになっています。これまでの価格の3層構造は、価値軸の基準を味覚だけに置いていたともいえます。「安くてうまい」がスタンダードなら、低価格シリーズは「より安く、それなりにうまい」、プレミアムは「値段は張るけど、よりうまい」を追求したものでした。しかしライフスタイル軸になると、購入はうまいかどうかだけでは決まりません。

 問題は味覚だけじゃない、という消費者の価値軸に対応する例は増えています。ライフコーポレーション(大阪府/岩崎高治社長)が、「ライフプレミアム」とは別に、自然派志向の「ビオラル」シリーズを走らせているようにです。

オーガニック&フェアトレードと多様な価値軸を織り込んだイオンのPBコーヒー

 イオンの「トップバリュ」では、さまざまなライフスタイルのニーズに対応していくことで、サブシリーズ化が進んでいます。ライフスタイル軸の商品は、人によって価値か無価値かはっきり分かれますから、それぞれの特徴を明確に打ち出そうとすればサブシリーズが増えていくのは自然の流れです。「トップバリュ」は、多様な価値軸に分化した各シリーズの総称に変わりつつあります。

 20年代の世の中は、地球温暖化で要請される環境対策にしても、高齢化で求められる健康配慮にしても、味でも価格だけでもない価値軸が必要な時代です。少なくとも消費スタイルの通念としてサステナビリティが常識化するまでは、PBのトレンドは多様な価値軸を打ち出すことで自己アピールする流れが続くように思います。